51 準備はまずお腹の中と外から
反響ありがてぇの極みオブユニヴァースすぎる(意味不明)
どうぞ。
ややあってアラームぎりぎりに起きてきたアンナといっしょに、お風呂に入る。最近ずっといろいろと頑張っていたからか、ちょっと疲れている。
「アンナ、だいじょうぶ? 疲れてない?」
「二割くらいアカネのせいだぞぉ。「白バニーさん」、ベルターでもパフォーマンスしてたでしょ。めちゃくちゃバズってるんだからね」
「あ、バレてた。どうだった?」
「よかったよぉ。でもちょっと、余計に「こっちでもやってほしい」って声が高まってるんだぁ。今夜は配信出てもらうからね」
宣告のように言い切るアンナは新鮮で、すごくかわいい。ぴとっとくっついた状態で言われるから、私でも恋しちゃいそうなくらいだ。
「それで、ベルターから行ったの? あちこちあったけど」
「ベルターが壊滅してるのってもう知ってた?」
「うん。サービス開始二日目くらいかなぁ、プレイヤーが入ってきたときにはもうダメだったみたい。周りのモンスターもやたら強くて、ぜんっぜん何もできなかったみたいだよぉ」
モンスタージョブをふたつも獲得したことを話すと、「おぉー」と笑ってくれた。
「どんなの?」
「〈レクストリガー〉と〈ダブルデッカー〉ってやつ」
「んー……? 聞かないやつだけどぉ。どんなんだったの」
「バーコード鎧と……中に入ってた、カード出すやつ? かな、たぶん」
「そんなのいるんだぁ」
アンナ情報にもなかったということは、やっぱり新登場だったのだろうか。
「カード出すやつを体の中に飼ってて、そのカードを使って加速パンチとかしてたの。すごい固いし早いから、悪魔に倒してもらっちゃった」
「そんなに強かったんだ……。〈道化師〉で勝てない速さなら、〈斥候〉とか〈ニンジャ〉でもないと無理だよぅ」
「逆にだけど、〈道化師〉ってそんなに早いんだね」
「幻術とか回避技もあるからねぇ。単純に早いっていうか、厄介って方が正しいかも」
そういえば、と思い出したことがあった。
「魔石がひとつ余ってるんだけど、プレイヤーに売った方がいいよね?」
「……すぐ転職できるやつ?」
「うん。〈レクストリガー〉の」
「おぉう……」
ドロップ率が上がる代わりに敵が強くなる【愚者】は、かなり損もするけど、こういうところは強い。
「そろそろのぼせそうだし、上がろ。お母さん待たせちゃう」
「あ、うん。そうだよねぇ」
お風呂から上がって、リビングに向かう。もういい匂いがしていて、それと別にすごく優しい香りも漂っていた。
「今日は水炊きとお刺身よ。あと、クッキーも用意してあるわ」
「う、美味しいかなぁ……?」
「だいじょうぶ、一緒に作ったじゃない。間違いないわ」
「いい匂いしてたし」
肩をぽんぽんと叩いて座らせてから、食卓に着いた。まだまだ朝夕が寒い日もあるから、水炊きはすごく美味しい。白菜と白ネギをしゃくしゃく食べながら、お肉を突っつく。
「そうそう、アカネは配信に出ないの? アンナから聞いたわよ、評判いいんでしょう?」
「今日の夜に出るよー。まだ何するか聞いてないけど」
「なーいしょ。みんなにはちょっと負担かもだけど、お願いしちゃうね?」
「いいけど」
いったい何をするんだろう、と思いながらポン酢をちょっと注いで、水炊きの味変をした。お父さんは「まずは調味料をかけずに味わうのが、作ってくれた人への礼儀だぞ」と言っていた。そのおかげかは分からないけど、けっこう繊細な味覚を身に付けることができた。
「やっぱお刺身美味しいなぁ……タタキも好き」
「美味しいよね。歯ごたえもいいし」
両親が両方とも美味しいもの大好きだからか、子供の私たちも食べ物を楽しめている。ほんとにいい家に生まれたな、と実感しながら夕食をすこし早めに終えた。発酵バターとイチゴジャムのクッキーも、独特のクセと濃いめの甘酸っぱさが合わさって、不思議なコクが生まれている。
「すっごい美味しいよー。オトナの味してる」
「よかったぁ……やったよ、お母さん!」
「ふふふ。レシピ通りに作れば、お菓子は難しくないのよ?」
「うぇへへー……」
すごく楽しそうに笑っている。いつでもこんな顔が見られたらいいな、と思うくらい、アンナはすごくいい顔をしていた。
「よーし、気合い入れて行こっか! 今日はお母さんにも見てもらう配信だもんね」
「だねー。期待しててね、お母さん」
部屋に戻って、お互いのデバイスで『ストーミング・アイズ』の世界にダイブする。ログアウト前のベルターから、いつものギルドホームにテレポートした。
『みんな集まった? 今日は外から人も来るから、私はしゃべらないよぅ』
「え、アンナしゃべらないんだ?」
「今日はあたしが担当しますぞー。残念ですが、【狂妄】は言葉が聞こえませんので」
「そうなのよね……」
「強さの代償なのですね」
アンナは『しょうがないよぉ』と苦笑している。
『みんなに聞こえなかったら意味ないから。とっこ、お願いしちゃうからねぇ』
「頼まれましたぞ、アンナさん。事前にご説明しておきましょう、今日の企画は――」
ホロウィンドウを介して、空中に『即興セッション! 派閥タッグで強敵倒してみる』という文字が現れた。
「これですぞー。これからは多人数で戦う機会も増えますから、慣らし運転として、即興タッグで戦う訓練をしておくのです。有名人であればあるほど、知らない人と組むことは多くなりますから」
「なるほどね。ところで、どうやってタッグを選ぶの? 私はみんなより一段弱いんだけど、大丈夫かしら?」
『実はね、今回の企画は三日前から動いててねぇ。アマルガムから私たちと組みたい人を募集してたんだよぉ。ちょっと見る?』
「え、何を?」
「実は、なのですがー……あとで編集して入れようと思って録画しておりました、アツいメッセージの動画があるのです」
聞いていいのかな、とみんな思ったようで、全員の顔が微妙に困惑で止まっている。
「……伝わらなさそうですが、再生しますぞ?」
ちょっとボツ案紹介しておきますね。
〈博徒〉
意志や【愚者】について考えが至ったとき、真っ先に主人公のジョブとして浮かんできたアイデア。……なのだが、具体的な能力や戦闘スタイルが「ランダムに何でもやる」といったような、どうやっても作者のさじ加減・ご都合にしかならないと悟ったので諦めた。
その後「愚者=バカは何をするのか?」を真剣に考えた結果として「目先の浪費など、損得勘定で判断ミスを繰り返す」という結論が出たため、ジョブではなく【愚者の意志】という形に収まり、ステータスを決定する上位概念となった。すべてのジョブは意志の下にあり、噛み合わぬものもビルドのうちに含まれる。中には意志が違う方が強いジョブもあるかも……?




