53 エマルジョン・フィルズ・ホロウ
準備回。
どうぞ。
世の中の人が少女――というにはちょっと私はアレだけど――をどう見るか。はっきりひとつには絞れないくらい、答えは千差万別だろう。今でも三十以上……ちょっと数えてないけどいっぱいが所属しているアマルガム陣営は、中心になる「水銀同盟」五人それぞれのシンパやフォロワー、それに勧誘逃れの自由人たちがいた。
ちゃんとあいさつにくる人たちはスジを通す……アッチ用語っぽい「スジ」を通そうと、上下関係を意識している人が多かった。ホームに通されて感激している人もいるし、生で会えてよかったと本気で言っているらしい人もいる。
私たちが潰した「擬音盛者」の代わりなのか、四大派閥には私たちアマルガムの名前が挙がっていた。そして、壊滅した直接の原因……「“雑魚ジョブの女”にボロ負けした」という文言は、思いっきり私に言及している。あんまり嬉しくない言われようではあるけど、私個人が信奉者を集めるような事態にまでなっていた。
「改めてご挨拶を。シューク・リイムです」「萩目こつぶです!」「ブルーベ・リーパイなり」「ダン三式だ」
お菓子をモチーフにした仮面を持つ【愚者】の集まったギルド「銘菓ラヴィータ」は、チーズケーキ風の仮装に身を包んだ私がドンピシャだったようで、大ファンになってくれている。
「あなたにはやはり……クリームを感じる。私の愛するクリームを」
「この人【使徒】じゃないの?」
「ハハハ、冗談がお上手でいらっしゃる。佯狂は人のうちだ、傾いてなどいませんよ」
「うーん……」
それとなく視線を送って助けを求めてみるけど、常識のありそうなこつぶちゃんも、ぜんぜん分からないようだった。
シュークリーム……ではなくてエクレアにひし形を散りばめた仮面の「シューク・リイム」は、チョコレート色のタキシードに身を包んだシルクハットの紳士だ。見た目だけなら完璧な男性なのに、言動がいちいち自覚的におかしいから、素直にカッコいいとは思えない。
小豆とバロックパールをあしらった金細工、といった風情の仮面をつけた少女が「萩目こつぶ」だ。〈道化師〉なのか〈踊り子〉なのか、布製のレオタードにひも系のアクセサリーやタイツ、手套を合わせたフェチなスタイルだった。
網目のパイみたいな仮面を肩に付けた、麦わらで編んだ虚無僧みたいな帽子を合わせた謎の人が「ブルーベ・リーパイ」だ。蓑藁みたいな装備でほぼ全身を覆っていて、体型すら分からない。この人と仲間になれるなんてすごいなぁ、と思うくらい、私以上にヤバめの不審者だ。
串だんごを撃ちだす拳銃、というぶっ飛んだデザインのドミノマスクを堂々と付けているのが「ダン三式」だ。たぶんクリームよりヤバいな、とうっすら思っているけど、寡黙だし服装も……裸コートにスラックスという、どちらかというと常識的なものだった。あんまり常識的じゃない気もするけど、もはやよく分からなくなってきた。
「えっと……。みんな来るの?」
「別に構いませんぞー、そういう連携も試しておきましょう」
「あ、いいんだ。じゃあみんな、行く?」
「「「「おーっ!!」」」」
すごい大歓声があがった。
「熱狂してるね……」
「シェリーもでしょ」
最初は【使徒】っぽい言動を心がけていたのに、だんだん崩れていって「これもアリ」と言われた結果、半々でぐるぐる目になっていたりそれっぽくできたりできなかったりと、けっこう面白いことになっていた。前の「シルヴィーシルフ」もだけど、シェリー・ルゥ大好き勢はわりかし多い。理由は分からないけど、私にファンがつく理由と同じく、「そういう流れ」なのかもしれない。
「頑張ろうね、お互い」
「……がんばる」
いまだに顔は見ていないけど、いちばん「友達」に近い立ち位置な気がするなぁ、と思った。
「皆さんあいさつはお済みのようですなー。では戦いに備えて、それぞれのスタイルを仲間に話しておきましょう! 連携するうえでとっても重要ですぞ」
とっこの宣言とともに、静かになって固まったパーティーたちが、再びざわめき出した。
「だって。私はだいたい何でもできるよー。あ、でも回復はできないかも」
「では某が」「わたしですね!」
「二人ともできるんだね」
「簡単に説明しておく」
ダンさんがささっと巻きで説明してくれたところによると――。
シューク・リイムは〈道化師〉、ハットとカードとステッキで戦う。マジシャンみたいな言動を心がけていて、ことあるごとに「クリーム」と口にする。
ブルーベ・リーパイは〈司祭〉〈僧兵〉と二つのジョブに就いていて、自己回復できる前衛らしい。僧侶の資格を取ったのか仏教校卒なのか、それっぽい言動が多いようだ。
萩目こつぶは〈踊り子〉〈夢魔〉で、主に幻惑と阻害に長けている。前に戦った〈踊り子〉よりも、剣を使った戦いが得意みたいだ。わりとできることは多いけど、前衛寄りらしい。
説明してくれた本人、ダン三式はというと〈銃士〉で、非正規改造銃を使うらしい。何か危なげな気配がしたのは、そういうスレスレなことを楽しんでいたからのようだ。愛用の銃をなでているときの顔は、ドミノマスクで半分しか見えていないのに、背筋が寒くなるほど怖かった。
「こつぶちゃん、これ使う? 前衛寄りなら強いと思うんだけど」
「ふぇっほぁ!? あえっあの、「魂の魔石」……??」
「クリーム……!! これこそクリームだ」
「フィエルさん、どういうことだ? 売れば高いだろう」
「お金は余ってるからいいよー、活かせそうだしあげる」
「えっと、感謝っ……ありがとうございます!!」
あとでまたアンナに相談しようと思っていたけど、ここであげてしまうことにした。
『いいの? 全体強化したかった?』
『強くなりそうだからかなー。あれが楽しいの、たぶん蹴り技だと思うんだ』
あの子の立ち姿や体重の運び方を見ていると、蹴りにそうとう自信がありそうだ。アンナの打ち立てた「水銀同盟」の基本理念は、“水銀”部分……「ヒドラルジルム」の頭文字Hのままに、えっちな女の子を集めたいという下心にある。それはともかくとしても、強くなりそうな人はもっと強くなってほしい。
「では! おのおのテレポートしてください、とっておきのモンスターを選びましたぞー。それぞれにカメラ役を用意しておりますので、配信のご心配はならさずに」
ギルド「銘菓ラヴィータ」(アマルガム陣営)
リーダー:「シューク・リイム」
【愚者】〈道化師〉
武器:カード/ステッキ/ハット
「ブルーベ・リーパイ」
【愚者】〈司祭〉〈僧兵〉
武器:ロッド/刀
「萩目こつぶ」
【愚者】〈踊り子〉〈夢魔〉
武器:飾剣/片手剣
「ダン三式」
【愚者】〈銃士〉
武器:銃砲(改造品)




