160【隠された街!?】EDP開放【覚醒】(3)
どうぞ。
『苦戦珍しくない?』『初配信以来かもしれん』『リザードマンって雑魚枠じゃないの?』『強ボスも雑魚も務められるんだよね、すごくない?』『リザードマンは亜人の要素すべてを詰め込んでも許される完全栄養食だあっ』『最強が完全拘束されるのはルールで禁止スよね』『初挑戦はルール無用だろ』
アヤコさんとディリードが人形と戦い、私たちがリザードマンと戦う。人魚はさっさと仕留められてしまったけど、巨体のモンスターは恐ろしいくらい強かった。
「攻め手は足りないけど、タフだねぇ」
「呪縛も弱体化も、こちらのバフも! あまり効いておりませんな」
人魚は、フィールド全体に効果のある技を使っていた。そして、天井にある楽譜はすでに効果を発揮してしまっている。音符ひとつひとつが輝くたび、デバフがひとつ加わる……解除できる人があんまりいないから、いくつか抱えたままで戦いが続いていく。いつもは目に見えないほど速いレーネは、私の攻撃でも当たりそうなくらい遅かった。
「速度ダウンがこれほど重いとは……」
「ごめん、バフはできるんだけど」
デバフ解除はおもにヒーラーの役割で、シェリーの手も回っていない。いくつかある特技をフル稼働させても、ちっとも間に合わない……プロミナの方だといくらかポーションや薬は持っていたけど、セーブポイントはこの先らしく、最初の関門にはたどり着けていなかった。
「強いとはいえ……ちゃんと効いているわ」
「シェリーはほんと、強いよねー」
もともとフラッグとクラスタルという強武器の組み合わせで、ステータスもめちゃくちゃ高い。ほかの意志が「どのジョブを組み合わせるか」という前提で話をしているときに、【使徒】は「レベルがいくつになったか」なんて話で止まっていられる。〈治療師〉と〈薬師〉に就いたシェリー・ルゥは、味方のステータスを上げたりMPを回復したりするフィールドを広げていた。つまり、人魚と拮抗している。
人魚をすべて仕留めたホウイさんは、そのまま人形のほうへ向かっていた。
「よぅし、私たちだけで仕留めちゃおうか?」
「賛成ですぞー。さて、そのために」
触手のように暴れ狂う鎖は、一本ずつちぎれて大蛇のように動き出す。
「ささ、皆さんも隠し玉を! これほど映える場もありませんぞ!」
「えっ、用意してないけど……じゃあ出てきてもらおうかなー」
銀細工のフィーネと、氷の妖精のフルルを呼び出す。
『こんなのいたっけ』『カンデアリート近くの地下にいる』『あそこ何でもあるな』『そりゃ準備フェーズで戻る場所ですしおすし』『才能チェックの印だいたいついてるんですけど』『白バニーさんも厳選はするんやね、思ったよりガチ勢で安心した』『そのジュエリー人形はなんなんですか』『↑今読み上げてないから……』
「好きなように戦って。あれは敵」
「わかりました」「きゃあっははははー!」
リザードマンは脅威を見抜いて、フィーネに切りかかる。けれど、結晶と銀細工を合わせた美しい腕で、その剣は止まった。
「死なせるまいと呼び出しをためらっているようですが……そのようなお気遣いは無用です。なにより」
連続剣技とシールドバッシュを、似た色の輝きで止めてみせた。
「この程度で死ぬと、侮らないでください」
「ん、そっか……。じゃあもっと呼び出そう」
ハットを手に取って〈大きく開けて?〉をそして、〈サー・プライズ〉を久しぶりに使った。
『ずいぶんお久しぶりじゃあないかい? 冷えたお弁当で呼び出すなんて、ずいぶんな仕打ちだよ』
「ごめんね、サー。次はご飯食べるためだけに呼び出すから!」
