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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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44 結実の機だけは読めぬ、たとえどの眼があろうとも

 どうぞ。

 大通り――に沿った建物の屋上をゆっくり歩きながら、考える。


「次はどんなふうにハジケようかなー……」


 ステージにも上げてもらったし、衣装も整えられた。思い通りのことができる武器も揃ったから、次のステージがあるとすれば、何をすると面白いのか。ステージは一回で終わりじゃないし日々練習で、突発的なパフォーマンスだってこなさなくてはならない。


 今までは足技や体幹を見せていたから、次に見せるとしたら手遊びだろうか。それに、アンナたちの言っていたことも気になる。この街に悪の組織がなにか取りに来てるとか……


「あっ、“七つ目の武器”! 忘れてた、探さなきゃなんだよね」


 そう口にした瞬間、目の前に何かが落ちてきた。こんっ、と屋根瓦でバウンドして浮かび上がったそれは、金属製の豪奢なカップだ。どこから落ちてきたんだろう、と頭上を見上げると、ワイン色の海が空を覆い尽くしていた。


「えっ、なにこれ!? なんで誰も気付いてないの!?」


 道行く人は誰も、風景の色が変わっていることにさえ気付いていない。と思っていたら、コップからふしぎなエコーを帯びた声が聞こえた。


『ふふふ。それは、私の“解”も空間展開の系譜だからですね。とはいえ、遠くから解を使える人はそうそういないでしょう。数少ない誇りです』

「この声、グレリーさん?」

『覚えていてくださったんですね。旅人の中でも、あなたは本当に稀有な人物だ。六つの武器の扱いを修めた【愚者】の〈道化師〉にして、「スヰートパレヱド」所属、そして「ランブル・タンブラー」からも注目されています』

「タンブラー……って、コップ?」


 苦笑する声が響いた。


『まったく似ていない、とまでは言えないのですが。かんたんに伝えましょう、私があなたの求める七つ目……「杯」の扱いについて、軽く手ほどきさせていただきます』

「さかずき! じゃあ、これが?」

『そう。まずは移動しましょう、コップの水面に触れてください』

「はい」


 指でつんと触れてみると、液体で濡れるような感覚ではなく、ガラスに触れたような固い感触があった。急に上下がぐるんと反転したような浮遊感と、微妙にへんな着地を経て、あの牧場とは違うところに降り立った。


「ここは?」

「神殿、でしょうか。杯の力はすこし強すぎるので、あちらの訓練場はお借りできないのです……。あなたにお渡しするものは、ティニー教官の使うものより位階が上でして」

「えっと……? 普通だと使えないけど、私は普通じゃないってことですか?」

「すばらしい、やはり【愚者】は頭の回転が速くなくては」


 見渡すと、風景が全体的に青みがかっている。コロセウムのようでもあるけど、すべてが石造りだった。


「あなたは“聖杯”をご存知でしょうか? 水を汲んで飲めば不老不死になる、望んだものが湧き出す、そういった伝説のある聖遺物のことですが」

「あ、なんか聞いたことあります。すべての願いが叶うとか」

「ふふふ、神の与えたもうた本物……七つある聖杯のうちひとつがそれだと言われていますが。「杯」は、人が聖杯を真似て作ったものなのです」

「じゃあ、すごくいろんなことができる……?」


 そうですとも、と胡散臭い笑顔レベルマックスでグレリーさんは言った。


「我々【愚者】の本質は、虚偽(ウソ)から真実(まこと)を作り出すこと。“何も入っていない”というウソから“何かが入っていた”という真実を。それが杯です」

「つまり、えっと……空っぽでも、傾けたら水がこぼれる、とか」

「そう! いやぁ、理解が早くてとても助かります。そして、「ウソ」という神秘に「ほんとう」を浸すことで、地に足のついた奇跡を起こせるのです……」


 グレリーさんは、ハットを取り出した。


「ハットにはもともと、悪魔を呼び出したり攻撃を虚無へ飲み込んだり……といった、ゲートの役割があります。この事実に、杯の神秘をすこぅし振りかけますと――杯は、「人を通せる門」というウソを実現できるのです」


 どうやら、「ほかの武器の性能を、ちょっとだけ伸ばせる」と言いたいらしい。


「こういった「ほんとうの神秘」は、ほかの武器を持っている人に限ります。杯だけのときでも当然! 神の授けたるこの逸品は、奇跡を起こせますよ」

「なんかセールスっぽくなってきましたね……」


 空を覆っていた赤い液体、どうやらワインらしいものが、杯を傾けたグレリーさんの手元から地面に流れ出ていく。たーっと流れる勢いは、明らかにコップの内容量を超えてもまったく止まる気配がなかった。


「この「尽きぬ泉」は、杯の武器スキルレベルが上がると、いろいろな液体を出すことができます。液体はコストにもできますし、一種の結界のようにも使えますよ。ただし……」

「ただし?」


 これは模造品ですので、とすこし眉尻が下がる。


「持ち主のマナを吸い上げて奇跡を起こします。つまり、恐ろしい勢いでMPを消費します。〈道化師〉のMPでは少々足りないかもしれませんので、ジョブ枠をいくつか埋めた方がいいでしょう」

「そういえば、枠がいくつかあるんですよね」

「武器スキルレベルだけでも、少しは上がりますが。いろいろと模索してみてください、人生には楽しみが必要ですから」

「ありがとうございます、考えてみます!」


 では、と示されたワインに飛び込むと、元の場所に戻った。


「ジョブかぁ……」


 そういえば何も知らないな、と思って、私はギルドホームに戻った。

 いろいろ迷ったんだけど「杯=拡張」ってことにしました。私のモットーとして「願いは一歩先のもの」っていうのがありまして、「お前満たされてるだろ!」は言わないことにしているのだ。ちなみにオリジナルの聖遺物はほぼ失われていますが、本物を持っているNPCが何人かいるとか。ところでグレリーさん、自分の発言と行動が矛盾しまくってるんですが……

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