14 ティックタック・ロックリック
どうぞ。
街の外にはあるものは、四方でちょっとずつ違う。北と西の方は山林、東の方は森と岩山、南の方は平原と川と湖がある……らしい。高い建物に登ってみると見えるそうだけど、城壁と丘に阻まれて地上からはほぼ見えない。
強敵がいっぱいいる方角がいいなぁ、と思いつつ、よくわからないので南側の門をくぐって街の外に出た。このあたりはあんまりモンスターがいないのか、最初のように剣でビュンビュン移動しまくっている人もいない。
「このへん、やりにくいのかな……?」
考えてみたら、あのときはモンスターが出てくるそばから瞬殺していた。瞬殺できない敵なら挑発するだけになるから、アンナが言っていたような「効率のいいやり方」とは違うのかもしれない。
道なりに進んでいくと、小高い丘がいくつも連なるところがあった。丘とくぼみででこぼこの土地は、くぼみに池ができていたり、丘に石が積んであったりして、不思議な光景が広がっている。ストーンヘンジみたいな場所があるなぁ、と思って近付いてみると、石を並べて作った文字盤みたいなものが本当にあった。
「うわ……でもこれ、円周で並べても意味ないよね」
太陽は東から出て西に沈む。でも南側限定で、北側に移動することはないから、アナログ日時計を作るなら半円形に並べたらいいのに、と思ってしまった。
時計みたいな音がカチコチ聞こえるな、と日時計の遺跡みたいなものをあちこち探していると、石のひとつに触れた。次の瞬間、その石はすうっと透き通り、その向こう側にある景色を見せてくれた。
[ダンジョン「時間鏡面」への入り口を発見しました]
海の底にあるチェス盤のような、ものすごく不思議な光景が広がっている。日時計にしては形がおかしいのがヒントだったのか、影を作るにはすごく邪魔そうな、いちばん太陽に近い石がゲートだった。基本はダンジョンの方が儲かるよ、とみんな言っているから、このまま潜入するとぶっちぎりでいっぱいお金を――
「あ、でも……売るとき消えちゃうかな?」
言葉にしてみて、自分の中で逆の結論が出る……一定確率でなくなるなら、なくなってもいい数を取ればいい。それに、アイテムを別のアイテムに変換できる力は、いくらでも物資を補給できる力になる。そしてもうひとつ、玉華苑を調整して出せるダメージの実験にもなりそうだ。
入るボタンを押すと、石が裏返るようにしてふわっと開き、一瞬でダンジョンの入り口に移動した。化石や木材、石材に金属にプラスチックなどなど、さまざまな材質で作られた白黒のゲームボードは、一歩を踏み出すたび、音高く足音を響かせる。
「ここ、何に備えたらいいのかな……? モンスターは……」
水中みたいに視界が利かないせいか、何がいるのかわからなかった。道なりに歩けば見つかるはず、とへんな確信を持って、都会の道路並みに広い道をゆっくり歩く。白黒なのに青みがかった海の中で、海っぽい形もあんまり見えなかった。
視界の中をサッと横切った何かが、コマ落としのようにそこにあった。
「え、なに……?」
ごつごつした岩みたいなものが、目の前に置かれている。にゅっと伸びた何かが、見えた瞬間に使った〈セット・スタンダード〉は――
「相殺されたっ!?」
座るならちょっと幅広すぎるし低いかな、くらいの岩をよく見ると「クロノアワビ」という名前が表示された。時間属性を自分から使うモンスターが、こんなに街から近いところにいる。ゾワッとする事実を、さっと出したボールとステッキとカードで無理やり上書きする。
アワビってどんなのだっけ、と考えながらボールの上に乗り、コピーしたボールを三重の円の形にぐるぐる跳ねさせる。前面から出ている触覚っぽいものは、幻影は見破れないようで、きょろきょろしていた。幻影の投げたカードをフェイントにして、柔らかそうな足にいくつもカードをぶつける。パッと咲いた何色ものエフェクトが、ちゃんと付加ダメージが発生していることを示していた。
時間結界が相殺しているせいか、現れたときのようなスピードは出せないようだ。こちらの姿に反応して、びゅびゅっと水を飛ばすけれど、フェイントに続けた本命がことごとく偽物を狙っていて、なんとか無事に避けられた。カードは五割以上足に当たって、だんだんと相手の動きが鈍っていく。
「カードは火力低いの分かってたけど……やっぱ、固い!」
意志アビリティ【ひどい手癖】でいくらでもデッキを作れる……けど、威力は落ちているし、一瞬で壊れる。壊れるときに発生するダメージで補填はしているから、本物のカードを投げるよりちょっと弱いか、トータルだとギリギリ強いかもしれないくらいだ。
相手も貝とは思えないくらい早くて、フェイントには引っかかるけど、ちゃんと避ける。アクション映画の車くらい、ふだん知っている動きとぜんぜん違った。バイクのウィリー走行だって見たことないのに、アニメの車だと片方を上げてコーンを避けたり、分身したりする。アワビがしゅるしゅる動いてボールを突っついてくるなんて、予想できるはずもなかった。
ビュバッ、とすさまじい勢いで放たれた水鉄砲が、ボールをひとつ破裂させた。
『:……、・』
「あぶなっ!? で、でも!」
自動で常時発動している、ボールのスキル〈片割り悲嘆歌〉――
ボールはセット商品で、最低でも三つ、多いと十個くらいのセットで売られている。チュートリアルでもらった「子供用ボール(中サイズ)」は6個セットだ。〈片割り悲嘆歌〉の効果でひとつ破損すると百パーセント中のひとつが占める割合分だけ攻撃力が上がるので、これ以降の戦いでは5個しか使えなくなる代わり、攻撃力が16.7%上がる。
「つまり、……えっと、キック!!」
セットのすべてを連続でぶつける〈ヴォルカナイト〉を使うと、ドガガガンッ!!! とすさまじい音が響き渡り、アワビの殻が中心から真っ二つに割れ、光の粒になって消滅する。
「や、やった……!」
なんとか倒すことができた。
投稿開始から十日くらいで100評価ポイント到達できました(8/1あたり)。応援、ほんとうにありがとうございます。現在40話まで予約投稿が済んでおりますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
アワビって英名「ア↑バローニィ」なんか……なん、なに? 岩を這って海藻食ってるからって「ロックリック(岩を嘗めてる)」とかって言葉遊びしたのにぃ! まあええか……




