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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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25 常人感情:空気は目に映ることもなく

 どうぞ。

 メタバースでの配信は、誰にでもできる。それゆえに配信のハードルは――否、配信で名を挙げることの難しさは、昔とは比べ物にならないほど上がった。メタバース内での映像は同じ空間内のどこにでも届けることができ、下位空間であるゲームの映像も同じように、メタバース内ならどこからでも見られる。


 国民の八割以上がVRデバイスを所持し、コアタイムともなれば一億人近い同時接続数を記録するメタバースにおいて、配信はひと昔前のテレビと同じ程度の……どこでも誰でも見られるものである。選ぶチャンネルはそれこそ無数にあり、どれを見るかも人それぞれ違う。企業所属と個人運営が同程度の地位を保つ、これこそ自由競争社会のあるべき姿なのかもしれなかった。


 そんな中で、敗れたものの姿がひとつ――。




 ハンドルネーム「メレア」は、練習でくたくたになった体をベッドに横たえて、VRデバイスを起動した。細身のスポーツ少女の身体が、サイバーピクセル的エフェクトを抜けた。メタバースに降り立った「メレア」は、昔に流行った地雷系の服にウサギの仮面をつけた、華やかな少女に変わる。


「あ、今日もとっこちゃん配信してる……」


 年や背格好が近い少女への憧れは、彼女がずっと持ち続けているものだった。所属しているスポーツクラブからオリンピック選手が出たともなれば、クラブ全体で彼女の演技を見ることもあり、お祭り感覚になることも少なくなかった。より正確に言えば、高校の体育館が小さすぎたため、生徒数が少なかったスポーツクラブの体育館を間借りしていただけなのだが……それでも、彼女の演技は美しかった。


 平均台の上で何度も連続で回転し、跳馬の着地もブレがほとんどなく、段違い平行棒でもまるで泳ぐかのように滑らかな動きをしてみせた。重力のある地上で、支えるのは腕二本のみという不安定さの中で魅せたそれに、「メレア」の心は囚われた。


 彼女に並ぶ才はない――部活動を始めて一年、二年と経ったとき、「メレア」はようやく気付いた。十七歳が迎えた春、そこから数年で伸びなければ競技者としてのピークは終わりだ。焦った彼女は、同じ部活動にいた選手の中でも、とくに優秀だった同級生と友達になろうとした。


 いろいろと手を尽くしたものの、方策は失敗した。それどころか、彼女が部活動をやめて逃げていく結果になった。それからもアプローチは幾度か繰り返したが、彼女には新しくできた友達がいるらしく、試みは上手くいかなかった。才能のある友人と交流すれば、自分も何かをつかめるかもしれない。そんな考えは、なくなることはなかった。才能に差がありすぎてもいけない、けれど能力のないものと組むこともない。


 孤立はしない、けれど深い仲にもなれない。「メレア」は、スポーツ推薦の水準には達することなく、一般入試で普通の大学に入った。そして練習に励み、……それでもなお、いっさい芽が出ることなく腐りかけていた。競い合う友人もなく、うわべだけの関係にとどまって、関係の薄っぺらさを自覚してさえいない。


 星に手を伸ばすたび、その跳躍の低さを知り嘆く。彼女はいつもそうだった。だからこそ、できそうでできないことをする配信者が見ていて楽しかった。縛りプレイを楽しんだりぼこぼこにされたりといった様子が、日々の練習を繰り返す自分と重なったからだ。


「今日は一人プレイじゃなくてMMOか。ストーミング・アイズ?」


 最近プチ炎上していたゲームである。炎上や失墜のニュースはよく追っているせいか、プレイヤー全体に不利になるナーフを行い、ストア評価が3.0にまで落ち込んだことは知っていた。そんなゲームをして大丈夫なのか、と考えてメッセージを送るものの、認可が出ずコメント欄に流れなかった。


『このゲーム、なんとあの「たてわきサフォレ」さんに誘っていただきまして。あちらの人脈で人を集めてもらっておるのですなー』

「へー。あのレズ、やっぱこういう人脈はあるんだ」


 自称高校生と言いつつ、自宅に女を飼っているという噂が絶えないバーチャル・インテリアコーディネーターである。本人は「友達の家に同居している」と噂を否定しているものの、メタバースでも女に対しては手が早い。公共スペースのベンチで足をぶらぶらさせながら、彼女はストリーミング・ウォールを眺めていた。


 全身呪い装備の変態と化したとっこ、青いイヴニングの顔隠し女、ファンタジーサムライのコスプレ、耳なしの白バニー、ギリシャ風の服を着たサフォレ。画角に入ったパーティーは、一見すると意味不明な組み合わせだった。それぞれが縛りプレイでもしているのか、と思いながら戦いを見て――彼女は、感銘を受けた。


「すっご……強いんだ」


 化け物じみた戦いぶりは、すさまじいものだった。そして彼女は、白バニーの戦いぶりに彼女を……揺城赫祢(ゆしろあかね)を見た。高校生のときのスポーツクラブで、烏野曖音を除いてはもっとも才能のあった選手だ。友達になれればと思ったものの、作戦は成功しなかった。


 ベリーダンスで使う剣を用いて、新体操でいうクラブの演技を再現する白バニーの動きは、彼女そのものだった。足回りの動きは本人としか思えず、表情づくりも完璧である。競技経験者だと断定して間違いない、と確信できるものであった。


「もう一回……もう一回試してみよう。友達になれたら、あのときのことも」


 少し、ほんの少しだけ……「メレア」の作戦は、いくつかのトラブルを誘発した。無能なバカが無駄な暴走をして、彼女を追い詰めてしまった。あのことだけは、謝罪する必要がある。


 そう考えた彼女は、さっそく『ストーミング・アイズ』をダウンロードし始めた。

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