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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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23 映すは未来、描くは過去、いまはカンバス

 どうぞ。

 キャラクリエイトのときに言われた「身に付けなくてはいけないもの」は、モンスターにも反映されている。拘束具、刺青、アクセサリー、仮面、亀裂……五種類の意志の証は、命も魂もない【有為】や神そのものでない限り、必ずある。


 このアステリスがどの意志のもとにあるのかは、ぱっと見だとわからない。仮面やアクセサリーはすごく分かりやすいけど、刺青や亀裂は見間違えそうだ。目が良かったり目利きができたり、といったジョブだと一発で見えるようだけど、〈道化師〉にはそんな能力がなかった。


「空間展開とかするけど、仮面ないし……」


 分身が攻撃している隙に、できるだけていねいに全身を見る。〈熔充送戯〉と〈ホット・アラーム〉の黄金コンボを叩き込みつつ、アステリスの全身になにか違和感がないか、じっくりと見ていった。拘束具やアクセサリーのような人工的なものはなく、仮面のようなものも見当たらない。まだまだ経験が浅いから、見分けるのが難しい……


 そんなことを考えていたら、恐竜がこっちを向いた。動き具合はできるだけ同じにしようと思っていたけど、しっかり見抜かれてしまったようだった。


「グゥウオオ……!」


 全力での突進は、早いけど遅い。【愚者】で〈道化師〉の私は、敏捷にかなりの補正がかかっている。重力がちょっと弱くなったこの空間では、加速より初速の方が大事――横に避けた瞬間、追尾がちょっと甘くなり、速度が鈍った。〈セット・スタンダード〉は効かなかったけど、〈ターミナル・ベル〉は通る。


 どうやら体力はまだまだ残っていて、強めの技を連発しているのに、倒れるどころか揺らぐ様子もない。防御も固くて、分身の中から本体を見抜く頭もある。すごい敵だ。突進ばかりで攻撃を当てられなかったアステリスは、〈ターミナル・ベル〉の三十カウントをすべて受けた。ついでにアラームセットされた〈熔充送戯〉が命中する。


「ゥウグ、ルゥオォオ!!」


 角がまた光ったかと思うと、空から光弾が雨のように降り注いだ。〈ゲー・ティア〉で受けた……のはいいけど、いまは食材も料理も持っていないから、サーを呼び出すのはなんだか気が引ける。広がった穴の下に避難していると、尻尾が回り込んできていた――後ろ宙返りをして、とっさに出した〈アイシクル〉をぶつける。


 氷属性は特効なのか、アステリスはあからさまに不快そうな声をあげた。仕方がないので、〈エンチャント・クールアイス〉で属性を付与したカードをいっぱい投げることにした。特技を使わないと封印はできないけど、ヒントが見えたら御の字だ。


 光の粒がさらさらと飛んでくるたび、ほんのわずかなダメージがちょっとずつ起こる。相手の攻撃もちょっとずつ激しくなってきているけど、こっちの攻撃が通っているのもわかった。


「様子見でばらまくの、本来の使い方だもんね!」


 ばらばらと投げたカードが、敵の体表に色とりどりの焔を咲かせて消えた。


 刺さったところがひとつでもあれば、とっさに防御できないところが分かる。それに、カードが破損するたびに「砕焔」ダメージが発生する……玉華苑で起こせるいろいろなダメージのなかでも、「砕焔」はカードのためにあるとしか思えない。そのくらい、ふたつの相性は良かった。


 発動条件がめんどくさくて、発生するために植える木も育ちにくい「砕焔」は、使う意味がほとんどない。「アイテムが破損・消滅するとダメージが発生する」……簡単に聞こえるけど、ふつうは消費扱いになるから、そっちは「火花」ダメージに変わってしまう。つまり、ほんのちょっとで耐久値を使い果たすような、すごく弱いアイテムがなければいけない。


 どんなアイテムにも揃えるコストがあるから、「すぐ壊れるアイテムを作る」意味はほとんどない。けれどそこに、ほとんどノーコストで作れて、一瞬で壊れてしまうアイテムをいくらでも作れる、という状況が訪れた。【愚者】の力と、武器でありながら消費アイテムでもあるカードの組み合わせだ。


「ゥグルゥオオ!」

「そっちは加速できないもんね? 時計って強いね」


 再び降ってきた流星群を、〈ゲー・ティア〉で飲み込んで防ぐ。


 すべてのクールタイムを短縮できる〈アクセルハート〉や、消費なしで特技を再発動できる〈ホット・アラーム〉は、時計という武器の強み……時間制御をすごくわかりやすく見せている。扱える武器が多いぶん、つねに切れる札を多く保っておくことができるから、戦いのいちばん大事な要素になっていた。


 リーチ外からちくちく攻撃して、できうる限り早めに攻撃を避ける。もともと一人で戦うようなジョブじゃないけど、〈道化師〉の戦い方はこれでいいみたいだ。


「それに……キミの解って「星」なんだよね? 見つけちゃったー」


 結界を展開するときも、流星群を降らせるときも、光っているのはエリマキに付いている角(?)だった。ここに当たる攻撃があるたび、おそろしいくらい苛立っている雰囲気が感じ取れる。


「〈シールバインド〉!」


 とろりと黒い光を放ちながら飛んだカードが、ちょうど上を向いたアステリスの角に刺さる。カァアンッ!! と体の芯にまで響く高い音が突き抜けて、衝撃波がぶわりと広がった。カードがめり込み、けれどアステリスはそれに抵抗し……結果はすでに出ていた。


 結界がひび割れて崩落し、尻尾の方から光の粒に変わってカードに吸い込まれていく。封印は、成功している。


「グゥルゥ、ウゥオオオゥウウ!!」

「〈ゲー・ティア〉」


 とっさに放った光弾の嵐を、開いた空間の穴が食らい尽くす。


「ごめんね? さよならだよ」

「ルォオオォオオ……!!!」


 黒いカードの図柄が、無地から「角竜と頭上の星空」に変わった。



[このカードは、意志アビリティ【おもてさかさま情転図(ローリング・ロール)】に使用可能です]

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