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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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62 真白き繭の開くとき

 どうぞ。

 自然洞窟に入ってからの敵は、レベルがぜんぜん違った。〈ウィ・ザード〉で召喚した悪魔は、コストの大きさで召喚時間も長くなるみたいだけど、ギリギリになってきている。


『次をご用意なされよ。主どのだけでは勝利は得られませぬ』

「言われちゃうとショックだね……」


 ほかに手段がないわけでもないけど、ちょっと挑戦が過ぎるような気はする。悪魔がいるから倒せた危なめのスライムもいたし、胸の部分が浸食されて強化したゴーレムもいた。蛇やトカゲや巻貝、コケ玉までいたけど、分身が攻撃を受けて消滅してしまうことも多かった。〈アクセルトリガー〉があってなお、速度負けし始めているのだ。


「えーっと。ドロップ品の強いやつ……」


 モンスターは「自分の性質に近いもの」「持ち物」「体の一部」のうちどれかを落とす。このダンジョンのコンセプトは「人造と自然」で種類は鉱石系、道具を持っているやつもいっぱいいた。ゴーレムに刺さっていた剣やスライムが落とした分銅付きの鎖を、インベントリの取り出しやすい位置に配置しておいた。


「武器けっこう落ちてるけど、うーん」

『いかがなされた。数は少なくないはず』

「私、ふつうの武器とか武術とか知らないんだ」

『……であれば、曲者を使われるがよろしい。何であれ、慣れぬ技には面食らうもの』


 何を使うべきなんだろう、と考える基準に、今持っているカードを合わせることにした。たぶん、このダンジョンをクリアするまでに、また【おもてさかさま情転図(ローリング・ロール)】を使うだろうから……そのときに強い、ちゃんと使える武器を出した方がいい。


「あ、ごめん。進まないとね」

『申し訳ない、こちらはここで消えるようだ』

「ごめんね……」

『カタチを授かっただけでも、魔界のものには僥倖であろうよ。では御免』


 そうして、炎の悪魔は消えてしまった。やっぱりこっちとは価値観が違うなぁ、とひとりごちる。


 立ち止まってから、大事に保管している封印カードをいくつかピックアップして、ひとつに決めた。そして、それと合わせる悪魔を呼び出すための武器も、インベントリの手近なところに置いておく。


「……よし!」


 あちこちに灯り代わりの水晶が生えた洞窟で、私は次の一歩を踏み出した。




 悪魔とのコンビ戦では、騒音がすごかったせいか、敵がどんどん追加されていた。何体かは封印したから、これからの戦力や商売に使ってもいい。前の「時間鏡面」みたいに敵の数に上限があるのか、敵はほとんどいなかった……巻貝やトカゲは逃げるようになったし、追いかける気もしない。


 逃げる敵だって強いし、だんだんとこっちのストックが少なくなってきている。一番か二番目に強いであろう何か、「完成形」がまだ出てきていない。ダンジョンボスには負けてもいいかなと思ってしまっているけど、テイムモンスターは絶対に欲しい。


 歩いている道が、徐々に末広がりになっていく。神社の鳥居みたいな、段階的に最終地点に向かうための過程……対になった結晶体が、ずっと連なっていた。


「なんか出そうだなぁ……」


 ひときわ広くなっている……差し渡し五十メートルをはるかに超える部屋の中は、水上に建設された岩造りの舞台になっていた。青白くて濁った岩と、食い合うように混じる不思議な緑色の岩。表面仕上げもすごく綺麗で、天井が反射して見える。


 明らかに何かいそうなのに、何もいない。天井にも何もいないから、いったい何があるんだろう、と舞台まで足を踏み入れた。まだ何も起こらない。足場は続いていないけど、どこかに続く出口や、水が流れ込んだり出て行ったりする通路もある。ああいうところから何か出てくるのかな、と思って水面に触れると――


