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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
4章 ドリームパーク:すべて未来を捧ぐなら

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159【隠された街!?】EDP開放【覚醒】(2)

 どうぞ。

 チェス盤のような地面、象牙のような高級感のある壁、海という青天井を通して揺らぐ月。色とりどりの燭台が配置される回廊は、テーマパークというよりもお化け屋敷の一部分のようだった。


「ここ……「時間鏡面」?」

「気付いたか。あれはここの一部、一般開放された部分なんだ」


 フィエルの説明によれば、エーベル近くにある特殊なゲートから「時間鏡面」という海中のダンジョンに向かうことができるのだという。このチェス盤のような床は、そのもっとも大きな特徴のひとつであり、驚くべき資産を築いた理由のひとつでもある、とのことだった。


『なるほど先行者利益ね』『愚者って金払い良すぎるからなあ』『食材はまあまあ高額』『行き方広まってたけど範囲魔法と防御無視ないと詰みゾ』『なんでソロクリアできてるんですかね……』


「それで、なのですがー。この壁、まったくどうしようもないようですが」

「ああ、何もできない。登れないし壊せないから、挑戦はおすすめしない」


 ホウイのステータスはそう高くないが、〈猟師〉は立体的機動によってアドバンテージを得ることが多い。フィエルやレーネも残念に思っているようだ。ダイダロスが築いたかのごとく、糸口を知らねば脱出の叶わぬ迷宮は、最初からその脅威を突き付けていた。


「さて。まずはこの部屋からだ」

「ボス部屋、みたいだけど。何もいないねぇ」


 それはそうさ、と何度も来たことのあるらしいジェロゥは顔をしかめる。


「こいつは試金石だ。ここで勝てなければ、キミたちは進めないよ」

「このメンバーで、できないことがあるとも思えませんが」


 どこか不気味な回廊が途切れ、バラエティー番組のスタジオのような、異様に明るい雰囲気の部屋にたどり着く。小さな体育館ほどもあるその場所は、奇妙なまでに明るく豪華に装飾されているものの、がらんとしていて恐ろしく空疎だった。


『イニーズ・ドリームパークへようこそ! 入場チケットはほんの少し高いけれど、きみたちならきっと大丈夫! きみたちに合わせてあげよう』


 突如として響いた声が、海と迷宮を隔てる薄膜から、エネルギーの雨を降らせた。


『うん、うん! ステータスも高い、レベルも高い、装備も一級品! だからこそ挑んでもらおう、試練となり得る敵に』


 頑丈な革鎧をまとう巨体のリザードマン、巨大ではあるが細身の人形、そして人魚たち。人魚が歌い出し、人形とリザードマンは動き出した――


「やりやすい敵から!」


 サフォレの指示が飛び、ホウイは迷わず人魚を狙った矢を放った。


(……当たらないか。なら「当たる矢」を使うまで)


 もとより当てることが難しい弓矢には、視界にガイドラインが発光したり、スポッターと視界を共有するスキルがあったりと、手厚く介護されている。むろん、そういった「弓矢を使える前提」にないプレイヤーにとっても使いやすいように、「当たる矢」はいくつか用意されていた。


 回避系スキルを一度無効化する「呪符・追責(ついせき)」を矢じりに取り付けたり、魔法の矢を放ったりといった方法も、当然ながら〈弓矢〉という武器スキルの中には存在する。それを今まで使用してこなかった理由は、ただひとつ――彼は弓矢を扱える、当てられるがゆえに不要だっただけのことだ。最強の一角を落としたその実力が破られることは、まずない。前衛のアヤコにヘイトが集中し、後衛のホウイが射貫く。敵の警戒や聴覚は彼女に支配されるため、ホウイに困難が訪れることなどなかったのである。


「ホウイさん、あれは落とせませんか?」

「弾弓と魔法弓を使ってみます」


 とっこの言葉は、試しているふうではなかった。このゲームでも数少ない、二つ名を持つプレイヤーのひとりとして……〈手綱(レインズ)〉は、“弓取”の心さえ握ってみせる。当然できるだろう、という言葉は挑発でも扇動でもない。事実がどうあれ、これから起こる事実を正しいものとするために、整合を行ったのだ。


 いわゆるコンパウンドボウ、滑車を利用した弱い力でも引ける弓に裂銀の球を装填し、ぱっと放った。バスンッ、と人魚の肩がえぐれ、砕けた銀色の破片がほかの人魚たちにも刺さった。和弓もボウガンも非常に強力だが、洋弓をさらにアレンジした現代の弾弓は、音も光もなく破壊をもたらす。あまりの速度ゆえに、ガイドラインをほとんどそのままになぞることも特徴のひとつだろう。


「歌は止まんないねぇ……」

「野生動物です、弱ったところなど見せないでしょう」


 天井にある楽譜をなぞるたび、人形やリザードマンは強化されていくようだった。中型のゴーレムと殴り合い、曲剣を振るうリザードマンは、フィエルの動きをまったく捉えられていない。人魚を幾度も射貫きながら、ホウイは戦況を見定めていた。


(さすがの速さだ。あの人より「用意がいい」状態にはなれないが、戦況を瓦解させるには軍師を潰すべし、が定石。であれば使おう)


 現実の戦場であれば、指揮官はそもそも前線に出てくることはない。しかし、ことゲームにおける戦いでは、それこそが要衝にして最強を誇る敵であることが多い。SIsの人魚は「コンダクター」と呼ばれるたぐいの、支援と召喚を兼ねたきわめて厄介な敵である。手早く倒さなければ、光の剣でディリードと打ち合う人形や、少女たちを相手に一歩も退かないリザードマンよりも強い敵が呼び出されるやもしれぬ。


「〈シェイプ・スパイラルコーン〉」


 魔力を消費して放つ矢の形は、回転する角錐。


「〈バウンド・ハウンドチェイス〉」


 当たっても消えることはなく、回避をものともせずに追跡する。


 二つのまじないをかけられた矢は、ズビュウッ、と赤い人魚の心臓を貫いた――そして、青い人魚の頭部を爆散させた。


『※みんな使える初級スキルです』『むしろ威力低いまである』『ヒエッ……』『スキルレベル上げるとこうなるんか』『どんだけ攻撃力上げてんの?』『白バニーさん以上にドン引きされる人がいるとは思わなかった』『旋盤ってこういう音するよね』


 なぞられなくなった楽譜は、しかし激しく光を放った。

 基本的には魔法弓の方が強いしアレンジも利く、んだけど「形変えて速くして必中して……」ってやってるとどんどん一撃あたりの消費MPが上がっていきます。だから弾弓がいちばん人気で魔法弓が二番、ふつうの弓使うのはあんまり……という環境。これでもまだぜんぜんマシな方っス、真に不遇なのはナイフ界隈だから……

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