表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/166

37 常人感情:空疎の冷たさ

 どうぞ。

「メレア」には理想の自分があった。女性美を体現したその姿が、たくさんの注目を浴びる。清々しいほど俗っぽいその願いは、決して否定されるようなものではない……誰もが同じような願望を持っているものであり、女性だけのものでもないからだ。


 意志は【常人】、ジョブは〈踊り子〉を選んだメレアは、キャラクリエイトの出来に満足していた。鏡を見ながら、うっとりと酔い痴れる。


 落ち着いた印象を与える、切れ長の目。エメラルドグリーンの大きな瞳、長いまつげ。形のよい鼻梁につややかなくちびる。オリエンタルでミステリアスな魅力をたたえた、どこか不可思議な微笑み。これが街中を歩いていれば、女の目さえ釘付けにできるだろう。その様子を思い浮かべて、メレアは笑みを隠せなかった。


 衣装のデザインも良い。いくつかのデザイン候補があったが、彼女は伝統的なベリーダンスのそれを選んだ。黒い装束に金の腕輪や足輪に装飾、ルビーのイヤリング。


「うん。決まった」




「おっ、〈踊り子〉さん。どっかギルド入ってる?」

「予定のところがあるので」


 そうなんだ、とボーイッシュな服に身を包んだ少女は笑って、遠くで待っている友人たちのもとへ歩いていった。彼女はどうやって友人を作ったのだろう、という純粋な疑問が、絶妙に弛緩した空気を見て湧いて出た。


(あの子たち、何するのかしら)


 メレアにとってみれば、ゲームとは日常に挟まれる新たなルーティンである。効率化を目指すことこそあれ、意義のない行為を繰り返す意味は不明だ。友人と駄弁る程度ならほとんど何もしていないのと同義だが、彼女らに明確な目標設定はあるのか。大した能力もなく、目標も持たずにのんべんだらりと生活を送るだけなら、家畜以下だろう。


[チュートリアルを受けますか?]

「あら。教導ね、受けましょうか」


 ボタンをタップすると、牧場のような空間へとワープする。


「いらっしゃい、私はティニーよ。あなたは?」

「私はメレア。マスターオブ・オールテクニクス……あ、師匠なのね」

「ええ。さっそくだけど、どのジョブでもスキルでも教えてあげられるわよ。何にしましょうか?」

「じゃあ、この「飾剣」と「カード」……それと〈舞踊〉スキル。これをお願いするわ」


 了解よ、とガラスの人形が出てきた。


「ダンスに使う切れない剣が「飾剣」よ。今あなたの腰にもあるけど、練習用にもうひとつあげる。壊れやすいから、予備の意味もあるわね」

「やっぱり、ぶつけちゃダメなのね」

「ええ。刃がついてないし、踊り子の力でも振り回せるように、ふつうの剣とは材質も重さも違うのよ。剣だと思ってはだめ」

「なら、どう使うの?」


 両手に出現した飾剣のうち一本を腰に差したティニーは、青いホログラムのようなものをもう片手に出した。


「剣の偽物を出して、壊れない偽物を剣として振るう。これが基本ね」

「そう、偽物として振るうのね」


 ティニーが指を振るって出てきた一覧を、ひとつずつタップして確認する。「音声でも確認できます」と書かれた箇所のボタンを押すと、ティニーが話し出した。


「これは〈ロウエンジンシ〉、さっき使った技ね。剣を分身させるの。剣の分身があるときは、分身が実体化して攻撃に使えるようになるわ」

「へぇ……」


 二回使えば、つねに壊れない剣を用意して戦うことができる。すぐに壊れると言われたわりに、壊してもよい使い方がある。これは、とても面白い視点だった。いくつも聞いたあと、カードの説明も受ける。


「じゃあ、カードで武器ごと分身したあと、ロウエン、を使えば?」

「あら、よく気付いたわね。分身が全員、実体化した剣を持てるわ」

「それが、壊れてもいい?」

「そうね。それに、特技も全員が同時に使うことになるわね」


 八人の分身と一人の本体が、同時に剣を振るう。とても強い使い方……配信を見ていたときのあの驚嘆は、きちんとシステム上の裏技で作られていたのだ、と実感した。


「じゃあ――」




 そこからのメレアは、攻略サイト頼りでレベルや特技を増やしていった。あの配信に映っていたのは、二日以内で到達可能な範囲の強さであるはずだ。ならば、あれに並ぶことは不可能ではない。


 カードはドロップ品と節約でギリギリまでこらえ、〈踊り子〉のバフで強化して一人で戦う。かなりの速さで強くなっていったメレアは、しかしひとつの事実に気付いていた。


(ここでも、私より上の美人はいくらでもいるのね)


 最高の美貌を作り上げたつもりだったが、それほどのものではなかった。悪くはないものの、上位には追い付けない。それはまるで、現実の自分を見ているようで。


「……」


 木に裏拳を叩きつける。落ちてきたリンゴを怒りのままに蹴り飛ばすと、木の表面に当たって弾けた。赤ければ激情を少しでも落ち着けられようものを、ハチミツ色のそれは何の感情も引き起こさない。


「……ふん」


 ただ募る苛立ちに任せて、メレアはログアウトすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