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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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66 賢者の思惟:知見動三則順守のこと

 どうぞ。

 酒場のオープンテラスで、ふたりは飲み物と食べ物を注文しまくったあと、机に突っ伏していた。


「いやー、すンごかったですなー。追い付けないわ」

「すごかったですよね……。レーネさんは教え方ていねいで、ありがたかったです」


 メリルとセリューは、とっこにスカウトされて先日の「即興で未踏破」配信に参加した。あまり目立つことなく、順当にそれなりの戦闘をして、ただボスを倒すのみにとどまった。フィエルのカメラに映った濃い連中のように「この人はアマルガムらしい」と認知されるでもなく、背景で終わっている。


「残念会楽しもうぜー。はふぅ……」

「ですね……なんかもう、次元が違いすぎて」


 セリューも、チュートリアルは消化して、メイスと盾という武具の扱いは習得した。しかし、武器や防具の根本的な扱いがまったく違う。刀というモノひとつを見ても、一度振るうたびに二度、三度と切ったり吹き飛ばしたりしている。メイスという武器、盾という防具、それらを扱う技量――ではなく、発想力が違いすぎるのだ。


 強くなるにはどうすればいいか。レベルを上げ、装備を整え、技量を鍛え……やることは山ほどある。しかし、頭の中にあるタスクすべてが消化されたとしても、あの遠く輝く理想に追い付けるビジョンが浮かばない。


「あ、見た人いる」

「んー、どこどこ」


 同じように配信に出ていたアマルガムの誰かが、一人で歩いていた。


 否、何かを連れている。


(あれ、なんだろ……? エーベルって、モンスターの連れ歩き禁止だった気がするけど)


 何か奇妙なものを感じながらも、セリューはそれを見逃した。




 一方その頃、四大ギルド「ミルコメレオ」の拠点のひとつで、疑似学会が行われていた。


「以上です。いまだ検証が待たれる内容ではありますが、投資の価値はあるかと」


 メガネと白衣という、非常に記号的な恰好をしたアルトマンは、形だけの拍手をした。


(失敗作を量産してプロパティ計測をし続ける作業ですか。自分では楽しいのかもしれませんが、負担が大きすぎる……採用はできませんね)


 つい内心でまでキャラづくりの敬語を使いつつ、次の発表を聞く。


「住民に徹底的な聞き込みを行い、たくさんのクエストを受注しました。それら報酬のリストと経験値から、誰からのものであれ、“クエストを受諾するリスク”そのものは低いと判断します」

「その情報は再論ではありませんか? クエストの評価ランク付けの段階で出ていた話題であるように感じますが」

「いえ、本題はここからです」


 野次のように飛んだ言葉を切り捨てて、首元に刺青のある【賢者】は続ける。


「それらクエストの中から、住民のうち死者に関するものをピックアップし、付近で現れた「アイテムを拾う」性質のあるモンスターと照合しました」


 資料がホロウィンドウに広げられ、真っ赤なピンが大量に刺さった地図が表示された。


「結果、死者の推定死亡地点とそれらモンスターの出現地点は、ほとんど重なることが分かりました。大きく移動していたこの三つは、移動速度が速いか、新たなスキルに目覚めていたものと確認できています」

「ふむ……面白い見かたですね」


 近くにあるアイテムを拾い、それらを取り込んだり使ったりするモンスターは少なくない。高い知能を誇るゴブリンやリザードマン、何でも食べるスライムや箱にものを入れて変化するフォルスアンサーなど、多数が報告されている。


 であれば、プレイヤーや住民が遺したアイテムを取得することはあるか、それによって強化されることはあるか。そこに興味関心が向くことは必然だが、調べようというものはなかった。徹底して調査したというだけあって、ほかのギルドの協力も得ているようである。


「モンスターの生息域データと照らし合わせた結果、いくつかの未発見事例はスライムとフォルスアンサーに集中しています。これは、先に発表のありました「モンスターの種別による進化可能性の大きさ」に基づいて、より強力に進化したものは、すでに別の地域へと進出を始めているものと考えられます」


 ひとつ、赤の星がある。


「その星マークはなんですか」

「ベルターの街でもっとも強かった戦士の推定死亡地点です」


 どうやら街にいる時点で何かの影を感じており、その何者かと交戦して死亡、しかし遺品はひとつも見つからなかった――計画的に排除されたのか、それとも何かと出会ってしまったのか。


「待ってください、ベルターを滅ぼしたのは」

「ええ、「沈療死施」です」

「であれば、彼らの遺品も無くなっているのは自然では?」

「この地点には空間の亀裂がありました。戦闘時間が相当長引いたか、ここで意志の証を完全に破壊されたものと推定されます」


 話の流れがひどく不穏になってきた。


「この地点で、レベル60相当の装備を取得したモンスターが誕生し、空間の亀裂を通っています。さらに、一連のクエストはまだ連続しているものと推測されますので」


 短髪の男は、告げる。


「エーベルあるいはベルター付近に、異常進化を遂げたモンスターが突然現れるものと思われます。空間の亀裂を通って現れるため、街の存亡をかけたクエストになるでしょう」


 よく調べられた発表であり、一大イベントの予告であるにもかかわらず――いっさい拍手が起こらず、沈黙のみが場に満ちていた。

 前回より大学っぽいと思う……いや、私はすっげー偏差値低いとこ行って卒業もできなかったんで、こんなん見たことないけど。あ、データを置いておきます。



「フォルスアンサー」

 有名な「創材の有無」になぞらえて作られた錬金生物。全体的には箱のような形をしており、中に入っているものによって性質が変わる。MPを消費して中に入っているものを複製し、外に取り出して使用する。




「創材の有無」

(ことわざ:~を問う、~を気にする)


 真剣に考えるようなものではないことのたとえ。


 古代、神学で語られた「神が世界を作ったとき、その材質はどこから来たのか?」について、あるものは「混沌をこねて作った」としたが、議論は「その混沌はどこから来たか」に発展した。やがて「無から有を作り、その有無を反転させるチカラを持つものが神である」といったところまで話題が逸れ、答えが出たのか出ていないのかがあいまいになってしまった。


 そこから出たことわざとして「議論をややこしくする質問」「超越者の超越者たる証」という意味=「真剣に考えるようなものではない、どうでもいいこと」として使われるようになった。これを言われたら「黙れ」あるいは「知れたこと」の意味であると考えられるので、質問を続けるのはやめよう。

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