『まったく、私を食いしん坊みたいに言うのは君くらいだぞ。だが』
影の紳士といった風貌の悪魔は、横殴りしてきた盾を払いのけるように弾き返した。
『食事会の前には、じゅうぶんな腹ごなしが必要だね』
『強すぎでは?』『そういやハット使いなのか』『コストが馬鹿すぎて無理なやつね』『六つ道具ってハット入ってるんだ……』『どんだけ食わせたらサプラでボスと殴り合えるん?』『↑百万ディール分くらい』
そんなにあげてたっけ、と首をかしげつつ、カードを飛ばす。だいぶ状況がカオスで、分身してもいないのに分かりづらい。
「今どうなってるの……」
「盾ふたりが【常人】なの。シェリーがいちばん盾になってて、フィエルとレーネもちょっとずつ狙われてるけど、当たらないからねぇ」
「あー、とっこって【常人】だったんだっけ……」
「こうしてみると、かなりのやらかしですなー。そこをこのニーハイで補っておりますから、あまりご心配なさらず」
たしか〈煽焔のレギンス〉という呪い防具で、【愚者】よりひどい状態……敵に狙われやすくなるうえに、相手が本気の奥義を出したり殺意に満ちた行動をするようになったりするアイテム、らしい。もとからヘイトが集まりづらい【常人】だし、それと引き換えにアイテムが多く手に入る【愚者】より利益は少ないけど、とっこにとってはありがたいアイテムだ。
「はっはっは、そして!!」
まるでVサインのように掲げた右手が、渾身の振り下ろしを受け止めた。広がった左手の、まるで漫才のツッコミのような裏拳が、盾に触れてゴギンッと鈍い音を立てた。これまで傷ひとつなかった盾が、パーの形に凹んでいる。
「呪いのシナジーは、これさえ可能にするのですぞ!!」
あの籠手は〈じゃんけんグローブ〉、「一定時間ごとに左右の手がじゃんけんをして右手が勝つ」という、武器攻撃職には致命的すぎる呪いが永遠に解けない武具だ。そして、一定の手順を経ないと外せないうえに破壊不能――装備した時点で負け確定のような籠手だけど、わりと貫通してくるダメージやそれ以外何も補正がないことを除けば、「誰にも壊せない」という一点で最強候補になる。
『うーむ、面白い子だね。魔界にもなかなかいないぞ』
「まあ、うん……」
縛りプレイに夢中で何でもやってきた、というだけはある。
「きゃっは!」
「えらいぞー、フルル。サー、あれ壊して!」
『ほう、楽譜を凍らせるとは! ではお見せしよう。〈暗夜行術:雲なし、占星に善き天なり〉』
楽譜が浮いていた空間が砕け散り、にっこりと笑う三日月がリザードマンに謎の重力を加えた。殴り合っていたとっこは、何の影響も受けていない。
「こ、こんなのあるの!?」
『特別だよ。悪魔はもらったもの以上の力を出さないものさ』
『やっぱり食いしん坊なのでは……』『どんだけ楽しみやねんw』『胃袋掴まれてて草』『美味しいもの食べたいだけやろ』『ごはんのためなら重力操作も空間破壊もする男』『クソチョロ悪魔おじさま……』『お弁当でこれとかコスパ良すぎか』『※じゅうぶん育った結果です』
コメント欄を見てちょっと笑いそうになりながら、私は攻撃を続けた。
コメント欄の民度はそこそこいいけど、語録を使う人は未来でもいるはず……? いるかな? ということで、ちょっと有名な語録を入れてみました。あっおい待てい(江戸っ子)、それ以上に有名な語録が入ってないやん! と思うかもしれませんが、この時代にも「本人が使わない限りぶち込む()の禁止」という暗黙の了解は守られてるのかなって……さすがにノンケの「お待たせー!」を「お ま た せ(大迫真)」扱いするのはダメだと思うんだ。草はまあ、もうしょうがないよね(適当)




