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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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34 災王の鍵:愚者の二度目(5)

 どうぞ。

 テレポートした〈玉華苑〉の中は、強風が吹き荒れる真っ赤な夕焼けのような、恐ろしい光景になり果てていた。ガーデニングをしていた、樹木をいくつも植えた庭の面影はどこにもない。


「これが、浸食八割……?」

「なんなの、魔王虫って」


 シェリーは【使徒】で、そもそも玉華苑に害虫が湧かないらしい。ほとんど何も気にしなくていいから、虫のこともほぼ考えていなかったようだ。


『害虫のなかでも、配下を連れてくるやつだよぅ。クワガタは、ベータで全滅報告が挙がりまくってたやつ……最強なんだよねぇ』


 バリン、と空間が割れてまた赤い風が噴き出した。真っ赤な中で輝く紺青が、幾筋も空を降りてきた。


「面構えが違いますね。さすがは王です」

「王の顔ってあるんだねー……」


 虫の顔は基本グロ画像らしいので、ちゃんと見たことがない。こんな遠くから見ただけで面構えが分かるなんて、さすがはレーネだ。なんてことを考えている暇もなく、敵は腕を広げた。上にぎゅっと曲がった角のある瑠璃色のクワガタは、羽ばたくたびにふわふわと妖精のような光る粉を振りまいていた。


「ギィギギギ……」


 赤くなった宇宙のような、ひび割れの向こう側。そこから、カブトムシやクワガタが大小交えてわらわら出てくる。



[防衛ラインを設置します]



 マス目で分かりやすい庭園内部から、戦うための空間が切り離された。


『全員、好きに暴れろぉ! なんでもやって!』

「「「「おーっ!!」」」」


 全員のバフがどどっと重なり、アイコンがもはや読み取れないくらいの数になった。空に向けてカードを投げまくり、エフェクトが弾けるのを確認する。まだ玉華苑が起こすダメージが発生しているなら、少しだけ希望はある。ゴゥン、と響く重低音とともに虫は爆発し、倒した人のところに武器を届けていた。


「このギミック、嬉しいねー」

「これ拾っていいの? 私の武器、壊れないんだけど」

『参加賞だよぉ、もらっちゃえ』

「強いし、使っちゃおうよ。シェリーも【愚者】気分、味わいたくない?」


 まるで義経みたいに、レーネは八艘跳びみたく敵から敵に飛び移って、すごいペースで倒しまくっている。こういうときは、ハットの出番だ。まず〈大きく開けて?〉を使ってから、武器を十数本拾ってぽいぽいと帽子に投げ入れる。


「行けー! 〈ウィ・ザード〉!!」


 武器がかなりかぶったからか、メンバーの人数と同じなのか、五体の悪魔が出てきた。それぞれがそばに控えて、似たような攻撃をしてくれる。私のそばにいる悪魔は、ボールをお手玉しながら敵に反射させまくっていた。


「ちょ、ちょっと強すぎない……?」

「百万ディールくらい浪費してるからねー」

『耐久力低いけど、これ金等級だよぉ?』

「金なの!?」


 アイテムのランクは、鉄・銅・銀・金・白金・宝玉と六つある。あのアワビは売ったとき銀等級だったから、魔王虫は配下でもめちゃくちゃ強い、ということなのだろう。打たれ弱い代わりに、何か強いところがあるに違いない。


「シャアア……」


 赤い風景の中で、瑠璃色のクワガタは自分と同じ青のゲートを開いた。すると、小さいビルくらいある本体とそう変わらない、ちょっと色の違うカブトムシが出てくる。


「召喚ってズルくないかなー?」

「あんたが言うか……」

「これだけ拾い集めれば、一本は残るでしょう」

『がんばーれぇー』


 鎖で足場を作って、アンナとレーネは連携攻撃をしていた。ブゥン、と飛んでくるクワガタを撃墜して、悪魔にもボールを渡して投げてもらった。空中を自由自在に遊ぶボールは、すごい速度で虫たちを叩き落としていく。


『私は地上やるねぇ。卵と幼虫も倒さなきゃ』

「あたしも参加しますぞ! 浸食率を下げなければですな」

「え、そうなの?」

『そっちは空中がんばって、戦力集中しちゃだめみたいだよぉ』


 ゆっくりと降りてきたカブトムシは、分身した私や刀を叩きつけたレーネを順々に見やる。そして、ミラーボールのようにビームを乱射した。赤と緑の光線が地面や結界の端で反射し、不規則に揺れながらこちらを狙う。


 かすめただけでも、HPが六割削られてしまった。〈道化師〉はもともと耐久面が弱い。ちゃんといい装備を買ってもこれなら、まともに受けたら即死だ。


「悪魔消えちゃった!」

「大丈夫、私が回復するから」


 回復のミストが飛んできて、すぐ全回復した。


「ありがと!」「いいよ」


 攻撃は得意じゃないはずだけど、遠い敵はビームで、近寄ってきた敵は旗竿で叩き落として倒している。ステータスって大事だな、と痛感しつつ、シェリーの強さを再確認していた。


 シェリーにも武器を拾ってもらって、みんなが使っていないものをたくさん放り込んでいく。キャパシティーが増大したハットから、超巨大な池が流れ出す。


「もいっかい、〈ウィ・ザード〉っ!」


 そして〈スクリーンフェイス〉で分身し、〈朧演刃賜〉と〈熔充送戯〉に〈ホット・アラーム〉を合わせる黄金コンボを使う。これより強い組み合わせはないんじゃないかと思うくらい、多段攻撃と再発はすごく強い。


 赤い空が、だんだんとひび割れがはっきり分かるくらい青に戻ってきている。


『これで、あれより強いのは召喚されないはずだよぅ』

「ありがと! じゃああとは……」

「雑魚は出てきますぞ」

「わたくしにお任せを。楽しくなってきました」


 すでに解を使っているようで、光の軌跡しか見えないほどの速度で空中を駆けている。ゲームだとドップラー効果とかはないのか、パーティーチャットの補正なのか、言葉はちゃんと聞こえていた。


「さー、王と臣下……仕留めますぞ!」


 号令がとどろいた。

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