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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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20 逃げてもゴールには着かないようで。

(2025/8/10 つ止まり→つ上がり(落語用語で十のこと)に修正)


 今回と次回はちょっと鬱回。


 どうぞー。

 いつか兄が見ていた動画のように、回転砥石でジャアアッと何かを研いでいる音が聞こえた。いつも使っている飾剣と形が似ているけど、金属は真っ黒だ。作業場に近付いてみると、ちょっとこっちを見た鍛冶屋さんは少し鼻を動かして、ボソッと言った。


「見ていけ。お前にやる」

「え?」


 ほとんど何も言わず、「これをだ」と言わんばかりに人差し指で示したあと、作業が続く。不思議な色の液体に浸けたあとすぐに揚げ、腕にある地割れのような刺青が光って、剣は炎に包まれた。刺青があるということは、この人は【賢者】なのだろう。


 炎に包まれたそれを水に浸け、すぐに揚げてスポンジで拭く。それは黒ではなく、青く妖しい光が揺らめく、深海を思わせる剣に変わっていた。まだ納得していないのか、どうやらエルフなのか、耳の長い男性はまた砥石の方に剣を持っていく。そして、不思議な機械で表面を彫っていった。


 ゴシック風の紋様を彫り込んだあと、男性は置いてあった貝殻をとんと叩く。さっきは赤く光っていた刺青は、今度は鋼色に光っていた。何をしたのか、細くなった貝殻がぱらぱらと落ちる。ぱちり、ぱちりと嵌め込まれるそれは――


「象嵌?」

「……」


 にやりと笑った男性は、最後に貝殻をはめ込んだ紋様……象嵌に透明な樹脂を塗って、霧吹きで何かを吹き付けた。すぐに冷え固まったようで、深海のような深い蒼、少し色調の暗い虹色の象嵌という、おそろしく豪奢な飾剣が完成した。


「最近、儲けが多い。手慰みだ、持っていけ」

「い、いいんですか?」


 何も言わずに投げ渡されたそれを、きちんとキャッチする。次の材料を取り出して作業を始めた男性は、もう何も聞く気がなさそうだった。ハットを取ってお辞儀をしてから、さっきまで使っていたものと入れ替え、腰に差す。


 歩き出すと、背後からご機嫌な槌の音が聞こえていた。




 チュートリアルでだいたい全部見たはずだったけど、もう一度スキルやアビリティを確認することにした。意志アビリティは変わっていないはずだけど、〈道化師〉のジョブスキルだけはきちんと確認していない。そういえば、武器の特訓はしたのにジョブの特訓はしていなかった。


 手近にあったベンチに座って、ステータスウィンドウを開く。


「えーっと……。あ、これか」


 人生はひとつの演劇、なんて言葉がある。それをそのままスキルに起こしたような効果だった。



[〈エヴァーアクト/劇中錯〉

 特殊ステータス「魅惑」が付与されていない防具は、装備できなくなる。


 道化はいつも舞台にある、メイクを落とせばただの人。なればこそ、スポットライトと視線を浴びて、生涯を光の中で過ごす覚悟を。落ちれば砕けるガラスの人形、輝き続けるうちが華]



[〈びっくり手わざ〉

 手に持っていない武器も装備状態として扱い、すべての装備状態の武器が持つ特技を発動できる。


 酔ってらっしゃい見てらっしゃい、二つ三つじゃ留まりやせん、四つ五つに六つに七つ、つ上がり峠にならざる手わざ! 数え数えに時忘れ、夜のまぼろしが露と消ゆ]



「武器ぜんぶ同時に使えるの、ジョブスキルだったんだ……?」


 いくつも武器を持っているのは珍しい、と言っていたのはそういうことだったらしい。テキストはなんだか、気合いが乗っているんだろうけど微妙によくわからなかった。特技はちょっと増えたけど、これまでとそんなに変わらない。飾剣の〈爪曜活花(そうようかっか)〉と〈魘々逃血(うしろへつづく)〉、それにボールの〈どど怒涛潰終(どとうついつい)エル〉は、効果を見る限りかなり強そうだった。


 いろいろ試すのもいいけど、そろそろお昼だ。いったんログアウトして、お昼ご飯を食べることにした。




 キッチンでカップ麺のお湯を沸かしていると、アンナがリビングまで降りてきた。


「あ、お湯沸かしてる……わたしの分ある?」

「あるよー。どれにする?」


 どれにしよっかな、と結局いつもの「古代風ヌードル(ギリシャ)」を出してきて、ふたを開けていた。美味しいのかなと思いつつ、なんだかよく分からないからぜんぜん食べていない。私はいつものちゃんぽんだ。


 お湯が沸いたところで、両方のカップにお湯を注いだ。


「こういう時間、母親思い出すなぁ。お母さんとぜんぜん違うよ」

「また、手作り再現やってみない? “お母さん”になれるようにさ」


 アンナの実母は、とにかく子供を縛り付けるタイプ……というか病気だったそうだ。メタバースで友達になったみんなと遊んでいたとき、帰らないと言い出したままうちに居着いて、両親もいつの間にかあれこれの書類を揃えて、うちの子にしてしまった。私にはあんまり言っていないことも、お母さんはぜんぶ知っているようで、すごくいろいろと世話を焼いている。


 いきなりできた同い年の妹にちょっと驚いたけど、一緒に過ごすぶんにはほとんど問題もなかった。もともと仲良しだったし、VR空間でのスペースデザインをすでにやっていたから、高校生のころから収入もあった。


「料理かぁ……私は、アカネに作ってあげたいんだけどなぁ」

「ずっとVR空間(あっち)にいたら、料理してる時間ないでしょー。昨日お風呂入ってないんだから、今日はいっしょに入るよ?」

「はぁい。楽しみにしとくよぉ」

「もー……」


 アンナが言っていたことは、本当にその通りだなと痛感する。



――誰かのこと気にしてるときは、いろいろ忘れられるんだよねぇ。



 このまま忘れられたら楽なのに、と……ちゃんぽんをかき混ぜながら、思った。

 アカネにとってのアンナは「同じ部屋で同居する義理の妹」です。法律上は義理だけどもうほぼ事実上の妹、お世話も焼いてるけどちゃんとほっとく。

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