35 Laughin’ Joker(6)
スティルインラブ実装日。ぜったい当てる、このためにずっと待ってた。
どうぞ。
使うタイミングが来た。私は、「潜靴堂裏」――ブーツと聖堂とペンギンの仮面をこめかみの「月泳流星のおもて」と入れ替えて、解を発動する。あたたかなレモン色のバフアイコンが点灯し、左目から強い光が漏れているのが分かった。
「わ、そんなふうになるんだ……!」
「実は初めてなんだよねー。武器の性能上がるだけ!」
『いいねぇ、このパーティーにとっては!』
ざぁあああっ、とデッキふたつぶんのカードを一瞬で使い尽くした〈ランダマイズ・スロー〉は、マシンガンのようにカブトムシの装甲に弾けた。ぱぱん、と打ち合わせた手が、いま消費したカードを一瞬で補充する。
「こうやって使うのですなぁ。【愚者】でなければできませんが」
「そうだよー。クールタイム短縮しなきゃダメだけど」
一枚ごとの使い道は、封印やコピーにある。攻撃しようとしても、どうやっても豆鉄砲にしかならないから、「用途を決めれば強い」くらいに落ち着くだろう。どうしても攻撃したければ、こうやって浪費するのがいちばんいい。もっとも――
「ギィイイ……」
「固いなぁ、やっぱり」
柔らかいところを狙って切っているレーネも、すでに何本目かの刀を使っていた。クワガタに刺さっているものが破損済みとみるなら、四本目だろうか。活躍が早すぎてほとんど分からないけど、呼び出した悪魔よりはるかに強い。
『あのひとたちに指示ってできる?』
「いちおうできるよ」
「全力でボスを狙って、と指示していただきたいのですが」
『ご友人の命とあらば』
「アリなんだ!? じゃ、お願いね」
『御意』
悪魔たちは、総攻撃を始めた。それまでは配下にバフをかけるだけだったクワガタは、急におかしなスパークを体内で点灯させ始める。
「来ます!」
「防ぐ! 〈ゲー・ティア〉!!」
空間に穴が空いた瞬間、視界が真っ白になって、真っ赤になって緑になった。[「瞑目」状態になりました]というアナウンスが聞こえて、視界が真っ暗になる。
『失敬』
たぶん俵担ぎで持ち運ばれて、すごい速度で移動している。ギシャア、と敵の声は聞こえているし、攻撃らしき音も分かるけど、視界がちっとも戻らない。「目が見えなくなる」という状態異常は聞いたことあるけど、体感するとこうなるとまでは思っていなかった。
「見える?」
「どこ?」
「ダメですなー。重症ですぞ」
『ありがとね、配下ちゃん』
当然のこと、と会釈したらしい悪魔に抱え直されて、また跳躍する。視界に点滅するアイコンが表示されて、3カウントで視界が戻った。
「戻った!」
『では』
するりと転がって手のひらに乗り、ぽいと投げ上げられた勢いでクワガタに〈ヴォルカナイト〉を叩きつけた。ドゴゴゴガガンッ!! とぶつかったボールを着地に使ったあとすぐ引っ込めて、消えていた分身をもう一度出す。
「ギィガァアア……!!」
『カブトのほう、ラストスパート!』
レーネの斬撃とシェリーのビームで、カブトムシはだいぶ弱っていた。クワガタみたいにビームを撃つかと思ったけど、トゲの弾丸とビーム以外は何もしてこない。私は、ボールの悪魔といっしょにクワガタを攻撃し続けていた。アンナととっこは、あの便利な鎖を伸ばしに伸ばして両方にガンガン攻撃している。
『フィエル、あれコピーさせて』
「うん、いいよ」
アンナが拾ったのはハット、「あれ」しか言っていなくても、何をしたいかはすぐわかった。両方の手にデッキを持って〈ランダマイズ・スロー〉で一瞬で浪費し、百回の虹の火花を炸裂させる。
パチパチ、パチッとクワガタはまた光る。
『今度は私』
こめかみの仮面をずらして視界をふさぎ、目を瞑る。ゴワッというすさまじい音が耳を圧し、わずかに漏れた光さえまぶしかったけど、今度は状態異常にはならなかった。アンナがコピーした〈ゲー・ティア〉は、敵のビームを防ぎ切ったのだ。悪魔たちが繰り出した攻撃に続いて、レーネの繰り出した真っ黒い一太刀が、カブトムシの角を叩き折った。
「ギィ、シャア……」
墜落したカブトムシは、はらはらと光の粒に変わって拡散していった。
怒り狂ったクワガタは、しかし次の瞬間おかしな軌道で飛び始める。
「え、なに?」
「ふっはっはー! あたしの解はっ、ランダムな状態異常、三つまでの移し替え!! あたしがいくつ呪いを背負っているか、お忘れですかな?」
「そのためだったのですね……」
『ただの変態だよぉ、私とおなじくらいのね』
どうやら〈ソードダンス〉という特技……「一定時間ごとに強制的に踊り系特技を使う」という呪いが、クワガタに移し替えられたようだった。
「シャアアアア……!!」
「はっはっは。いざ戦になれば、王も道化を演じるやも……考えてはおられなかったようですなー。だからこそ、面白みも生まれるというもの!」
トゲの弾丸を鎖で逸らしながら、とっこは笑っている。
「さあ、究極を受けていただきましょうか!」
薄くなった悪魔たちが、最後の一撃を叩き込んでは消えていく。
「『〈チェーン・サーキュラー〉!』」
「〈百足割り太刀〉」
「〈スターフォール〉!」
「〈どど怒涛潰終エル〉!!」
斬撃が、光が弾ける。
すべてのボールを出し、跳ねたボールに導かれるように高く高く跳躍して、思いっきり蹴った。十を超える攻撃が連続でぶつかって、クワガタはついに地面に墜落した。パチパチと弾けたエネルギーは暴発し、体のあちこちの傷から抜けていく。青い光がだんだんと一点に小さくなり、黒っぽくなっていくクワガタは、そして動かなくなり……真っ青な光の粒になって、大爆発した。
青い空に走っていた亀裂が完全に消えて、光の粒が玉華苑を修復していく。
[魔王虫を退けた!]
[称号〈巨星堕つ〉〈放蕩の女神〉〈物言わぬジョーカー〉を獲得]
[害虫見本に「甲虫種」が追加されました。]
「やっ、……たぁーっ!! ありがとーっ!!」
飛びついてくるみんなに押されて、私は花畑に倒れ込んだ。
〈サイオウクワガタ〉
零等級
レイニーチェリーに来る「魔王虫」の一角。恒星のエネルギーを操る災虫の一種で、都市国家を数瞬で蒸発させるほどの熱量を持つ光線を放つ。いわゆる「外獣」であり、ワームホールを通じて配下を呼び寄せ続けるため、かれらが訪れた惑星は生物が完全に死滅するまで食い荒らされる。