「あれ、なんか粘度高い? 氷水か泥水みたいな……」


 常温の氷みたいなものが、すくい上げた手にあった。いくつか手に当たったものを持ち上げてみると、不定形で透明で、押しても潰れない石ころだった。水に浮く重さなのかと思いきや、よく目を凝らしてみると、水流に乗って移動している。


 何なんだろう、と思って水の底をのぞき込んでみると、透明な石ころが集まりすぎて白っぽくなっている、何か丸いものがあった。


「……どうやって起こすんだろ」


 タマゴのように見えるけど、石ころを投げても、流れている石ころが邪魔でちゃんと届かない。イチかバチかと思って〈プリズムスパーク〉を使ってみたけど、雷はまったく届かなかった。これで起きなかったら、何もできないのではと思ったけど……次のアイデアが浮かぶ。


 腰をとんと叩いて、仮面を入れ替えた。レモン色の右目がのぞく、ブーツと聖堂とペンギンの仮面「潜靴堂裏」。武器の性能を高めてくれる解を使って、杯の性能をさらに高めるのだ。


「えっと、これで……」


 杯から真っ赤な美酒を出して、ハットに振りかける。現実でやったらシミ取れなくなるよね、と思いつつ拡張された〈大きく開けて?〉を使い、ゴーレムが落とした中でもいちばん質のいい宝石を取り出す。そして――


「全部あげる」


 ハットの入り口に水と石ころを当てて、そう指示を出した。真っ黒い虚無がグワッと広がって、投げ込んだ宝石を中心に、舞台以外の水をすべて飲み込んだ。一瞬の無音を経て、数か所から水が流れ込む音と、石ころがコロコロいう音が聞こえだした。


 水底にあった石の繭が、ふわりと浮かび上がった。雷は完全に無視されたのに、こっちは無視できなかったみたいだ。すうっと舞台の中央に降り立ったそれは、内側からコツコツと叩かれ始めた。繭に見えたけど、もしかしたら卵だったのかもしれない。


 同じように、水と石ころを食らい尽くした穴は、〈ウィ・ザード〉に設定された通りに悪魔を生み出す。水の円環がふたつ、天女の羽衣みたいな水流がひとつ、本体はガラスでできたグラマラスな女性……きらきらと虹色の光を放つ悪魔は、まるで水の女神のように見えた。


『あぁ……綺麗なカラダをくれてありがとう、ご主人さま。自分で自分にうっとりしちゃうくらい』

「詰め込みすぎたりしてない? 重くなければいいんだけど」

『あは、密度は力よ? カノジョを持ち上げられないオトコなんて、フってやればいいじゃない。女同士なら別だけど』

「あっちも女の子なんだねー」


 あのメガネの店員さんが言っていたこと――「人造物をはるかに超えた完成度の自然物がいるはず」という予測は、見事に的中していた。ぱらぱらとこぼれる石ころの中から、それが歩み出てくる。

 全体的にはすごく繊細な細工物で、あちこちに宝石が配置されている。莫大な量の魔力が流れているのだろう、まるで血管の模式図のように、編み上げた金属のひとつひとつに魔力のラインがまとわりついていた。


 人型の銀細工は、一歩を踏み出すごとに全身を完成させていった。蛹の殻を脱ぎ捨てたチョウが、羽を伸ばして美を誇るように……明滅する蒼い炎と紫の炎が、瞬間的に結晶化していく。剣のような槍のようなものを両手に作り出し、すらりとした脚を作り出し、銀細工に覆われたズルいほど美しいボディーラインができあがっていく。胸の中央に空いた穴に真っ赤な宝石が完成し、それは快楽に打ち震えるように天を仰いだ。


「……私より胸おっきいかも」

『一つだけだから、おっぱいじゃなくて柱じゃないかしら』

「それもそう、かなぁ」

『嫉妬するようなカラダじゃないでしょう、アナタは』


 言われてみればそうだった。


「じゃ、メイクアップしちゃおうかな!」

『……いま満足する流れじゃなかったかしら?』


 ツッコミを食らいながらも、私はカードを取り出した。

 登場演出ばっかでごめん、どーしてもやりたい場面がありまして……

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