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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
4章 ドリームパーク:すべて未来を捧ぐなら

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150 知らない人から自分の話が出ると小さくなる

 どうぞ。

 エレベーターに何人かで相乗りして、けっこう高いところにある部屋に向かう。最初のころから思っていたけど、大学の講義をやる部屋はやたらと広くて、すごい人数が入れる。映画でも上映できそうな……じっさい見せられたこともあるくらいの大きさで、しかも映画館より大きい。


 講義をしてくれる人は、教授とか准教授とか講師とか、何種類かに分かれているらしい。自分で名乗っているから分かりやすい人もいるけど、誰がどんな肩書なのかは、調べてみないと分かりにくい。


 すっと入ってきて、すらすらと説明を続ける瘦せこけた男性は、初回からそこまで詳しく立場を示していなかった気がする。


「……というわけでね。このように、仮想空間における性差は意識の差以外にほとんどないと。そのように言われていますね。どれほど精巧に造られていても、体感覚はある程度調整されていて……はい、きみ」


 さっと手を挙げた学生が、痩せこけた(たぶん)教授に指名されて立ち上がった。


「では、どうして男性の方がスコアがいいんでしょうか」

「あー、それはね。そうですねあの、振り返りになりますが」


 大きなスクリーンに映したスライドを、前のものに切り替える。


「ゲームにおける得点ですね。シューティングでいうキル数や、パズルでいう消したピースの数。きみはゲームには詳しいですか、計測したタイトルはそれぞれ――」


 有名タイトルがいくつも読み上げられる。


「全部知ってます。いくつか、やってます」

「そうですか。では、どうやれば上手くなるか分かりますか」

「え? それはほら、立ち回りとか数字見たりとか」

「……一般には、反復練習と集中力の持続ですね。男性の脳の方がより強く適性を持つとされているジャンルです」


 ちょっと萎れた学生に、教授は続ける。


「基本的には、先ほどの説明と矛盾はしていなくてね。意識を作り出す脳の構造、これが根本的に違います。さっき言葉として言った性差は、体構造について、芯になる骨格の一般化が男女差をより縮めているという意味ですね……ああ、すこし脱線になるんですが」


 スライドは戻して、教授は学生に座るように促して、長々と……ながながながながと語り出す。


「大昔に、性別違和を訴えるトランスジェンダーという人々がいまして。スポーツにもこういった選手が出てきたんですね。肉体は男性だが、心は女性であるので女性区分に参加すると。どうなったと思いますか。きみ」

「え? いや、筋肉とか持久力とかで勝ってるし、勝つんじゃないスか?」

「そうですね。ただ、不思議なことにですね……彼らは、女性優位な競技にはあまり姿を現さなかったんですね。なぜか筋力や持久力が重視される競技の女性区分で、新記録を更新し続けました。まあ当然、競技人口に彼らが増えるほど頭打ちになるわけですが」


 脱線というだけあって、微妙にどこにつなげたいのか分からない。


「のちに、アスリートとしての成長におけるホルモンバランスの重要性がより深く研究されたことと、性別検査でしらばっくれていたことが判明して、記録はすべて剥奪されました。要するに、自分より弱いものしかいないステージに立てば勝てるだろうと。そういう、相手への見下しから生じた行いであるわけですからね」


 では本題に、と戻ろうとした教授に「あの」と手を挙げた女子がいた。


「〈ラフィン・ジョーカー〉ってご存知ですか?」

「ああ、存じ上げてます。配信も見ていますよ」


 意外なところで名前が出てきた、と思いつつ、できるだけ表情を保ちながら話を聞く。


「あれはね、こういう事例においてはなかなか面白い研究対象ですね。脱線……うん、まだ時間に余裕はありますか。いつも一時間かそこらで終わりますから、たまには九十分しっかりでもいいかもしれませんね」


 先ほどの性差の話に戻るのですが、とスライドはそのままに、語り出す。


「あのゲーム、『ストーミング・アイズ』ですね。あれが使っているゲームエンジンは「ワールドシミュレーター」で、えーと。どのスライドにあったかな」


 ぱっぱっと切り替わっていくスライドは、そしてCGモデルのものに切り替わった。


「人間における柔軟性は、関節の可動域、つまり骨格の形と腱の伸び具合に依存しています。ところがですね、「ワールドシミュレーター」が採用している人間のCGモデルは、骨格や内臓について、ある程度まで幅を持たせています。そのせいで、柔軟性における性差が起きにくいんですね」

「えっと……それじゃ、男性の方が優位なんじゃ」

「MMOというのは、最終的にはより効率的なルーティンの構築に至りますからね。結論としてはそうなりますが、同じ柔軟性で同じ力を発揮できる場合、女性の方が強くなる可能性があります」


 リアルタイムで文字を打ち込みながら、教授は続けた。


「彼女の強さは、視覚や聴覚に大量のノイズを紛れ込ませることで、相手の思考を大きく鈍らせることにあります。あれもオートマニュアル化しているようですから、当人がとくに苦労しているのは、各種タイミングの把握くらいでしょうか」

(うわー、本職ってこんなに分析できるんだ……)


 小さくつぶやく。けっこう遠いのと別のところに集中しているから、教授には見えていないようだった。


「女性の脳は並列処理に向いていますから、ああいったことができるんでしょうね。それに、発火型とパズル型、ふたつの特徴を備えた思考形態も興味深い」

「どういうことでしょう」

「ああ、私が勝手に名付けているだけなんですが。えー、これはスライドにないので、板書しなくても構いませんが……まあ、今から作りましょうか。発火型、回路型、パズル型、なぞり型、建築型。私は、思考のかたちはこのように分類されると思っていまして」


 カタカタカタッ、とすごい速度のタイピングがマイクを通って聞こえる。


「ぱっと閃くようなものが発火型、正しい手順を通ると答えが出るのが回路型、必要なパーツが揃っていれば答えを出せるのがパズル型です。なぞり型は迷路あるいは樹形図をたどるように、間違った答えを織り込んで考える人。思考のパーツを揃えても、決まった手順で進めることを重視するのが建築型と。まあ、こういうふうに」


 困惑する生徒をよそに、教授は楽しげだった。


「きみたちも、自分が考えるときに何を重視しているか知れば、より答えが出るのが早くなります。自分に合わない方法をとっていることもありますから、ひとつ参考にしてみてください」

「じゃ、じゃあ! 〈ラフィン・ジョーカー〉に勝つ方法って分かったりしますか?」

「かなり習熟したプレイヤーですし、一朝一夕にとはいきませんが。そうですね……彼女と戦うときには、思考の六割程度がノイズで埋まっていると、そのように想定されるわけですから。直感的に動くか、考えなくていいようにノイズをひとつずつ排除するか、どちらかになるでしょうね」


 個人の話はここまでにしましょう、と教授は話題を切って、本来のスライドを出した。

■大学教授の特徴

・めっちゃ脱線する(しない人の話はクッソつまらん)

・やたら思想が強い(知らねーよ……って話に共感を求めてくる)

・けっこうオタっぽい/俗っぽい話題もまじめに語ってくれる(ここはすき)


 大学教授って、肩書はすごいんだけど、人としては講師の方がまともなことが多いです。学生も「立派な大人」としてなつくから、いつの間にか完全に洗脳されちまうことがあってですね……。ぶっちゃけ「賢い人≒頭イキスギた人」なので、本当に尊敬できる賢人はなかなかいません。学生さんは、大人が言ってることも間違ってる可能性がある、ってのを覚えといてくだせえ。

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