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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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72 ルナティックテスト・オブ・クリーム(6)

 あとがきに翻訳入れときますねー(日本語)


 どうぞ。

 あえて訊こう、と紳士はおどける。


「人生の答え……そんなことも知らんのか」

「分からないから訊いていると、そうは思わないのか」

「ふん」


 逃げろ、とばかりにあごをしゃくる紳士に促されて、セリューとメリルは近くの物陰に隠れた。そのまま、メタバースの方で情報を広めるためにログアウトする。


「“クリーム”。それが俺の答えだ」

「……どういう意味だ? 理解できん」


 前提を変えようか、と紳士は憐れむような声で言った。


「問おう。『なぜ人は、パンにクリームを入れたのか』。お前に分かるか? とても単純な問いだ、二秒で答えろ。ひとつ。ふたつ!」

「味を変えるため、ではないのか」


 ペースを持って行かれているのか、それとも真剣に考えているのか。二人の会話を聞いているものがあっても、理解はできなかったに違いない。


「その程度か……。哲学というものを知らんらしい」


 コツコツとわざとらしく足音を立て、手ぶりも鮮やかに紳士は説く。


「いいか? 神は人をお創りになるとき、この美しい形の中に醜い臓物を押し込めた。整然と乱雑、秩序と混沌。矛盾を重ねてひとつを作ったのだ」

「……お前は日本人じゃないのか?」

「人は、球に近い円というきわめて美しい形の中に、不定形でつかみどころのない形を閉じ込めた――俺は気付いた。人は、神に近付こうとしてこれを行ったのだ!!」

「それが、クリームパンだと言いたいのか」


 ああそうだ、と紳士は微笑む。


「空を飛べない人は、空を夢見た。パーツを組み合わせて命を作ることなどできない人は、そこに命を垣間見た。全能のパラドクスゆえ神は存在し得ないとしても、人は神に近付こうとする。分かるか?」

「人が、神に……」


 言葉のひとつひとつは耳に入り、成分として届いている。しかし、言葉全体の形が明らかにおかしい。


「であれば、何だ」

「パンにクリームを入れても命は生まれない。だが! クリームパンを生み出すことができた。人が何かを目指すたび、新しい何かが生まれる……! それがクリームだ。諦念の先には何も生まれない。毎日同じパンを同じ形で焼き続けてどうなる? そんなことに一生を費やしてきたお前に――クリームが入っていないことは、明白だな」


 ようやく理解の糸口に立ったところで、男は自分が罵倒されていることに気付いた。


「私の人生が、ただ無駄な繰り返しだと。そう言いたいのか」

「ああ、そう言った。なぜ人生の意味を問うのか? なぜそんな疑問が湧くのか、その答えは簡単だな。くだらんことを考える余裕がある、答えが出るほどの経験はしない、感受性も枯れ果てている。お前の人生がすり減ったルーティンだからだ」


 研究生になり、助教授になり、教授になり――地位だけは高く登っても、いつも同じ部屋で同じような資料を眺めて、師から受け継いだ地位を守るだけの日々。優秀な弟子候補がいるでもなく、独居の部屋に帰るのも億劫になりつつあった。ゲームを始めてなお、渇きは癒えていない。


「ならば、その答えを証明してみせてくれ。クリームとやらを、見せてくれ」

「はぁ……本ッ当にバカだな。呆れたものだ」

「なに?」

「ウドの大木は樹じゃない、喉から手が出たりもしない……。それなりに教育水準は高いようだが、比喩は解釈して初めて機能することも分からんのか」


 いきなりはしごを外した紳士の内実は、紳士などではないようだった。


「美徳、あるいは理想。人の宿すもっとも尊い輝き。クリームパンに入ったクリームのように……尊いものがなぜ尊いのかの答えになり得るそれを。聞いて理解しようとしなかった時点で、ダメだな」


 つまらなさそうに、タキシードの紳士は両手を広げた。


「俺にしてやれることは何もない。お前には何も伝わらない」

「ただ愚弄しただけで終わろうと、そういうのか」


 カードからとくに懐いてもいないモンスターを出し、手にカードだけを持ち、紳士はかかってこいとばかりに指をくいと振った。


 瞬時に距離を詰め、振り下ろした剣を――しかし、紳士はかわさない。


「どうした? 俺は何もしていないぞ」

「なぜ何もしない。なぜそう、意味不明なことばかりをするんだ」

「お前は日光浴のために海に潜るのか? 戦う意味はとくにない、だから何もしない」

「……意味がわからん……」


 ずぶりと心臓を貫き、赤い温度を感じる。奇妙な仮面のせいで口元以外は表情が分かりづらいが、何の感慨もないようだった。


「なぜなんだ……」

「敗北も死も、そこに意味を見出さなければ意味を持たない。あの女二人が逃げ出して、お前は何を思った? 自分が強いから逃げたと、答えられなかったから論破したと、そう思ったのか」


 ゲームの中では、痛みや窒息などの感覚はキャンセルされている。腕足を失おうが心臓が奪われようが、苦痛を感じることはない。だとしても、恐るべき精神力だった。


「言い捨てて、体が消えるだけで逃げるのか。それは敗北ではないのか?」

「ハハハハハ……! ああ、俺は負けた。それがなんだ? お前は勝てていない。クリームが入っていないがゆえに、お前はいつか負ける。クリームの入った相手にな」

「だから! クリームとは何なんだ!!? お前は何が言いたいんだ!!」


 剣を振り抜き、ヒトの形を失くして地面に散らばる肉塊に問うた。


「佯狂に意味を問うな、取り込まれて終わりだ」


 狂っているふりなどするな、と肉塊は嘲笑う。


「自分の内にある穴に、自ら堕ちてどうする? 帰ってこい、常人」


 降り出した赤い雨に、肉塊は溶けていった。




 ゲーム内だと、RPにマジレスする人ってあたおか扱いなんですよね。MMOなんぞ楽しんでなんぼなのにさぁ……という、ガチRP勢なクリームなりの冷酷な助言。「佯狂に意味を問うな(ロールプレイに「何のキャラですか?」って本気で聞くなよ……)」はガチで本当にそうなので、「あっそういう……?」くらいにしておきましょう。ネカマに「男の人でいたくない理由があるんですか?」って聞くくらいバカ。ないよそんなの。


クリーム語→日本語訳(要約)

「人は理想を持って美徳に生きるべき。そうすればきっと素晴らしい人生になるよ! ってオイ、お前頭いいんじゃないかいっ! はーカッス、自己満のくせに満足してないとかカッスぅ……とりあえず中二病治そっか?」

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