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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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135 愚者の夢歩:蓋の向こうへ届かぬ声よ

 3章終わり&4章予告回。


 どうぞ。

 水面を歩く、孔雀のような色彩と光輝をでたらめに反射する少女がひとり。足音は水を踏むようなものではなく、その下にある確かな足場との衝突によるものだった。


「キミは……いや、旅人たちも怒るだろうな。こんなにつまらない執着のために、ボクがここまでのことをしたなんてバレたなら」


 水面下にあるのは、「葬送」の名を冠する偽神の生ける亡骸(・・・・・)。死に何よりも近いがゆえに、けして死することのないはずのそれは、ある偉大な術師の手によって完全に封じられていた。その術師の名こそ――


「イニーズ。キミは、ボクと同じ道を進んでくれると思っていたんだが……」


 千年前の〈呪術師〉……あるいは〈傀儡師〉にして〈調教師〉、もしくは〈座長〉。人の身に余る偉業を成した男は、しかし人の身を捨てて存在し続けることを選んだ。自らをひとつのシステムへと昇華し、文字通りの永遠を実現した怪物。


(フィエルが言っていた「ロディリア」。そう言えばいたな、異端認定を受けて斬られた少女だったかな。時間を超えて戦った、というのも不思議な話だが……)


 聖遺物の継承者によって討たれた、と歴史に残るものもそう多くはない。そして、異端認定を受けた研究は闇に葬られることも多い。街のうわさで聞いたことがあったか、と言う程度のもので、具体的に何があったのか、詳しく聞けてもいない。どうやら、世界そのものに干渉するほどに己を高めたようではあるが、結局のところ何も残らなかった。


「キミは……あれと同じでいいと言うのか? キミほど偉大な男が、ただ歴史に没するなど。ボクにはとても、我慢がならないことなんだよ」


 旅人にとっての五番目の街となる「イニーズ・ドリームパーク」は、海中に存在する。しかし、街を開放するために挑むクエストは、ひどく峻厳なものだった。パークに侵入する方法は極めて困難で、脱出も不可能と思えるほどに難しい。イニーズを救うために、と仲間を募ったことがあったが、失敗が積み重なるたびに、浪漫も死苦に塗りつぶされていった。ジェロゥ自身も幾度も“死んで”いるとなれば、そうそう人を呼ぶこともできない。


 しかしながら、旅人という死なないものたちが現れた。かれらは、ジェロゥの願いを見抜いていないが、「街を開放する」という利益には間違いなく乗るだろう。


(偽神にすら手に負えなかった生ける伝説が、旅人ごときにどうにかできるか――か)


 疑いはあるが、もはや頼れるものもない。ジェロゥの誇る究極の戦力は、イニーズには通じないからである。あくまで人間サイズかつ、【愚者】を含む五人以上のパーティーである必要がある……そのように自らを縛ったイニーズの呪いは、決して解けない。そして彼の強さは、世界の法則を超えた「葬送の偽神」をすら完全に封じるほどであった。


「あの子が〈座長〉になれれば、あるいは。いや、あの仲間たちに何人かを加えれば……すこし、見積もりが低すぎるか」


 挑戦資格としての「合計レベル70以上」という条件は、旅人であればとくに考えることもなく満たせる条件である。それ以上に考えるべきことは、個々がどれほど強いのかという疑問。旅人たちがしきりに話題に挙げるギルドではあるが、【使徒】がいる時点ですでに危うい。


 ぱしゃり、と波が鳴った。靴下に染みた海水に、ジェロゥは海を見る。強くなる波の内側には、船よりも大きな、化け物じみた大きさの触手が見えた。


「愚物が。偽神の恐ろしさも忘れたか? それとも、ボクを侮ったか」


 本来の偽神は、すでに命を落とした遺骸の一部が存在するだけでも、外なるものを呼び寄せる扉を開いてしまう。海中に外なるものはそれほど多くない……そこまで考えたところで、触手にちろりと光るものが見えた。


「ああ、【狂妄】か。とろけてしまえば、大きな脳にも意味はないからな」


 たん、と大きく跳躍すると、ジェロゥが海に隠していたものが顔を出した。とても、とても――恐ろしいほどに大きな、金属製のゴーレム。関節が可変式で、頭の大きさだけで並みの帆船ほどはあろうかと言うほどの、すさまじい威容。わずかに身じろぎするだけで、時化もかくやという大波が発生する……水属性魔法でそれを抑えながら、ジェロゥはゴーレムへ指示を出した。


「やれ」


 ほんの一言に込められた意図は、とくに複雑なものではない。ゴーレムがレベル百に育つまでに、飽きるほど聞いてきたものと同じ言葉である。そして、言葉が短ければ短いほど、主の怒りの色は濃い。ゆえに。


 港にまで響く重低音、天を衝かんばかりにぎゅっと伸びた触手の断末魔、吹き飛んだ破片による砂浜の騒乱。


「弔いにはまだ早い。それに……お前ごときにできるのなら、ボクが終わらせている」


 死者ではないが、命はない。肉体はあるが、動いてはいない。たわむれに〈道化師〉となった男の行きついた結論は、永遠のおもちゃ箱……「イニーズ・ドリームパーク」という海底の箱、あるいは夢の街。


(それに。ボク以外の誰にも、キミと話す権利なんて渡したくないんだ)


 開かれぬままの箱は、中に被造物を閉じ込め、海より命を招いた。しかしながら、未だにその主目的……人の住まう市街、あるいはテーマパークとして機能していない。街が開放されれば、イニーズはその瞬間に術式と交代して、命を終えるのやもしれぬ。そうなる前に、ジェロゥは彼と話したいと考えていた。


「キミは、どうして……箱になったんだ?」


 被造物:魔法生物カテゴリ、フォルスアンサー系統最上位種。


 あるいは不詳:呪物カテゴリ、匡蠱(きょうこ)系統最上位種――零等級。


 そして五番目、Eを冠した未攻略の街。


「イニーズ・ドリームパーク」は、未だ拓かれていなかった。

 ちょっと就活に本腰入れなきゃいけないので、更新が不安定になる可能性があります。ご了承ください。


 次回から4章「ドリームパーク:すべて未来を捧ぐなら」をお送りします。

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