139 舞台づくりは裏方と準備が大事!
どうぞ。
闘技場のデモンストレーションとしては、ちょっと微妙だったみたいだけど……戦いはなんとか終わった。
「ありがとうございました!! トップ層とは、このように……不利に陥っても覆す人のことなのですね!」
「楽しんでもらえたら、なんでもいいよー」
負けて悔しがってもいるみたいだけど、それ以上の充実感があるようだった。
「いつか、勝ちますわ。あなたのお力を借りることもあるでしょうけれど……隣に立つのではなく! あなたを打ち倒す力を、いずれ身に付けてみせますわ!!」
「ふふふ。待たないよー?」
一撃当たったら倒れるのは、今までと変わらない。むしろ、これからの方が当てやすくなるし、相手の火力も上がってくるから、もっと苦戦するだろう。いちごさんが私を倒せる日も、そんなに遠くないかもしれない。
「では、勝利を称えまして。ハグをしますわ!」
「えっ、うん……??」
ぎゅーっとハグされて、私もハグを返した。
「では、またの機会に。さらばですわ!!」
「またね!」
手を振って、私はコロシアムの控室からギルドホームに直接転移した。
「思ったより強かったね……ストレート負けしちゃうとこだった」
「太刀筋は甘かったと思いますが、それをカバーできるとなると……」
「え、レーネが評価してる!?」
「戦いは技だけでは決まりませんよ、シェリーさん」
誰よりも技を極めているレーネが言うと、説得力がすごい。
「いやぁ、とんでもない配信になっちゃったね……。フィエルがヒールになってくれたからよかったけど、正直どっちが勝っても荒れそうだったんだよぅ」
「こちら推しはあちらを推していない人多め、あちら推しは知らないゲームの有名人なんか知るか、といった感じでして。両方推しは肩身が狭かったことでしょうな……」
自分が応援している人が勝ってほしいし、自分が応援していない人を「あっち界隈の有名人」と言われても、自分は知らなかった――という、思ったより怖い構図だった。けれど、私の勝ち方が悪役そのものすぎた。
「あちらは「これなら負けても仕方ない」、こちらは「ちょっとやりすぎでは」と。そういうふうになったのですなー。強いことは分かったが、勝ったことを素直に喜んでよいものか分からない。もしくは負けてもあっちが強すぎた、そういうふうに」
「そっかー……。やっぱり、喉蹴りはダメだったよね……」
「見てて怖かったよ、あれ」
分身はしないと話にならないし、そのほかの技も必要だったと思う。でも、約束にこだわりすぎて、やり方がエンターテインメントにならなかった。ちょっと、反省しないといけない。
「あっちの、人魚の方は? あれもいずれ、見せることになるよぉ」
「あれはほんとにエンタメ向いてないから、もうちょっと見せられる技欲しいんだよね。とっこ、何か知らない?」
「あたしは「呪いを背負う」という制約でシナジーを作っておりますので、〈呪術師〉には詳しくありませんぞ。それで、「忌餓穴喰」のほうは……」
「あるよ、こういうやつ」
魚のかごと書いてビクというらしい、竹っぽい籠。見た目のサンプルとして買ったけど、プロミナの方でも買ったのを忘れていて、無駄になったやつだ。
「中に入っているのですかな?」
「違うよー、これ。「穴仔虚壺」って言って……ほら、あるでしょ? 何でも願いを叶えようって言われたら、じゃあこれからずっと願い叶えて! っていうやつ」
「……どゆこと?」
「ふっふっふ。フォルスアンサーっていうやつを参考にしてさ、「溜め込んだ呪いと同じくらい強いやつ」が中にいるっていうウソを作るんだ。実際にレベルアップしてるのはこっちの壺だけど」
呪いを分解して食べてしまう呪物系モンスターを作ると、分解に時間はかかっても、〈呪術師〉のデメリットを限りなく小さくできる。それが「忌餓穴喰」、呪い除けすら使わなくてよくなる最強スタイルのできあがりだ。
……というのはわりかしウソで、調子に乗って分解ペースを超えた呪いを押し付け続けると、裏切ったり呪いがぜんぶ主に降りかかったりして、確実に死亡する。そこで、疑似霊魂を生み出すだけ、主に呪いが降りかからない範囲でレベルアップさせ続けると、分解ペースが追い付くようになる。それ自体は最初期から判明していたし、みんな試していたけど……別に強くもないし、大量の疑似霊魂を作っては浪費しても、呪符の材料だけ無駄に消費しておしまいだった、らしい。
「ほら、【愚者】の【ひどい手癖】使って呪符増やして、チャージしたHP分のダメージ与える爆弾入れたミサイル金魚作って……」
「うわあ……」
「それでも、〈因果は実る〉だっけ? 私と壺ちゃんで、経験値二倍取り! 三倍だよ!」
「四倍ではありませんか?」
「あ、そうかも」
疑似霊魂は、すごく簡単な命令しか入力できない。〈呪符・槍突〉は、敵に向かって突撃する以外には何もできない。避けられてももう一度当たりに行くけど、ガードされたら当たった扱いになって消滅する。回るだけ、守るだけ、そういう入力情報をいっぱい組み合わせると、あの人形になるけど……別に、そこまでしなくても使える。
「〈呪術師〉ってクラフト系で攻撃力低いから、〈槍突〉が無駄でさ。「砕焔」とか出ても意味なかったんだけどね。ほかでダメージ出してたら、火力賄えちゃうんだよー」
「なるほどぉ……呪いをダメージソースにしないスタイルってことかぁ」
呪いのダメージは抵抗不能だから、一見すると強い。けれど、ものすごい手間をかけて呪物系モンスターを作るか、反動ダメージを受けないと、有効打は出せない。強いことは強いけど、直接戦うには向いていないのだ。
「たぶん邪道だけど、今は強いんだよね……でもあれ、全然映えなくて」
「金魚ミサイル? だっけ。実際に見ていい?」
「うん、いいよー。ちょっと待ってて!」
シェリーの提案に乗って、実際に見てもらいながらアドバイスをもらうことにした。
〈呪符・槍突〉
疑似霊魂を宿した呪符。「素早く敵を貫く」ことのみを思考するため、飛ぶ速度はそれなりに早い。ダメージは術者の筋力に依存する。クラフト系ジョブをメインにしていると筋力はさして上がらないため、伝書鳩代わりに使うと便利、くらいのどうでもいい立ち位置。呪符は衝突後消えてしまうため、怪文書を送り付ける矢文代わりに多用された。




