58 【白バニーさん登場】即興PTで未攻略踏破計画! メノイ病描穴(4)
どうぞ。
張っていた糸が溶けて、キノコ王は地上に降り立った。
「みんな、私は壁からやるね!」
「相分かった」「了解です!」
古代魚と夕焼けの海、そして流れ星。「月泳流星のおもて」は、結界を展開する解を持つ。腰にはさっきまで付けていた「潜靴堂裏」がある。意志の証が増えるほど、経験値が分けられすぎてレベルアップが遅くなる……このキノコの王も、ここからはほとんどレベルアップしなくなるのだろう。
けれど、仮面にはそれぞれの解がある。
「マッシュッシュ、もはや力の差は歴然ッコ」
「そりゃあどうかね……こいつはリアルでいくらでも撃てるから、と思ってたが」
ふつうの銃を出したダンさんは、一発撃った。
「ああ、やっぱりなァ。みんな、仮面は本物だぞ!」
「ハハハハハ、そりゃあいい! やっと俺の本領発揮じゃあないか」
取り出したカードを示し、シューク・リイムは歪んだ笑みを浮かべた。
「さあ〈バレットストーム・ワスプ〉。やってくれ」
カード使いのほとんどは、モンスターを封印して使役することで戦う。ハットで防ぎ、ステッキで魔法を撃っていたけど、彼はあんまり火力を出していない様子だった。弱点を狙い撃ちにするハチたちは、嬉しそうにブンブン飛びながら針を連射する。
「マッ、シュ……!? ワレはこれほど強くなったというのにッコ――」
「ほんとですかぁー? とっくにわたしに“堕ちてる”のに」
振り下ろした拳が、ぐ、ぐ、ぐっと恐ろしいほどの勢いで減速していく。道中で聞いていたけれど、〈夢魔〉の能力は本当にすごかった。
こつぶちゃんの防御力は、ふたつのジョブを習得していてなお、私と大差ない。〈踊り子〉も〈夢魔〉もバッファーだから、本人が前線に立つようなステータスをしていないのだ。身に付けているものも、初期装備に毛が生えた程度のもので、防御は固めていない。けれど、スキル〈腐堕絡塗戒〉は、「自身が攻撃されるとき、現在ステータスで受け止められる程度の威力になる」という力がある。
防御補正のない【愚者】でしか習得できないモンスタージョブだけど、こういうふうに巨大で力の強い敵には抜群の力を発揮できる。
「この力も、ワレのものにしてやるッコ……!」
「あははははっ! あなたがわたしのものになるんですよ?」
上半身にはいくつもボールがぶち当たり、壁で跳ねるそれはぐらぐらとキノコ王を揺さぶり続ける。
「ちょこまかとッコ! ええいッ!」
「どうだい王様、道化や踊り子に翻弄される気分は」
「マッっシュ……! 王の怒りを甘く見るなッコ!!」
「お前さん変わってるねェ、素敵な女のコに囲まれる夢から醒めたいのかい。オーケー、そいじゃあ気つけをくれてやる」
放たれたネイルガンが、撃ち抜いた仮面を粉々に砕いた。
「マぁあアアッシュ!! なぜッ、なぜこの完全な力が通じんのだッコ……!?」
「某は、この世に“完全”があろうとは思っておらん。神は指針、教えは箱」
ブルさんは、いかにも僧侶っぽいことを静かに語る。キャラ付けでも何でもなく、本人は心からそう思っているようだ。
「足りぬものを埋めたとて、穴埋めにすぎぬ。足りぬものばかり見るから、何を補えばよいか見逃すのだ。分かたれた虹をひとつに重ねたとて、見えぬか濁るか」
能力の方向性も、ステータスの方向性も……確かにボールを一撃で破壊できるし、部位によっては攻撃を弾き続けているけど、「すごい部位がすごい」だけで、バラバラだ。すでにほころびが見え始めた巨体は、攻撃を受け続けている。
「みんな、解使っちゃおう!」
「「「「おーっ!!」」」」
バイオリンの奏で始めのような音がして、夢のような薄紫色の結界が展開された。バフアイコンや地上のフィールドがいくつも現れて、場は混沌と化した――最後の抵抗をしようと、キノコ王は攻撃や爆発をいくつも繰り出す。
「マッっシュ!!」
「言ってなかったねー、このボール」
また分身して、飾剣で弾力のある色彩を空中に張る。そして、〈サイオウクワガタ〉からドロップしたボール……「明星エントロピー:ターミナル次代」を、さっと投げた。敵に当たるとバウンドし、色彩の糸に当たるとまた壁までバウンドして、壁にもバウンドして――いちおう一定の高さで収まるようにしたからか、敵の体がぐわんぐわんと揺れる。
「壊すと強くなるんだよね」
「こんな、はずでは……ッコ」
「あなたも【愚者】でしょ? 搦め手の方が本分なのに」
「あぁ……ワレの力が、消えていくッコ……!」
肩をすくめる。まじめにコツコツ貯金するなんて、ちっとも【愚者】らしくない。財貨をすべて吐き出して、けれどそれより大きなものを――もっと楽しくハジケればいいのに、何かを忘れてしまったような物悲しさがあった。
「愚を冒すときは“あえて”そうするからこそ面白い。引き際を見誤っちゃあ、本物の馬鹿じゃないか……」
さらりと撫で切った刀と、吹き過ぎる剣が交差した。
「コォオあああーっ!!」
「南無三」「閉幕っ!」
おぞましい巨体がはじけ飛び、外装が剥がれたキノコ王もまた大爆発した。
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