164 イニーズ・プレイパーク(7)
どうぞ。
一方、レーネとアヤコの二人連れは、戦いながら互いの技を読み合っていた。
「たしか、刀は敏捷依存の技も多いのでしたか」
「鎖は筋力と防御依存なのですね。わたくしにはとても、軌道が読めそうにありません」
「……そう謙遜なさらないでください」
初級ジョブ〈剣士〉の可能性はとても幅広い。そして、どの武器を使うかによって伸ばすべきステータスも変わっていく。ごくふつうのブロードソードなら筋力と器用、クレイモアならばやや筋力の比重が増し、レイピアならおもに敏捷に依存するようになる。そして刀は、敏捷と器用に大きく依存する。どの武器を装備しているかによって、〈剣士〉のステータスがどう伸びるかも変動していく。
そして何より、中級・上級と進化していく先も多い――〈浪仙〉と〈咲客〉というふたつの上級ジョブに就いた彼女は、敏捷だけで言えばギルドでも……仲間内を除いた全プレイヤーの中でも、最上位に位置する。
「さして苦戦はしなさそうですね」
「坊ちゃまがすこし心配なくらいでしょう」
ツバメガと言ったか、チョウのように美しい蛾が舞う。ひとつ羽ばたくたびにその体は両断され、粉砕されていく。
二人に襲いかかった試練は、恐るべき数の繭が眠る部屋であった。おおかた、技をすべて出し切らねば倒しきれないほどの物量で攻める、といったコンセプトだったのであろうそれは、しかし作業的に処理されていった。八艘跳びを実現できるレーネと、単純に強すぎるアヤコの組み合わせは、特技ではなく技量で以て敵を上回ってみせた。
一体が倒されるたび、繭が開いて蛹が羽化し、新たなツバメガが飛び出す。範囲攻撃かフィールド系の特技を使って蛹を吹き飛ばす、あるいは複数人で連鎖攻撃を使うことでかんたんに倒せるモンスターなのだろう。
(坊ちゃまの方に現れなくて助かりました。この程度なら、それほど苦戦しないでしょう)
鎖と分銅という組み合わせは、武器カテゴリでは「槌」と「鎖」の両方にまたがっている。槌よりも射程距離が長く、鎖よりも破壊力で上回ることもある――が、ことパーティープレイにおいては非常に扱いづらい。前衛であれ中衛であれ、味方を巻き込むリスクがある武器は、基本的には好まれない。当たってもダメージがないとはいえ、味方の動きを邪魔するような動きは、あのフィエルですら抑えている行動だ。
ゆえに。
(少し危ないかと思いましたが……決闘になれば、すぐに首が飛びますね)
破壊をもたらす一閃が面となり、ツバメガを吹き散らしていく。それほどの破壊力がぶつかれば、ごく軽い少女は大きく吹き飛び、動きを妨げられるだろう。しかしながらレーネは、軌道をほとんど完全に読み、読みが外れてもすぐさま避けてみせる。
ステータスの中でも「敏捷」は思考速度・反応速度にも影響し、上げるほどよいとされている。おおむね二割から三割以上の差があるとまったく対応できなくなるため、マップごとに到達しておくべき速度はすでに判明していた。アヤコがとげ付きの鉄球を鎖で振り回して出せる速度は、レーネの出せるそれをはるかに凌駕しているのだ。
「方法を変えてきましたね」
「問題はありません」
蛹があることを知ってか、飛んでいるツバメガを見つけてのことか……蜘蛛が空中に巣を張り始め、オサムシがせかせかと走ってくる。捕食者たちは蛾を食べて力を蓄え、プレイヤーたちを狩り始める予定だったのだろう。しかし、そうはならない。
「〈ハードプレッシャー〉」
防御に依存するその特技は、モンスタージョブ〈デビルゴーレム〉と〈蒼鋼鬼〉を修めるアヤコの最強の一撃である。ひゅう、と振り下ろされたとげ付きの鉄球は、部屋全体に激震をもたらすほどの超越的な威力で以て、美しく輝くオサムシを圧潰した。地面に亀裂が入り、支柱と天井に届いたそれは、ツバメガの繭をばらばらと落としていった。
「あら、あちらでも地震が。大破壊はそれなりに起こせるのですね」
「刀一本でも、いろいろとできるのではありませんか?」
落ちてきた蜘蛛が、光になって砕け散る。凶悪なボスになる予定だったと思われるそれは、なますに切られて手足もいくつか失っていた。
「終わり、ですね。戻りましょう」
それぞれが集めたピースを集めると、四色のパズルはカチンと噛み合って組み合わさり、もとの四角形に戻った。
『イニーズ・プレイパークへようこそ! ああ、きみたちは封を開けてしまったのだね。自ら封じた、この私の魂の鍵を……』
「えっ、名前変わってません?」
「プレイ…… preyの方か」
「では、わたくしたちが狩られる側に」
ふわりと浮き上がったかと思うと、パズルは魔法陣へと分解していった。
「これ、あの……ジェロゥさん」
ベールで髪を覆った浮遊する人魚は、何かに気付いたのか疑念を口にした。
「イニーズさんって、【愚者】だったんですか?」
「いいや、【賢者】だ」
「ってことは、“これ”が……この街が」
「ああ」
ナスカの地上絵のごとく、上空から見たのならば……否、天井にも壁にも刻まれているそれは、遠くから見れば瞭然として、意志の証とみえた。箱に収めたジオラマを、両の掌で上下から押さえた――文字通りの「掌握」を一目で理解させる、光る刺青。
「これは街であり箱でもある。そして、イニーズという男の肉体でもある」
先ほどの、人が地面を叩いた程度では起こし得ない……「イニーズ・プレイパーク」そのものが大きく動いているとしか思えない震動が、全員を襲った。
「ボクは外から。キミたちは中からだ。頼んだぞ」
ここまで「〈道化師〉=【愚者】」とは一度も言ってない、なので〈道化師〉から進化する上級職〈座長〉が【賢者】の開発したものであってもぜんぜん問題ないんですね。【おもてさかさま情転図】もカード×【愚者】なので、意外と「〈道化師〉=【愚者】」は強調されていなかったりする。誤誘導はしたけど。ちなみに↓
【使徒】×〈道化師〉
とても強いが、【使徒】の意志を持つNPCたちにおける〈道化師〉は「チャリティーライブで手伝ってくれる外部の人」くらいの認識なので、「なんでそんなことしてるんだろう……??」という目で見られる。声優やってる総理大臣くらい謎……いや、いたなぁ……(ウルトラマンキング)
【賢者】×〈道化師〉
ちゃんと強い。素のステータスが安定して高いので、何も問題ない。
【常人】×〈道化師〉
NPCから奇異の目で見られがち。また、意志の証であるアクセサリーの位置や形によっては、激しく動き回るスタイルと衝突することがある。それ以外はだいたい強い。
【愚者】×〈道化師〉
武器カテゴリ「カード」との共鳴アビリティを習得可能。また、【愚者】の陣営に所属することで新武器種や特殊なクエストを開放できる。
【狂妄】×〈道化師〉
武器がパワーに耐えきれず壊れやすくなるため、一部強くなるところがないでもない。武器の補充・購入がほとんどできないため、弱い防具しか装備できないというデメリットが強く出る。あまりおすすめできない。




