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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
4章 ドリームパーク:すべて未来を捧ぐなら

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162【隠された街!?】EDP開放【覚醒】(5)

 どうぞ。

 それはまるで、大理石で作られたような美しいドラゴンだった。四足歩行に優美な翼、ほっそりとして鋭くありつつ、堂々とした立ち姿。淡くやわらかな色の光をまとい、目をカッと見開いて、ドラゴンは吼えた。


「わ、すっごい綺麗……」

「倒すのが惜しいくらいだな。変身にも使えそうだ」

「ふふ、またいずれ」


 ノータイムで撃ってくるビームは、どうやらドラゴンブレス扱いのようだった。ディリードは闇属性主力だから光属性はむちゃくちゃ効く、かと思いきやちゃんと防げる手段を身に付けてきている。


「どうした? 俺が弱点を放っておくわけがないだろう」

「それもそうですよね。でも、いつか勝ちたいです」


 のどの奥からククッと音を鳴らしながら、ディリードは光を切り裂いて拡散させ、消してしまった。


「追い付いてみせろ。一瞬たりとも待たないぞ」

「負けないでくださいね?」


 呪物をいくつも仕掛け、いつものように金魚の形をした〈夢現(うつせず)将刃矛式(しょうばのかじき)〉を取り出した。おびただしい数を作りまくったし、いつでも作れる単純な造りをしているから、たくさん飛ばせる。


「あれ? でもこれ……私にヘイトが来るんじゃ」

「心配ない、特殊系だ」


 いちばん敵対値(ヘイト)が上がりにくいのは【常人】だ。だから【賢者】か【愚者】が盾役になって注意を逸らし、【常人】アタッカーがダメージを出しても問題ない状況を作る……というのがセオリーだった。けれどドラゴンの知能は、それを超えて設定されているみたいだ。それを考慮に入れていても、ふよふよ浮いている私をかばうのはちょっと難しそうだった。


「そっちに行ったら避けてくれ、それだけだ」

「なんとかします」


『ガバガバやんけ!』『これが通じる恐怖』『ネトゲの野良パでこれが通じてたら晒し板必要ないんやけどね』『真の強者はこの指示で実行できる人なんだな』『ひでぇ……』『少数精鋭なんじゃなくてこれでも成立する固定メンツなだけなんでは』『↑だろうなあ多分』


 子供をかまう母猫みたいに、けれど先っぽは凶器そのものの尻尾が振り回される。シュウン、と空気が切り裂かれる音が、間近まで響いてきた。いくつも当たっているカジキは、エフェクトはそれなりに出しているけど、それほどダメージを稼げている気がしない。


「攻撃はちゃんと当たってるけど……ディリードさん、この光の膜って解かない方がいいですか?」

「ラストスパートのときになったら、だな。こいつが物理だけでやってきたら、ダメージは倍になるぞ」


 真っ黒いエネルギーの剣を振るいながら、ドラゴンの爪や牙、ビームをあちこちに弾いている。両方とも光と闇でバリアを張っているから、きちんと弾き合ってダメージを抑えられているみたいだった。まだホウボウを使うには早すぎるようだ。


 敵のバリアがだんだんと弱まってきて、ディリードの剣が敵をふつうに切り裂き始める。傷からふわふわとエフェクトが飛ぶたび、ドラゴンの表情が険しくなっていくのが分かる。そして敵は、すさまじい咆哮を放った。


「天井が……!」

聖画(イコン)は雰囲気づくりではない、か。セオリーを守ってきたな」


 ドームの天井に書かれていた絵から、わけのわからない形の化け物がたくさん出てくる。現代アートというか悪趣味の極みというか、相当病んだ人が深夜テンションで書きなぐった絵でギリギリ、という感じだ。


『おーっすっげ』『原典通りやん!!!!』『はえー再現度すっごい』『↑すまんわからん』『これ全部聖書に書かれたまんまの天使やで』『キッショ、うそやろ』『本当です……』『ガチなんだよなぁ』『さすがグノーシアって名前を作中に出すだけある』


「なんかめっちゃ盛り上がってる……」

「頼めるか」

「あ、はい。処理します」


 魚群に見えるくらいの数のカジキを出して、天使たちにぶつけていく。


『さらっとゴミ扱いされる天使』『原典やぞ!!!11!!!』『神話ガチ勢ニキ落ち着け』『いまどきキーボード入力してる人おるんか』『この弱さで原典はちょっと……』『絵じゃん』『絵じゃん定期』『明日の朝刊載ったぞテメー!!』『雑魚散らし性能◎』


 水流や閉じ込める魔法も使って、天使をどんどんと片付けていく。コメント欄でも「絵じゃん」と言われているけど、本当にそのくらいガッカリ性能だった。ドラゴンはあんまり強くならず、召喚した意味はあんまりなかったようだった。


「潰せた、ようには思うが……。そもそも、何のためにやったのか」

「バフとか回復目当てじゃないんでしょうか」

「だとは思うが、数を頼りにするような敵か?」

「何種類も欲しかったとか……」


 そんなことを話していると、天井の聖画にどんどんと穴が増えているのに気付いた。ものすごくきれいな星空みたいなものが、天使が抜け出した穴をそのまま埋めるように、ずっと広がっている。


「ディリードさん! ちょっと危ないかもしれません」

「俺は死なない。集中しろ」

「わかりました」


 天使が倒されていくたびに、星空……というよりも宇宙が、まるで向こう側ではなくそこにあるかのように、真実味を増していく。そして、海の中にあるはずのドームが、まるで宇宙に建設されてでもいるかのように思えてきた。


「まさか……解」


 隕石が迫ってくる。慌てて〈夢現(うつせず)調兆王(ちょうちょうおう)〉を出したけど、モンスター扱いではないのか、まったく引き寄せられる様子もない――そのままドームの半分が消し飛び、私の右半身も吹っ飛んだ。ポーションをどばっとたくさん使って回復するけど、ドームは宇宙空間にふわふわと浮いて、ただの足場になってしまった。


「これは面白いな。だから“ドリーム”パーク、なのか」


 遠くの恒星表面が大爆発してすさまじいまでの輝きを放ち、余波のフレアがここにまで届く……かと思っていたら、翼を広げたドラゴンがすべてを受け止める。こちらをかばったわけではなく。


「こいつ……「ゾディアドラゴン」だったのに、フレアを享けて進化したのか」

「……「光星竜ラーズ・エデリオン」って」


 漢字名のある竜になって、固有の名前まで付いた。


「これが【愚者】の……。楽しませてくれるな、どこまでも!」

【愚かな賭け】

【愚者】の意志アビリティ。敵対者すべてが大幅に強くなる代わり、獲得できる金銭・アイテムが質・量ともに大幅に増加する。パーティー全体に作用する。フィエルが大量のアイテムをガンガン消費する「ハット」カテゴリの武器を扱えている主な理由はこれで、劇中でも「そんなに落ちない」と言われている「魂の魔石」(モンスタージョブへ転職するためのアイテム)がすぐ手に入っている理由もこれ。


 敵に対する強化の内容は敵の種類によって千差万別で、ボスモンスターが召喚する雑魚の数が大幅に増えたり、進化段階がひとつ上がったりする。【愚者】の意志でゲームを始めようとするプレイヤーが少ない理由がここで、「アイテム目当てで愚者入れたらふつうに負けた」という話も持ち上がっているため、野良PTでも【愚者】はそこまで歓迎されていない。ちなみに、以前に語られたアコンが市場にだぶついている理由も、攻略初期はドロップアイテムを増やすため【愚者】が組み入れられることが多かったからである。

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