54 クイントレイズ・アンド・コール!
間に合ったッッ(5:15)
どうぞ。
用意されたゲートをくぐると、キラキラと輝く洞窟が目に入った。
「晶洞か。【愚者】には最高の場所だな」
「めちゃくちゃやりやすそうだね。じゃあ、私は……飾剣と時計と杯だけ使うね」
「縛っちゃうんですか?」
「ううん、邪魔になるから」
いちばん最初に入ったダンジョンで思ったけど、閉鎖空間でのボールはすごく使いづらい。かといって、カードを投げまくるほど火力に余裕がないかと言えば、私よりはるかに火力を出せそうな味方が四人もいる。〈道化師〉が何をすべきかというと、ほとんどはサポートで、自分で攻撃してもしょうがない。
前衛がブルさんとこつぶちゃん、それ以外がバフと攻撃をすることになった。
「いつもの感じで行こう、少しやりやすくなるくらいだろう」
「ごめんね、ソロ向きの暴れ方しかしてなくて……」
全員がばらばらに動いて、それでも成果が出るみたいな妙なやり方ばかりだったから、連携はほとんど知らない。
「まずは原資を拾おう、俺たち【愚者】はこれがなきゃ始まらない」
「ふぇっへっへ、ダンはいつも準備大好きだよねえ」
本人が言っていた「改造した銃」は――なんだかものすごく大きくて、でたらめな構造をしているように見えた。
「その銃って、具体的にどんなものなんですか?」
「ああ、これか。「ネイルガン」……現実にもある改造銃を自分で作ったんだ。釘を撃ちだせる」
「釘!?」
「こいつは本場で本物を作って、金を出してあっちの倉庫も維持してるホンモノですよ。あなたの新体操だったかと同じで、現実の能力や知見はある程度反映されるんです」
そもそもどうやって装填するのか、どう改造したらそうなるのか。ダンさんはすべてをしっかりと理解していて、それができるように造った。
「あんたも柏手を打ってカードを作ってたろ? 俺も同じさ、弾丸を作る。そんで撃つ! マグナム好きもいるが、「銃弾」を作ってすぐ撃てるならパウダーを増やすのは後回しでいいんだ、俺は。さ、拾おう」
「そ、そうですね……」
レーネの斬り癖やアンナの抱きつき癖のように、仲間内では受け入れられている「その人のそういうノリ」らしい。現実から来る趣味もここまで極められるものなんだなぁ、と思いつつ、そのへんにゴロゴロ落ちている鉱石を拾っていった。
低品質の宝石が、ビー玉を砂利にした屋内庭園のように、いくらでも転がっている――ものすごく異様な光景は、天井にも広がっていた。赤い宝石の地面と、青い宝石の天井。あっちは採れるのかなと思ったけど、ツララは落とすと死ぬと聞いたことがあるから、何も言わないことにした。
「ところで、いったい何が出るんだろうな」
「ここはゴーレムじゃない? 自然系のやつでさ、……」
「出た。みな、準備を」
こん、とブルさんのロッドが地面を叩く。こつぶちゃんは剣を順手に、飾剣を逆手に持った。ハットを手にしたクリームと時計・飾剣を持った私が並び、物陰に隠れたダンさんは銃を構えた。事前のバフをいくつも重ねて、警戒する。
四本足に樹木のような上半身、肩に埋まった頭部と脈打つ光。煙水晶の全身と、呼吸か脈拍のように色を変えていく光。「ジュエルドール」は、ごん、ごんと一歩ずつを踏み出した。
『ガガ、ガ』
「ふんッ!」
水晶の形そのままの腕が、蓑藁に襲いかかる。ロッドはそれをいなして力を削ぎ、銃弾がいくつも弾ける。【ひどい手癖】で作られたそれは瞬時に全壊し、激しい火花を散らした。玉華苑の与える「火花」ダメージの本領発揮だ。さっと撒いた酒気で飾剣を強化して、空中に描いた斬線をとんと叩いて飛ばした。
「なんですかそれ!?」
「杯だよー、めっちゃ強い」
できるだけ全員にかかるように撒く――液体を伸ばしてぶつけるようなイメージで、みんなにぶっかけた。
「うわっ!? おお、これは……!」
「今までできなかったことができる、はず! やってみて!」
ハットからコウモリが飛び出して音波攻撃をしたり、銃弾がより大きく爆発したり、ロッドの攻撃が内側にまで浸透したり……杯は、ものすごい効果を出していた。あんなに大げさに説明するだけあるな、と思いつつ、時間属性はぜんぜん効かないのを確かめる。
「なかなかに、固い。属性攻撃の方が通じるやも」
「おっけー、もっと強めるね!」
飾剣には強い攻撃、〈粋彩牙凝〉も〈熔充送戯〉もあるけど、バフ・デバフの方が強い。こつぶちゃんがかけている〈七識幽雲〉ではなく、もうひとつの〈貼武庶累〉、属性スペクトルを広げるバフをかけた。ランダムに起こる属性ダメージが、自分がふだん使っているものからさらに広がる――ステッキで雷と氷、そのほかは物理しか使っていなくても、相関図の氷・火・水・雷・地・風/光・闇からそれ以外が抽選されるようになる。
全部アンナの受け売りだけど、『付加ダメージいっぱい出すならいっぱい使った方がいいよぉ』と言われていた。
「削れておる。敵が補充しなければ……」
そのとき、敵の目がぎらりと光った。
「解ですか、こいつの意志は」
「【狂妄】か【常人】だと思うけど、どっちだろ……?」
全員が【愚者】だから、相手はすごく強化されている。体内にあった光がすすっと外に出てきて、上半身にあったトゲがいくつも、すべて触手に変わった。
「ヤバい、時止め効かないよ!」
「御意……!!」
もう一度酒気を撒いて、みんなに付与した効果を切り替える。
「みんな、全力で攻撃して!」
光が吹き荒れた――
そろそろテイムモンスターを追加してもいい気がしてきた。みんなスライム回で大喜びしてたし……




