28 縮まることでより激しくハジケる土壌ができる
どうぞ。
ログインすると、いつもの街にいた。ギルドホームにログインすることもできるようだけど、今のところは買い物や施設や人手などを考えて、街の方がいいと思っている。
「きみ、どこかギルドに入ってる? 零細でもいいんだけど」
「……あ、もふもふのお兄さん。入ってますよ」
前にもふもふの動物(?)をなでていた、ダンジョンのことを教えてくれたお兄さんだ。
「おれは「ファイバー」。いやぁ、勧誘合戦がすごくて。その零細も、系列系のやつね」
「なんですかその、息苦しい感じ」
「企業系の攻略ギルドとか、初日から結成してるガチギルドとか。あれだね、ブラック企業の企業戦士みたいなのがさ、いっぱいいるんだよ」
「うわー……」
ギルドは、人数が多ければ多いほど有利になるそうで、真面目じゃない人でもいればいいそうだ。けれど、入ったら入ったで要求は厳しいし、ログインの頻度や時間、人の組み合わせも勝手に言い渡されるらしい。
「ちょっと悪く言いすぎたか。でもね、危ないとこ入るとほんと危ないから。女の子は本気で、気を付けといてね」
「心配してくれてるんですね」
「ゲームはほら、楽しいのがいちばんでしょ。楽しくなくしちゃう人がいるんだ」
「気を付けます。たぶん、倒せると思いますけど」
勇ましいなあ、とファイバーさんは苦笑した。
「世界の方の陣営が大事なら、「クエスト中です」って断り文句もあるからね」
「ところで」
だいたいわかったから話題を切ろうと、切り出す。
「そのもふもふは?」
「ぬいぐるみ。初期クエストがちょっと特殊でね」
「そうなんですね。それじゃ……」
「ごめん、長話しすぎた。じゃあね」
あれね、と大通りの大集団を指さしつつ、お兄さんは去っていった。できる限り迂回して集団を避け、三角飛びと武器を活用して、屋根まで登る。さすがに屋根にまで何十人も配置するのは難しかったようで、まったくやる気のない人がほんの数人しかいない。その人たちも、「行け」と言わんばかりに手をさっさっと払っていた。
会釈をしてから、テレポートできるのに気付いて、ギルドホームに飛んだ。
「おかえりなさいませー。たった一日で、状況が大きく動きましたな」
「とっこ、これってどうすればいいの?」
「流れを奪い取る、くらいしか思いつきませんなあ。それもそう簡単ではございませんぞ、百人単位をまとめる力を切り崩さなければ……」
「やる気なさそうな人、いっぱいいたけどなー……」
きっかけがあれば、突き崩せるような気はする。それをどうすればいいのか、そこが問題なのだろう。
「そういえば、次の配信って何やるの?」
「もすこし考えようかと思っていたのですがー……そうですなー、ちょっとやらかしてしまいましょうか? アンナにも連絡しましょう」
「え、何するの」
「題して「魔王大作戦」! ですぞ!」
ろくなことじゃなさそうだな、と思った通りに、すごい流れになってしまった。
「やーやー、みなさんどうもこんばんはー。徒歩で来ちゃったとっこでございますよー。今日はすこし、企画のお知らせをしたく配信をしております」
五角形の椅子、それぞれの辺にみんなが座っている。
「きのう今日始めた『ストーミング・アイズ』なのですがー、すでに空気が滞りつつあるようなのですなー。いくつかのギルドが人を集めに集め、藤氏にあらざれば人にあらずのごとくに……とても窮屈になっております」
『ライト層締め付けすぎよな』『自治厨湧きすぎてキツい』『あれやったら人もう集まらんくない?』『勧誘怖すぎてインできてないわ今日』『あんなガチることある?』
コメントの流れも、おおむね同意のようだった。
「しかーし! 我らが「水銀同盟」は、そんな風潮に反旗を翻したい! よそはよそでうちはうち、個人は個人。我々もただの友達グループでありますからなー」
アンナの人脈で集まった五人だけど、別の形で出会っていても仲良しになれたと思う。ただのいい子ちゃんではないけど、付き合いきれないほどクセの塊でもない……いやどうだろ、とちょっと疑問を浮かべそうになったところで、言葉が続いた。
『というわけで、宣戦布告をするよぉ。ギルド対抗戦の仕組みを使って、いま主流の四大ギルド……「ブレイブ・パイオニアーズ・バトルフロント」、「擬音盛者」、「ミルコメレオ」、「タイトルタイルズ」。この四つに戦いを申し込むよ。こっちの戦力は五人』
『五人!?』『うせやろwww』『むちゃくちゃで草』『千人超えを五人で……??』『正気か?w』『負担多すぎませんか』『強いのは知ってるけどさぁ……』
「まーまー。遊撃に二人、防衛は三人。これでも勝てると踏んでいるのです」
『うちはみんな強いからねぇ。未開拓のダンジョンだって一発クリア、一人で五十万ディール持ってる子もいるんだ。じゃ、発表はとっこからだね?』
「ふっふっふ。明日の配信は夜九時から、企画の名前は――」
大きなテロップが、空中に浮かぶ。
『「魔王チャレンジ!」』
ばばーん、と音が鳴った。
「世界の流れに抗って、ひとつの陣営だけが天下を取れるのか。ちょっとだけ試してみたかったのですがー……これまではなかなか機会がございませんでした。だーがー今回、天下を取っていい空気が吸えそうなのです」
『魔王になってみたいって思ったこと、なぁい? もちろん、戦わずにこっちの軍門に下ってくれてもいいよぉ。負けても敵のままでいてくれておっけぃ。企画がダメになっちゃったら、明日は謝罪配信だねぇ』
あはは、と二人は笑い合う。
「それでは、明日の夜九時から一時間、ギルドホームを実体化しておきますのでー……木っ端微塵に消し飛ぶ覚悟のある方は、いつでもやってきてくださいなー!」
『待ってるよぉ。ではでは』
配信停止ボタンを押した二人は、振り向いて微笑んだ。
『楽しもうね?』
「お願いしますぞー」
私は、それに微笑みで返した。




