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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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31 【魔王チャレンジ!】四大ギルド全滅させてみる(2)

 切り札、ついに登場!


 どうぞー。

 五人組の精鋭部隊は、かなり手ごわそうだ。だからこそ、切り札は最後に使う――


「〈セット・スタンダード〉」


 ゴォーンと鐘の音が響き、全員が停止した。


「……え、……?」


 思いっきり〈ヴォルカナイト〉を蹴り込んでから、カードをありったけ投げて〈ブライニクル〉を落とす。停止した時間が動き出すと、プレイヤーではどういう感じになっているのか、ハッとしたような顔に全弾命中した。


「ぐわっ!?」「がっ」「……!」「ぼへっ」「ぬぃ」


 自信の通りちゃんと強いようで、倒れていない。


 さっとカードを投げて、両手に飾剣を持った分身を八体作り出した。分身を使ったのが一人だけだと、本体を含め合計九体になる。ちょっとしたチップスだけど、分身を使う人はぜったいに覚えておいた方がいい知識だ。そして、昨日レベルが上がって覚えた特技も使う。


「これにしよ。売ったらめっちゃ高そうだけど」

「何するつもりだ、それ十万はくだらんだろ!?」


 アワビのような、色濃く輝く真珠のような材質の手持ちハープ。いちおう武器扱いで、ランクも相当高いみたいだけど……ハットの特技は代償が大きすぎるから、これくらいなら普通だ。


「〈ウィ・ザード〉!」


 ハットの穴から広がった血のような暗闇が、手持ちハープを飲み込んだ。暗闇の色が変わって、春を思わせる桜色と若葉色の池に変わる。同じ色の竜巻が湧き上がったかと思うと、桜が咲く椅子に座ったドレス姿の悪魔が現れた。


「これだからコストゲーは……!」

『つま弾くままに』


 かき鳴らしたハープが、木々や植物たちをモンスターに変えて、ゆっくりした動きで敵に接近させていく。戦闘職だと木を伐るのは難しいのか、対処にかなり手間取っている。飛ばすカードは、確実に相手を削っていった。けれど、いつの間にか四人になっている。


「……」

「わっと……」


 短剣の一撃を、なんとか避けた。短いぶん取り回しがすごくいいようで、時間差をつけて飛ばすカードがすべて弾かれてしまう。


「おい、俺らもいるだろ?」

「そうでしたねー……」


 後ろからやってきた斬撃は、しかし木の腕が防いだ。


「お願い」

『仰せの通りに』


 ピエロのようでマジシャンのようでもある不思議なジョブだけど、〈道化師〉の強みは間違いなく「強みをいくつも両立・並行できること」だ。カードからもハットからも召喚できるし、カードで分身しつつ飾剣で幻惑できる。


 跳ね回るボールがふたつ破壊され、次の瞬間ひとりが踏み潰されて消滅した。


「なんなんだこいつは……! 初日勢だからって、おかしいだろ!」

「ボール使ってる人がいませんからねー。情報がないんですね」


 あの〈虚空の芽〉のときに思ったけど、乗れないボールはただひたすら邪魔にしかならない。大きくしないとあんまり効果がないけど、大きくすればするほどすさまじく邪魔で、キックする技もかなりの大ジャンプをしないと意味がないだろう。誰も使わないのも当然で、〈リンクボルト〉に使ったり盾代わりにしたり、くらいが関の山だ。


 ひとつずつ比べれば、すべての特徴に上位互換があるのだろう。性能とはそういうものだから、比べて強い方を使うのだと……アンナもとっこも言っていた。短剣の人を分身に変わりばんこに止めさせながら、ハープの悪魔が最期に放った大嵐を見た。真空が切り裂いたふたりが消滅し、残りがリーダーと短剣の人だけになった。倒れた三人も強かったのだが、少しだけ耐久が足りなかったみたいだ。


「品切れかぁ? びっくり箱かと思ったら、もうカードばっかしじゃねえか」

「使い過ぎたとは思ってますけど、まだありますよー?」


 どうやら敵はまだまだいるようだから、ほんとうに対処のしようもない技は温存しておきたい。そのために飽きさせるのも忍びない、攻撃手段もあまり通じていないから……ちゃんと使うことにした。


 黒いデッキにたった一枚残った、最後の封印カード。天球図の下で咆哮する角竜、その名も〈アステリス・ランドドラゴン(・・・・・・・)〉……このあたりでは最強のモンスターの一角だ。


「ちゃんと見ててくださいねー。【おもてさかさま情転図(ローリング・ロール)】!!」

「ッ、解か!?」


 空から流星雨が降り注ぎ、頭上で止まったかと思うと私の身体に光となって融合していく。要所のみを覆った白い甲殻の鎧、サファイアブルーのレオタード。白い素材に青のラインとラメが入ったサイハイブーツに、真っ白いロンググローブ。角竜の頭を思わせる白い大盾と、内側から発光する蒼いランス。申し訳程度の鉢金にも、たぶん同じ色の角が生えている。変身が終わった瞬間に、アナウンスが聞こえた。



[ジョブが〈道化師〉から〈アステリス・ランドドラゴン〉に変更されました]



 役職(ロール)回転(ロール)する――言ってしまえばすごく簡単な、意志の違うモンスターをジョブとしてその体に宿す、「カード」と【愚者】の共鳴アビリティだ。どうやら、何かの条件を達成すると「モンスタージョブ」が解禁されるらしい。ボスモンスターを封印する、という条件を経て、道化は命を身にまとう。


「ん? それ使い切りだろ、昨日も……」

「はい。テストのために使いましたよ」


 愚者は愚かな賭けに出て、命さえも札にする。そこで使われる札は、当人の命のみにとどまらず、他者も天秤に乗せてことを為そうとする。〈アステリス・グランリザード〉は、武器の扱いを覚えるために使った。だからこそ、無駄死にさせられる人なんて見たくなかったけど……仕組みだからじゃなくて、人はそういうことを思いつく生き物らしい、と今さら気付いた。


「十万投げ出すだけはあるなぁ? 付け焼き刃がどんなもんか、見せてもらおうか」

「……」


 微笑みだけで答えた私は、まっすぐに跳んだ。

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