32 【魔王チャレンジ!】四大ギルド全滅させてみる(3)
どうぞ。
グワンッ、と恐ろしい音を立てて受け止めたガギウスは、地面にわだちを描いて後退する。そこから引かずに、剣みたいに叩きつけて盾を削る。飛んできた投げナイフを、腕と一体化した盾で防ぎ、思いっきり振るったランスでガギウスの盾を弾き飛ばした。剣もかなりの高級品みたいだけど、こっちの盾を壊すのは難しそうだ。
「なんだっ、このステータスは!?」
「そりゃー、上級職ですから」
昨日使ったときに出てきたチュートリアルで、モンスタージョブには位階があることがわかった。ちゃんと下級職から習得した方がいいみたいだけど、アステリスはひたすら突進・突き技・隕石落としを強化していくだけらしい。何か見落としはありそうだけど、そこまで問題はなさそうだ。
この「ローリング・ロール」がありがたいのは、それだけではない。
「固ってぇな、どこで買った? キツネがもう売りつけてやがったのか」
「配布ですよー……キツネって誰ですか」
角が生えた盾は、角竜のジョブが初期配布してくれた、コスチューム付きの装備だ。ただジョブが変わるだけなら、武器を変える手間もすごく大変だったかもしれない。けれど、一定時間しか保たない変身は、コストの大きさに見合うだけのものをくれている。
「……」
「攻め手は強めらんねぇのか、ええ!?」
後ろからやってきた攻撃を、足を後ろに回して受け止める。とっさに太ももを狙おうと降りた短剣を、弾くように後ろに突き出した足でスライドさせ、引きずり落とす。軸足を払おうとしたガギウスは一歩間に合わず、蹴りは片足で跳ぶだけでかんたんに避けられた。
空中でちょっと回って、横薙ぎの斬撃と短剣の突きを、ランスと盾でそれぞれ止める。盾を力任せに押し込んで、黙っている人を吹っ飛ばした。木にぶつかる轟音が聞こえたところで、空を真っ赤な光がなでた。キュオン、と通り過ぎた光が消えると同時に、遠くで大爆発の音が響き渡る。
「クラスタルか! もう兵器じゃねぇか、あんなもん……」
「貯めてたからなー……。昨日からずっとですよ」
「お前がドン引きするレベルかよ!?」
もともと【使徒】の基礎ステータスはかなり高い。MPが高めの〈治療師〉が、回復するそばからチャージし続けていたらどうなるか。始めてから数日しか経っていないけど、結果はもう出ていた。
ランスは剣には止められず、防御した上からもダメージを与えていく。剣を取り落とした隙をついて心臓を貫き、盾で殴って吹き飛ばした。
「オーバーキルだろ、これは……」
「もう時間ないので」
相手は、木の幹にもたれかかって消滅した。
「……」
「あなたが最強だったんですね。あ……」
効果時間が切れて、私は角竜の騎士から道化に戻った。全身が鎧兜で黙っていて短剣、なんにも分からない人は、『負けでいい』と吐き捨てるように言った。
『……脱退する。もう無理』
「え? じゃあえっと、行っちゃうんですね」
『そっちのギルドに入れてほしい』
「連絡しときますね。このままログアウトするか、また明日にでも」
わかった、とよくわからない人はログアウトしていった。
もっと魔法も矢も飛んできていいのにな、と思ったけど、ちっとも来ない。木の上に陣取って遠距離攻撃すれば、私は簡単に倒せそうなのに……ぜんぜん、狙ってこない。
「……あ」
「気付いたか。うちのギルマスが、ちょっとな」
雲形定規みたいなナイフを持った人が、木の上にいた。
「四大ギルド、なんて言ってくれるのは嬉しいがね。一枚岩どころかバチバチでね、あれが負けるように工作してたんだ」
「えっと、ありがとうございます……?」
「いいよ別に。むしろ、どう潰すか考えなくて済んだ」
「わー……」
あんまり考えたくないけど、けっこうな恨みを買っていたみたいだ。
「あっちは、助けも必要なかったみたいだがな。ありゃなんなんだ、本当に人間なのか? 破壊神か何かだろあれは」
「道場の跡取り、みたいですよ」
刀さえ揃ってしまえば、レーネは誰にも負けない。アンナが出会ったときも、メタバースの物理演算が狂ったかと思うほど、ものすごい光景の中だったそうだ。信じられるかと言われると微妙だけど、やれる気はした。
「じゃ、俺らはこっちにいるんで、好きにやってくれ。負けても損しないんでね」
「私は下っ端なので、交渉とかはアンナにお願いしますね」
てきとうに丸投げして、森の中を進んでいった。強い人はまったくいなくて、ほとんど流れ作業で進んでいく。カードを投げ、カードを作り、強化されたボールを出しては踏み潰して、ほとんど分身も出さずにさくさくと軽い戦いが終わる。
『フィエル。戦い終わったよぉ』
「あ、もう? 白旗挙がった?」
『そこまでじゃないけどねぇ。七割倒せて二割逃げて、一割が降参した感じ』
「一割って、ほんとに全滅じゃない……?」
軍隊は七割負けたら全滅扱い、と聞いたような気がする。
私の戦いはこんな感じで、わりとあっさり終わってしまった――だから、ここからは別の場所で記録された映像の話になる。




