60 ドリーミング・アルジェントブレイズ
なんか「前段階のやつ」出すのって難しいっスね……
どうぞ。
三十万ディール(うちドリンク代四百ディール)を払って手に入れた情報は、これまた未攻略ダンジョンのものだった。
「さっきと似てるけど……下向き?」
どんどんと地下に潜り、鉱物の混じった敵がどんどんと純度を上げていく「エデリオ潜光道」。地下に掘り進めていった坑道と自然の洞窟がぶつかり、出てきたモンスターと使われていた技術が融合した結果、とんでもないことになったらしい。坑道にいるのは岩をくっつけたマスコットみたいなモンスターばかりだけど、もっとちゃんとしたゴーレムや、岩ではないゴーレムもいるらしい。
私が探しているのは、ここで見つかった最強のゴーレムより強いやつ……「ミルコメレオ」の頭脳を結集して、おそらくそういうものがいるだろうと予測されている、「人の技術と自然の鉱物、両方を超えたモンスター」だ。
――いいですか。ダンジョンの深さに合わせて、コンセプトは同じでも強さや姿が違うものが出てきます。小さなキノコ、中くらいのキノコ、大きなキノコやキノコが生えた樹といった具合に。
――「エデリオ潜光道」のコンセプトは「人造と自然」。最初に雑なつくりの岩人形が出てくるのなら、どんどんと完成度が上がっていくはずです。金属や宝石の割合も増えていくのなら、最終的にどうなるかは分かりますね?
――そう、「人の手を超えた完成度を誇る自然の産物」です。自然の産物が被造物のように見えることもある、ああいったものでしょう。
「どんなのなのかな。あんまり具体的なワード出てこなかったなぁ」
自然っぽいゴーレムだけど完成度が段違い、のようにも聞こえるけど、それだけではない気もした。人の手を離れた何かなのか、人間では届かないものなのか。ちょっと知りたい気もするから、警戒はしつつ足早に入った。
道中にいたのは、泥や粘土みたいな人形、石ころを人型に並べたような人形、ヤドカリや巻貝あたりのモンスターだった。どれもこれも瞬殺できたし、そんなにアイテムも落とさなかった。魔石もひとつも落ちていないから、ジョブのリストにもないみたいだ。
「けっこう進んだけど、まだ人の手が入ってるみたいだし……」
坑道は、あちこちに木組みの柱が入っている。突然の崩落を防ぐためのもののようで、同じように湧き出した地下水を流すための溝も掘ってあった。すこし高いところに掘った横穴には、光る結晶が置かれていて、それを灯りにしているようだ。資料をくれたあのメガネの店員さんいわく「基本に忠実な構造」らしい。
青白い光や緑っぽい光の中を、ゆっくりと歩く。灯りの色のせいか、狭い洞窟でもそんなに不安はなかった。なんだかんだで、私の身長よりも高いモンスターが何体も出てくるせいか、スペースもある。
「……ん、音?」
鋲付きのブーツが階段にぶつかるような音と、空気を切る音。踏む音と切る音が続けて聞こえたかと思うと、小さく体を動かす音がして、もう一度踏む音と切る音が聞こえてくる。何をしているんだろう、と思って、できるだけ静かに近付いた。靴がハイヒールだから、音は完全には消えない……抜き足差し足に全力を尽くす。
坑道の横道をのぞき込むと、そこは天然の洞窟が人力で広げられたような、ドーム状の空間だった。
「あの痕、斬ったのかな……?」
まだ続いている音の方を見ると――それは、素振りだった。
踏み込むと同時に振り下ろす、そしてもう一度下から振る。元の位置に戻ったかと思うと、また始める。一連の動作が完璧で、プログラムされた動きをそのまま繰り返しているような、機械じみたものさえ感じた。
全身が銀色で、結晶のような部分と人型に組んだような部分、ふたつに分かれている。素振りに使っている、剣のように見えた何かは、よく見ると少しずつ伸び縮みしていた。見ていると、頭上に「銀刃の煌騎」という名前が出てきた。
もう一度振り下ろしたそれを止めて、銀のゴーレムは剣をじっと見る。そして、こっちを見た。銀の揺らぎの中で、角度が変わってこっちが映ってしまったようだった。剣帯のような部分に剣を留めて、ゴーレムはこちらに向かって少しだけ歩き、「来い」とばかりに試合でも始めそうな距離を指さした。
「えっと……」
情けない入場だけど、小さめの入り口からさっと入って、早歩きで示された場所に立つ。相手が何かを言うことはなく、手を伸ばしたかと思うと一礼するようなポーズを取った。こちらも同じように――と思ったら、なぜか止められる。
「な、なに……?」
ゴーレムの表面は液状に揺らいでいて、何かが浮かび上がってくるような動き方をしている。銀色の表面、手の甲に赤い宝石と、胸の中央に紫の宝石。
「【常人】!」
そちらは、とでも言うかのように、ゴーレムは落ち着き払っている。こめかみに付けた仮面を外して手のひらに置き、バニースーツの腰あたりを調節するひもに付けたもうひとつの仮面も見せる。
深くうなずいたゴーレムは、ゆっくりと後ずさりして剣を掴み、居合いのような構えをとった。すこしだけ距離を取ると、ゴーレムは胸にある宝石を指差す。まるで、今すぐにでも解を使うぞ、と言わんばかりのしぐさだった。
「そっちがそのつもりなら、私も。最初から全力で行くね」
夕焼けの海と古代魚、流れ星の仮面。イナズマ模様のある左目だけで敵を見据えながら、ぐっと踏み込んだ足と、輝きを増す紫の宝石を見た。
ドウッッ!!! と――空気が鳴った。
【常人の意志】を持つモンスターは数が多いはず……なんですけど、どう考えてもおかしいやつ。別に作者自ら矛盾を踏んでいったとかではないです、ヒントはすでに出ているので。




