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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
2章 救罪矛償:あなたの足が訪れる

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50/166

50 罪の計算/引き金・火薬・弾丸

 どうぞ。

 す、と踏み込んだ悪魔とバーコード鎧が、ものすごい勢いで打ち合う。さっきの爆竹みたいな音は、どうやら一瞬だけ炎を噴き出して加速している音のようだった。パンッ、と鳴るたびに拳や蹴りが急加速して、悪魔の鎧から葉っぱを散らしている。


『主よ、これは【愚者】だ。コストを浪費して戦闘能力を高めているようだな』

「コストって、……あ、カード!」


 カードは武器だけど、消費アイテムでもある。デッカーは「デッキ」から派生したことばで、デッキには「床」以外にカードデッキの意味もある。「レクス」に「ダブル」と階級や段階を思わせる言葉、つまりこの敵たちは進化モンスターかつ共生モンスター、コンボなのだ。


「よしっ、だいたいわかった! 今の私には無理だね」

『よかろう、一任するのだな』


 固いし早い、どっちかだけなら何とかなるけど、両方だとダメだ。私本人が出て行けないなら、悪魔に任せるしかない。早くても固くないし、相手はもっと早くなる……しかも遠近自在だ。


 金属音と打撃音、破砕音に火薬の音。飛んできたカードをカードで弾いたり、分身で色彩を配置して攻撃を止めさせたり、めちゃくちゃ小細工をやりまくってなんとか勝った。


「や、やばかった……」

『では御免』

「ありがとう」


 召喚時間ギリギリまで粘ってくれた悪魔たちは、すうっと消えていった。


「アイテムは――出た! 最初から揃ってる!」


 最初から出るとは聞いてなかったけど、「魂の魔石」が三つもある。すぐにジョブを変えられるから、これ以上の戦いが要らなくなる。すぐに街に戻って、ジョブを変えられるところを探した。話しかけたおばあさんは「うん?」と答える。


「ジョブ変更かい、それなら……今はどこにいたかね。ミゲルさんって人がね、ギルドでその仕事をしてたからね。ミゲルさんを探すといいかね」

「ありがとうございます、探してみます」


 街の人々に聞いて回ると、街の壊滅後は墓地近くの小屋に住んでいる、とのことだった。私が出て入ってきた門とは真逆、灰色の岩山が広がった採石場のような場所の下に、壁で囲まれた墓地がある。


「わたしをお探しのようですな。ジョブの変更をしたいのでしょう」

「はい。あなたがミゲルさん、なんですね」


 黒い洋風の僧衣に身を包んだ、穏やかそうな男性だった。薄くなった髪の色は、金から銀に変わろうとしている。


「今のあなたは〈道化師〉のようですな。ずいぶんと鍛えて、人々に楽しみを与えてもいらっしゃる。次はどのようなジョブを選ばれるのですかな」

「あ、えっと……あの、これを」

「ふむ。〈レクストリガー〉と〈ダブルデッカー〉ですか」

「あの、ミゲルさんはえっと、こういうのは……?」


 恥ずかしながら、と壮年の男性は苦々しげに笑顔を作る。


「先日までは、モンスタージョブは邪悪、魔なるものと考えておりました。しかし、矜持や祈りでは守れぬものもあります。僧侶は俗世にあらぬものなどと……驕った結果が、この惨状です。人は、生きている」

「え、はい」

「実感というものを持たぬままに生きた結果です。市井の人々が何のために祈るのか、とうに気付いていたのに。知らぬふりをしたわたしが、かれらの力を制限して、……命を奪ったといっても過言ではありません」

「そっ、そんな!?」


 教会の人に懺悔されるなんて、思ってもみなかった。


「そう驚かないでください。わたしは【使徒】ですが、そういったものも受け入れようと考えるようになった……というだけのこと。転職はとても簡単です」


 専用の特技があるのか、ミゲルさんの手のひらに乗った魔石がふわっと浮き上がって、魔法陣へと分解していく。そのまま仮面と体に流れ込んで、魔石は消えた。



[モンスタージョブ〈レクストリガー〉に就きました]

[モンスタージョブ〈ダブルデッカー〉に就きました]



「ありがとうございます! 何かお礼できることとか、お手伝いできることってありますか?」

「大変心苦しいのですが、できればでよいのです、今しばしこの街の復興にお力添えを願えませんか? わたしにできることは限られておりますゆえ、街の方々をほとんどお手伝いできないのです」

「わかりました、できる限りいっぱいいろいろやります」

「ご無理はなさらないでください。回復が必要なときは、いつでもお申し付けいただければ。すぐにでも傷を消してみせましょう」


 練習する時間はないので、性能だけ見ることにした。速さと固さは欲しかったし、補助に回っているデッカーの方もたぶんMPはあるだろう――何より、両方が【愚者】らしかったから、相性はかなりいいはずだ。


 墓場を出て、ちょっと空いたスペースでステータスウィンドウを開く。


「えーっと。あれって〈アクセルトリガー〉って技だったんだ」


 セットしたアイテムを消費して加速する、と書いてある。ものすごく【愚者】らしいやり方だ。でも〈ダブルデッカー〉は【賢者】で、カードを二枚ずつ生成できる〈フルフィル・スリット〉というスキルがあるようだった。つまり、コストを作って与えるモンスターと、そのコストを消費してどんどん強くなるモンスターの共生だったことになる……ぶっちゃけ、今の私とそんなに変わらない。順当な強化になる、だろうか。


 プレビュー欄を開いて、今の私の姿を見る――


 レオタードや燕尾服のあちこちに金の二本線が入って、脚のタイツやブーツ部分にひし形の模様がいくつか入っていた。見た目に変化が現れるというけど、案外変わっていない。もっと試したいし修行もしておきたいけど、もうちょっとでお風呂と夕食だ。私はいったんログアウトして、時間を待つことにした。

 なんか一日で40くらいいいね増えたァ!? 一人/一日に5件じゃなかったです……? 本当にありがとうございます、モチベめっちゃ上がります。アイデアがたぎっておる……あ、データを。



〈レクストリガー〉

 文字を刻んだ板を集めた「ルーンクラフト」系の中位モンスター。体内にある撃鉄を起動することで、瞬間的に超越的加速や爆発的威力を叩きだす、金属製の器械人形。撃鉄の使用には凄まじいリスクが伴い、幼体のほとんどは撃鉄使用時に体内から爆裂して死ぬ。


〈レクストリガー〉(ジョブ)

 攻防一体かつ瞬間的な加速・威力向上スキルを持つジョブ。セットしたコストを短時間で大量に消費するため、【愚者】以外にとっては実用性皆無。ジョブの基礎耐性として、光・闇耐性が二段階/全物理攻撃耐性が一段階上昇し、精神系耐性が一段階下降する。


〈ダブルデッカー〉

 無から有を取り出す「フォルスアンサー」系統の中位モンスター。【賢者】の意志にありながら虚実・夢幻を行き来するため、意志が安定せず弱点が存在しない。フォルスアンサー系統にありがちな箱型、かつ生み出すものの性質からカードデッキの形をしている。


〈ダブルデッカー〉(ジョブ)

 MPと器用がおそろしく上がるジョブ。所持スキルはカードを生成する以外にないのだが、スキルレベルが上がるごとに生成できるカードの枚数が増えていく。ジョブの基礎耐性として、光・吸収系耐性が二段階上昇する。

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