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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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52 賢者の思惟:懐疑は樹の発芽のごとくに

 一般人視点。


 どうぞ。

 自由を重んじる「アマルガム」陣営、あるいは派閥には、たくさんのギルドが含まれている。かれらのほとんどは「ゆるっとてきとーに」程度に、真剣みはほとんどなくゲームを遊んでいた。勧誘合戦を力技で終わらせた「水銀同盟」は、派閥をひとつ完成させる程度には、MMOの伝統――“ゲームは遊びではない”という考えとは真逆のスタンスを、はっきりと取っている。


 遊びは遊び、楽しみは楽しみ、その中に何を見つけるかは当人次第。ゲームに人生を見つけるものもあれば、無為な時間をただ浪費するものもある。本質は法則ではない、厳然として存在するものではなく見つけるものだ。木目に犬を見出して笑顔になるものもあれば、積年の後悔を思い出して懺悔を始めるものもあろう。




「うぃー……貧乏定食食ったあとでこれ、マジうめぇ」

「華のOLが何言ってんですか、JKもドン引きですよ」


 そう言ってもさぁ、と「メリル」は定食屋の背もたれに全力で背をあずける。


「母のお手伝いとかしてなかったクチにとっちゃ、初の一人暮らし! って意気込んでみたらね? 家事のできなさがのしかかるわけですよ。いちおー近くのカフェとかで、近所のおばさまがたとコネ作ったりとか、あれこれお店の場所聞いたりとか。しましたけれどもね」

「やっぱ練習しといた方がいいです? 家事ひと通り」

「だよー、ほんと忙殺って言葉まんまに家事ぜんぶ乗っかってくるんですよこれがー。結婚する気なくても、覚えといて損ないね」

「そっかぁ……。やっぱりOLって大変なんだ」


 そんなもんよと笑うメリルに、「セリュー」は微笑んだ。


 年齢の違う友人と出会い、さまざまな人生経験を自分のものとして身に付ける。セリューにとってのオンラインゲームは、そういうものだった。出会った頃は就活生だったメリルは、「緊張する、怖い」と言いながらも履歴書を書き面接を通り、中小企業の事務員になった。


「センスある人は付け焼き刃とかタスク瞬殺しちゃうんだけど、アタシたち凡才にはむずかしーんですわー。ボールでトランポリンしちゃうような人には勝てまへんわー」

「ひょーずんご漏れてるよ……」


 方言は各地でまだまだ生き残っており、いわゆる関西弁もギャグの文脈のひとつとして生き残っている。インターネットで覚えることは後付けであり、音声言語は両親から身に付けるものである。仮想世界での食事を終えて会計を済ませ、二人は街に繰り出した。


「あ、とっこさんだ。何してるんでしょーね、きょろきょろしてる」

「どこどこ……あ、ほんとにいる」


 視線の先にいたのは、要所だけの呪われた鎧、白いレオタードを鎖で縛ったジャパニーズ・ヘンタイスタイルの少女。中学生のころから配信者として活動し、上手くなりすぎて縛りプレイに喜びを見出すようになったという変人「とっこ」である。


「やーやー、盾にエンブレムがあって助かりました。今、企画の下準備をしているのですがー……すこしお話、よろしいですかな?」


 アマルガム陣営のエンブレム――「とろけて落ちていくコインの串焼き」。冒涜や愉悦を軸にして“遊ぶ”ことを何より重視したそれは、狂笑をもたらすサインだった。コインを貫ける串はあろう、しかし焚き火程度でコインは溶けぬ。貨幣そのものをあざ笑い、そしてそれを真面目に受け止めるものをも嗤う。ふたつの文脈を噛み砕けるものだけが、その愉悦を舌に転がすことを許されるのだ。


「とっこさんの企画!? じゃあ「水銀同盟」の!?」

「ええ、ええ。もちのろんですぞー、ご協力願いたいことがあるのです」

「えっと、私たちみたいな人でもできますか……?」

「ふははは、あたしたちもエリートやエキスパートではございませんぞー」


 絶対ウソだ、と突っ込みたいのを我慢しつつ、セリューは相手の言葉を待った。


「初めて会う人たちとコンビを組む企画ですな。これからのイベントで、多人数が参加するものが多くあると思われるのです。連携の訓練をすると同時に、配信に参加してくれるレギュラーゲストの募集も兼ねております」

「レギュラーゲストかー。とっこちゃん、そういうハプニングも好きなの?」

「それはもちろん。撮れ高を狙って作れるなら苦労しませんぞー。いろいろと起こる下地を、そして発掘を。何より」


 強くなりたくはありませんか、と――いつもひょうきんな顔を見せる少女が、ゾッとするほど妖艶に笑う。とても魅力的な誘い文句は、二人の中にもすうっと浸透してきた。有名な配信者と並んで戦える、彼女らに頼りにされる。とても魅力的な提案だ。そして、彼女らに並べる人間になれるというのなら。


「ぜ、ぜひ……! 参加させてください!」

「わぉう、セリューちゃんやる気かー。じゃあアタシも行っちゃおう」

「ありがとうございます、頼りにしてしまいますぞー。ではすこし、お願いが……ああいえ、これは断っていただいても構わないのですが」


 これも動画のネタなのでして、と苦笑する彼女は、それを口にした。




『憧れの姿、とまで言うと大げさですが……あの人にはクリームが入っているな、と。確かにクリームを感じたんです』

「どういう意味なの」

「クリームはクリームです。意味を問うようなものではない」

「ごめん、わかんないや……」


 やっぱ見るんじゃなかった、とフィエルはげんなりしていた。

 四大ギルドはだいたいこんな感じ。↓


「ブレイブ・パイオニアーズ・バトルフロント」(BPB)

 ガチ勢ギルド。サーバー最強のプレイヤー「ディリード」がリーダーを務め、メンバーはたった五人しかいない。フォロワーは多いものの、新規加入者はまったくおらず、内実がただの友達ギルドであることはほとんど知られていない。エンブレムは「爪跡を上書きする斬撃痕」。


「ミルコメレオ」(M)

 情報ギルド。ありとあらゆる情報を集積し、論理的に攻略を進めるのが目的。来るものを拒まないためどんどん巨大化している。強さ・知見はまちまちで、質の保証は為されていない模様。エンブレムは「未知を手にすべし」とゲーム内言語で書かれた黒板。


「タイトルタイルズ」(TT)

 制作・商業系ギルド。職人を大量に抱え込み、なんでも好きなものを作れるようにと材料を集め、作ったものを売りさばくシンプルな形態をとっている。ほかの四大ギルドとも大きな取引を頻繁に行っており、全体における資産はゲーム内でも有数と目されている。エンブレムは「ふたつのT(を図案化した剣とハンマー)」。


「水銀同盟」

 ある配信者が設立した「魔王系ギルド」を名乗る少女たち。単騎で百人単位の集団を壊滅させたメンバーが複数所属しており、自称に恥じないだけの規模を誇っている。傘下とされる「アマルガム陣営」のほとんどは「自由・不干渉」のもとに集まったもので、明確な指針は存在しない。エンブレムは「焚き火でとろけた金貨の串焼き」。


脱落済み:「擬音盛者」

 野盗のようなプレイヤーの寄せ集め。アウトロー志向のプレイヤーに好まれてメンバーを集めていたが、「BPBにも劣らない」と豪語していたリーダー含む中核メンバーが「水銀同盟」幹部に敗れたことで、いっきに求心力を失くし壊滅した。半数が引退あるいは別のゲームに移動、残りは分散・吸収されたと考えられている。エンブレムがデザインされる前に消滅した。

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