64 もんげんこわい/鬼が笑う、人は算盤を弾く
そのまんまです(意味不明)
どうぞ。
『どうしたの、止まっちゃって』
「倒すのが目的じゃないもん。無理なら倒すけど」
もうちょっと穏やかな方法がよかったけど、結局戦うことになってしまった。
「ここには仲間探しに来たんだ。仲間になってくれない?」
ツツ、ツッとチャンネルを合わせるような音がして、言葉が聞こえた。
「あなたは【愚者】、わたしは【賢者】。仲間でいられるでしょうか」
「私の仲間、全員意志違うよ。だいじょうぶ」
「言葉は通じるのですね。それに……強い」
「ふふっ、もっと強い人いるよー。何が欲しいの? できるだけ、叶えるよ」
完成、と金属的な少女の声は言った。
「わたしたちは欠落を持って生まれます。完成に近づきたい……そう、思っています」
「じゃあ、ここから出よう? いつか私たちを倒せるくらい、完成しようよ」
「奇特なことをおっしゃるのですね。死ぬ覚悟がおありですか」
「私たち、死なないから。私を倒して逃げてもいいよ、倒しに行く」
ならば、と伸ばされた手を取る。鎖を解いて、相手を着地させた。
[「司編の銀姫フィーネ」と契約しました]
いぶし銀になっていた全身から錆びが取れて、銀色に戻っていく。女性型の美しい銀細工は、魔法が解けたチーズケーキ風の道化師にひざまずいた。
「あなたの完成も欠落も、そばで見届けましょう。輝きを増すために」
「これからよろしくね。あなたが完成するまででもいいよ」
『度量が広いんだか、無茶に飛び込んでるんだか。奥に進むわよ、二人とも』
「あ、そうだった。行こう?」
戦いが終わったからか、音もなく通路が現れていた。水流に沿った穴のわきに、無理やり作った足場のような道がある。三人でそこを通って、さっきよりも広い部屋に着いた。どうやらここが水源地だったようで、透明な結晶の板でフロアが形作られていて、その下には清水が湧き出る泉がある。
フロアの入り口とは反対側に、とても簡素な祭壇があった。ただの四角い岩、何かを乗せるんだろうけど何も載っていない。ただそれだけの祭壇に、天井からしずくが落ちた。
『我が作品を手懐けるとは、見どころのある旅人よ。外なるものにも、居着いたただ人にもできぬこと……よくぞ成し遂げた』
「ふふん、たぶん初だよー。もっとほめて」
『だが、持ちだすことはまかりならぬ。あと二万年はかけねば、我が子と呼ぶにふさわしい出来にはならぬのだ』
「……長くない? それに、我が子って」
水が結晶化……じゃなくて、異様なエネルギーを蓄えた固形になって、そこにどんどんと水が集まっていく。ものすごく大きな水の球体と、水でできた四神の出来損ないみたいなものが、瞬く間に完成した。
『ワタシと相性悪そうじゃないかしら?』
「水で水止めるの、お願い。フィーネは……」
「親を超えてみせましょう。似ても似つかない人に娘呼ばわりされるのも、困りますので」
「りょーかい。じゃあ」
「ってことがあって」
「珍しいなぁ、アカネが夜更かししちゃうなんて……」
我が家に「メタバースからの門限」なんてないけど、いつもなら寝ている時間にまで食い込んでしまった。ボスは思ったよりすんなり倒せたけど、街に戻ってすぐに慌ててログアウトしたので、事後処理がぜんぜん終わっていない。
同じベッドに入って同じ布団をかぶりつつ、横並びでおはなしをしていた。
「テイムモンスター、見つかったの?」
「うん。銀細工のモンスターで、フィーネって子だった」
「フィーネ……かぁ。アカネが仲間にするくらいの強さ、楽しみだねぇ」
「めちゃくちゃ強かったよー。イデアイドラってモンスターのカード、変身に使っちゃったくらい」
「えぇっ!!? イデアイドラって……!」
やっぱりかー、とちょっとだけ焦る。
「えっと、TTで買ったんだ。誰も買わないからってことで、二万くらいで譲ってもらって」
「二万!?」
何があったのか、詳しく聞いてはいないから、本当のところは何がどうなってああなったのか分からない。全然買っていく人がいなかったのか、安く譲ると恩を売れると思ったのか……商売人なりの考えがあるのかもしれない、と勝手に思っていた。
「そういえば、ミルコメレオにも情報買いに行ったんだよねぇ……いくら払ったの?」
「三十万ディール……」
何に使ったの、とこっちを向いたアンナがほっぺたを左右から押さえる。
「イデアイドラの使い方、カフェにいた全員で議論してもらって……」
「あぁ、うん。それは妥当かも」
「いいんだ?」
「いいよぅ。“フィエル”にしてほしいこと、コネ作りだから」
まだ十八歳なのに、配信者として活動していたり、バーチャル・インテリアで儲けていたり……あちこちでビジネスをしているから、こういう計画性も強い。
「それでそれで? 考えることめっちゃくちゃいっぱい! って顔してるよぉ」
「あの「水心求道」ってボス、スキルくれたんだ。やっと器用活かせそうなの」
「へぇー……へー。詳しく言わないってことは?」
「ふっふっふ。明日見せてあげるね」
見たらきっと驚くだろうな、と……くたくたに疲れた脳が回ったのは、そこまでだった。
ボス戦を飛ばした理由は、私も門限破りで締め出された経験があるからです。ちょうどスズメバチが飛んできたかと思うと、バラに引っかかって羽が破れこっちに歩いてきてですね……死ぬかと思った。いやほんとなんですよ、こんなピタゴラほんとに起こったんですよ。近くの会社から帰る人が「可哀そうじゃないですか?」って呼び鈴鳴らしたりもしてたっけ。
次回登場するスキルは……これ扱ってる人いるんやろか? 知ってたら次回でいいんで教えていただけると助かります。




