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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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71 ルナティックテスト・オブ・クリーム(5)

 どうぞ。

 異様な気配を察したセリューとメリルの前に、黒いフードローブの男が降り立った。


「……」

「やる気だよ、この人!」


 右手に壊れた手錠がはまった壮年の男は、剣を抜いた。そして、そのまま振りかぶる。金属音が遠くから、近くからも聞こえる。意志の証はいくつもあるようだった。


「メリちゃん、やろう!」

「しょーがない、これはやるしかないね」


 二人は無難に【賢者】を選んだ、まとも側のプレイヤーである。


(相手は【使徒】だよね。強い、はず!)


 これまで受け止めてきたような、恐るべき衝撃を覚悟したセリューはしかし……あまりにも軽い攻撃を、盾で止めることになった。


「え?」

「なに、今の音?」


 炎の魔法を飛ばしたメリルは、かんたんに燃えたローブに困惑している。


「え、は……か」

「イベント?」

「人生の答えは、何か。君たちには、分かるか」

「あれっ、これって」


 先ほどから聞こえていた金属音の正体は、いくつもある意志の証だった。左右にある鎖の千切れた手錠、首に巻いたイバラ、おもり付きの足輪。意志の証をふたつ以上付けると、レベルアップに必要な経験値が50%ずつ増えていく……+150%=ふつうの2.5倍は、かんたんに稼げるものではない。NPCのほとんどがひとつしか付けていないのは、そう生まれたからだが、追加しようというものがいないこともまた事実。これは、この世界の常識なのだ。


(この人、バカなの……?? 四つも意志の証あっても、意味ないじゃん)


 絶対領域にサメの刺青ひとつで満足したセリュー、胸元に図案化したハートマークを入れるのみにとどまったメリル。チュートリアル時には解の説明がなかったとはいえ、たとえ「必殺技が増える」と言われても、レベルアップが人よりも倍以上遅くなるなど、話にならない。


 だが、しかし。


「弱くない?」

「ううん、ぜんぜん弱くない……」


 レベル四十程度の〈戦士〉と〈魔術師〉が幾度も攻撃しているにもかかわらず、ほとんどダメージを受けていない。ローブが燃えたのは、装備の品質が低すぎたからだろう――何かがおかしい。


「“彼ら”は、人生の答えを持っている。君たちは、持っていないのか」

「何言ってんの、この人……!」


 剣の動きが遅いわけではなく、単に威力が低い以外には考えられない。技量はこちらとどっこいどっこい、素人の手慰み以下だ。そうであっても【使徒】ならば強いはずだが、数字さえ積み上げていないのなら、素人より上にはならない。


 何か大きな違和感が、喉でつっかえている。


(防具がちゃんとしてる、じゃない。燃えたし。本体が強かったらもっと強い。それに、なんかもっと……)


 彼女が見た【使徒】の戦いと何が違うのか。それは、もっと――


「ねえメリちゃん、こいつ特技使ってないよ!」

「どーりで地味だと思った!」


 派手なエフェクト(・・・・・・・・)


 潤沢なMPと輝かしいまでに壮麗な装備は、一挙一動が光輝を振りまく。それに比べて、薄汚れた衣服と黒っぽい鎧は、ちっとも派手さを感じない。一度だけ見たことのあるディリードのように、立ち姿さえも威圧を放つほどの恐ろしさもなかった。


 言葉にした次の瞬間、剣が加速した。キンッ、と聞こえたそれに遅れて、盾の一部がずるりと落ちる。


『メリちゃん、縛りだよ! ふつうの攻撃がめっちゃ弱くなって、たぶん最大MPとか貯まる速度とかも遅くなってるんだよ』

『そっか、常時発動型の解! 意志の証増やしすぎるとめっちゃ弱くなる、代わりにそういうの出てくるって聞いたことあるぞい!』

『先に言ってよぉ!?』

『ごめんね……』


 いったいどんなジョブなのか、拳が光をまとって幾度も激突してきた。盾での防御を突き抜けて、本体にダメージが入る。特技は一回しか使えない切り札ではない、いくらでも使える手段のひとつだ。不意打ちを逃したとはいえ、特技の威力が増していることには違いない。


(やばいよー、誰か助けて……! というか、もっと強い人から狙ってよー……)


 正式な決闘ではないため、ダメージレースでどちらが勝っているのかは不明である。


「答えてくれ。人生の答えを、持っていないのか」

「意味わかんないって! 何が言いたいのさ」


 高校生のセリューも、OLに慣れてきた頃合いのメリルも、そんなものは持っていない。生きていて、そんなセンチメンタルなことを考える機会などそうそうない……そもそも、ゲームの中でそんなことを問うこと自体間違っている。


「空疎な人生の中で、何をするべきなのか。ここまで生きてきてなお、私には分からない。かの狂信者たちも、あいまいな答えしか返さない。なら問うほかにないだろう」

「ごめん、本気で意味わかんない」


 目的のためにある行為として、ゲームに人生を求めるのは、最大の間違いだろう。見つけることはあっても、探すことはできまい。


「今日は――ん?」


 ログインしてすぐ、フレンドがいるかどうかを確かめようとしたのだろう、ホロウィンドウを開こうと手を空中にやった男が現れた。


「敵か。イベントボス」

「人生の答えは、何か。君には分かるか」

「ああ」

「え」


 セリューは、間の抜けた声を出した。


「え、あの……え?」

「教えてやる。人生の答え……それは、“クリーム”だ」


 チョコレート色のタキシードに身を包んだ男は、そう言い切った。

 化け物には化け物ぶつけんだよ!(なお

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