57 【白バニーさん登場】即興PTで未攻略踏破計画! メノイ病描穴(3)
わかっちゃった……いや、うん。
どうぞ。
ブルさんがキノコを押さえ、こつぶちゃんがジュエルドールを押さえ――
「じゃあ、残りは全部やるね。ボス本体にもちょこっとずつ攻撃するから!」
「ありがとうございます! お互いに」
「頑張ろうね。コメント欄閉じるね、集中しないとだし」
本体ひとりと分身八人、合計九人の「白バニーさん」がカメラの前に現れる。クリームもカードを使っていたけど、投げ武器と封印・召喚だけのようだ。分身をちゃんと使うのはけっこうハードルが高い……というか、飾剣を使っていないとあんまり意味がないから、分身はほぼ死に技になるようだった。
何種類ものボールに酒気を振りかけて、〈は図み軽魔ジック〉で壁をバウンドさせる。どうやら元からできる機能だったようで、指の動きで軌道を自在に変える能力が生まれた。壁をゆっくり歩いたり飛び跳ねたりしながら、敵を封殺していく。
「マッシュッシュ! なかなかの戦士っぷり、道化とは思えん手際だッコ。だが、ワレの力はあんなものを通さずとも使えるのだッコ……見せてやるッコ!」
「まずい、爆発するぞっ!」
「防げるか――」
「壁になる、来るんだ!」
さっと〈ゲー・ティア〉の後ろに避難したメンバーをかばうように、クリームは爆風の余波を少し受けた。
「マぁーッシュッシュッシュッシュ!! オマエら、少しは戦況を理解した方がいいのではないのかッコ? 敵の仕掛けに気付かないようでは、やはりヒトごとき戦士に取り立ててやれんッコ」
「何を言ってる……いや、これは」
びちゃ、びちゃと洞窟のあちこちから音が聞こえる。これまで倒してきた敵の溶けたものが、ここに集まろうとしている。
「これは養分にしてやったゴミどもだッコ。いろいろといたようだが、いちいち覚えておらんッコ。骨があろうと道具を持っていようと、等しくワレが築く王国の肥やしになるのだッコ……今こそ役に立つがいいッコ!」
ぼふんっ、と吹き付けた煙幕……じゃなくてたぶん胞子が、ぞろぞろっと異様な音を立てて瞬時に成長する。
「〈デビルズ・サークル〉!!」
「フェアリーサークルか!」
確か、同じキノコが円形にずっと広がっていく現象だ。つまり、あのキノコ王がどんどん――本体でなくても、キノコが増えることになる。
「人は同族でも憎み合うと聞くッコ。なぜそんなことをするッコ? 手に持つ道具が違う、顔が違う、体が違う。なら別の生き物なのだッコ」
キノコはきっと、全部同じなのだろう。本当に、キノコの本音なんて初めて聞くから、反論しようとしても考えがまとまらない。武装したキノコ人間が大量に、壁をゆっくりと歩いてくる。
「オマエらもキノコになるのだッコ。浅ましい奪い合いからも、おぞましい恐怖からも、オマエら全員を解放してやるッコ。死の向こうにある永遠の安寧で、恒久の安らぎを得るがいいッコ……死苦がオマエらの魂を縛らなければ、の話だがッコねぇ!!」
「台無しだよ!」
跳ね続けていたボールが、キノコ人間に殺到した。ドゴン、ボン、バガンッと恐ろしい衝撃音が骨まで響いて、次々に敵が爆散していく。基礎性能が低すぎたのか、それともこちらが強すぎるのか。
「解も使っちゃおっか。「潜靴堂裏」!」
腰にあったブーツと聖堂とペンギンの仮面が、こめかみにある古代魚と月の仮面「月泳流星のおもて」と入れ替わる。すっとスライドさせて、左目でキノコ王を見た。レモン色のバフアイコンが点灯した――ただ武器の性能が上がっただけだけど、杯のバフと合わせれば話は違う。
「空中に、網……!?」
「これで分断できたから、そっち任せちゃうねー」
飾剣は、【愚者】の使うものの中でもいちばん「幻を現実にする」能力が強い。ただの分身を実体にすることもできるし、斬撃で描いた線を威力ありでぶつけることもできる。九人が二本ずつ持っている飾剣をそれぞれでパスして、描いた軌道を空中に張ることも、当然できる。
地上で戦っているボスと、壁面で戦っている手下。みんなが壁を歩けないなら、多い方をぜんぶ担当した方がよさそうだ。
「さてと。そういう感じなんだねー……」
「マッシュッシュ、よくぞワレの意図を見抜いたッコ。世界がワレに与えた名前、それをしっかりと分析する頭脳……なかなか、人の知恵は侮れないものだッコ」
マージメイジ・マッシュローフ=「結合の魔術師・キノコのかたまり」。今までまったくそんなつもりはなかったし、言葉遊びだと思っていたけど……言われてみれば、二体目の王の出現は、名前のままだ。
壁画はすべてトラップで、倒しても倒さなくてもボス戦に影響する――倒さず逃げれば合流してくるし、倒せばあとで王が増える。どのみち倒すしかなくて、倒した数が多いほど詰みに近付く。たぶん、どんな敵でもガンガン倒せる強い人が入らないと、ちゃんとクリアできない仕様なのだろう。
「……言わなきゃバレなかったのに」
「マぁっ!? ッシュ……多弁は利にならんようだッコ、ひとつ学びを得たッコが」
地上でキノコ王が倒されたようで、ふわふわと光の粒子が舞い上がってきた。時間が経ちすぎて、分身が消えてしまう。
「ワレの力に“その先”がないとでも思っているのかッコ? オマエの魂に刻まれたそれと同じことが、ワレにもできるのだッコ……」
「魂って……?」
何が見えているんだろう、と思ったけど、すぐに分かった。
「胞子ひとつひとつに宿るワレの力と、吸い上げた力を……こうして束ねてひとつにするのだッコ。仮面をたくさん持っておいて良かったッコ。マッシュッシュッシュ!」
「うわっ、あの仮面ってまさかっ!?」
「ほかの【愚者の意志】から奪った、か……!」
サルのような仮面や鬼のような仮面、ピエロの仮面や裏返ったような気味悪い仮面、キスマークと唇で作った異常なお面などなど……十を超える仮面に〈マージ・スリー〉のエネルギーを与えて、キノコ王は伸びる菌糸に包まれて巨大化していく。先に攻撃しようとカードを飛ばしたけど、仮面に防がれてしまった。
「マぁーッシュッシュッシュッシュ!! 王国とは「王の国」ッコ! 人のように統治など考えずとも、最強の王が増えていけばいいのだッコ……人が勝てる道理などないのだッコ!!」
仮面ごとに色や質感の違う、つぎはぎの巨人。いくつもの顔が配置されたフランケンシュタインの怪物が、連なった蜘蛛の巣のような奇妙な口を開いた。
「かかってくるのだッコ、【愚者】ども! オマエらの五体も仮面も! すべて肥やしにしてやるッコ!」
「ふふ、ハイライトだねー?」
「行きましょう!」
私は、仮面を付け替えた。
フランケンシュタイン出すの初めて? ですね。気味悪いものとかつぎはぎは無数に出してるんですが。即興で作ってるのに能力がドカ盛りすぎて、これまた設定集行きやな……




