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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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134 選指ング矢印オンリーユー

 どうぞ。

 前に「上の部屋って言っても物理的につながってないから音とか聞こえないよ」と――アンナはそう言っていた気がするけど、どったんばたんどんがらがっしゃん、と何かが聞こえてから、かなり慌てた様子の涼花さんが階段を下りてきた。倉庫を改造した一角の応接室もどきに、ぱっと花が咲いたように振袖の彩りが増える。


「あら、よう来てくれはったねえ。えらい大物連れて来ゃはったみたいやけど」

「山羊の角が頭に生える魔石、ください!」

「いつもより注文がはっきりしてはるね。ってちゃうて! そっちちゃうて!」

「なんですか、もー」


 にこにこと「お初にお目にかかります、誘納いちごですわ!」とあいさつをしたいちごさんに、涼花さんはかなり緊張しているようだった。


「あ、高すぎたら私がお金出しますから」

「ちょい、ちょい! ちょいこっち来ぃ!」


 この前行ったところにもあった箱だらけのスペースで、涼花さんは「フィエルはん、誰連れてきとんねん!」と小声で怒られてしまった。


「チャンネル登録者四十万人、平日昼で平均同接一万、あんな大看板どこから来たん? なんも聞いてへんて!」

「運営が事務所側に宣伝してくれってお願いしたみたいで、街中で迷子になってたので連れてきました」

「ああ、そういう……。そちらさんの伝手は使えへんの?」

「あっちは素材とか食べ物系ですね。ちょっとクセの強い人なので、危ないかなって」


 グレリーさんはともかく、ジェロゥを配信に出すのは絶対マズい。


「うーん、まあ……それならしゃあないわ。今回は安ぅしときましょ」

「すみません。あの人たちが来てくれるかもってことで、いいでしょうか?」

「これも儲け話やもんね、そういうことにしとくわ。すみません、お待たせしまして」

「いいえ、構いませんわ」


 キャラメイクを自分の望み通りに、精度高めに調整したいのは誰もが同じだ。もとから見た目が決まっている人は、そっちにできるだけ完全に寄せたいだろうし……私もいろいろ試しているから、気持ちはちょっと分かる。


「ワタクシが外で使っているアバターがこちらですの。これに九分九厘、それ以上でもどんどこ寄せたいのですわ!」

「ありがたいわぁ、具体的にあるとプラン固めやすいんです。えー……」


 褐色に銀髪赤目、くるっと巻いて後ろに伸びた山羊の角、ドレープのついたシャツに黒のジャケット、下はショートパンツとソックスガーター。〈道化師〉の初期装備にも似たものがあったけど、モノトーンで徹底的に彩りを抑えている。いつか兄に見せてもらった特撮に出てきた気がするなぁ、と思いつつ、いろいろと案を出していく。


「まずはこれを。〈マウンテンゴート〉の魂の魔石……「モンスタージョブ」っちゅうて、習得すると見た目が変わるんです。初期コスチュームの亜種みたいなもんです」

「なるほど。角以外には何が変わるんですの? お山に登りやすくなったりするのかしら」

「ええ、ええ。転ばされにくくなったり、ジャンプ力が上がったり。キックもできます」

「とってもいい品物ですのね! いただきますわ!」


 ふだんからロールプレイしている商人(あきんど)らしく、「それではお勉強さしていただきまして」とたったの三千ディールで売っている。動揺しているのを隠すのは大変だったけど、カメラの向こうにはバレていたのか、「あら」といちごさんはこちらを見た。


「お勉強って……値引きって意味でしたかしら? そこまでなんですの?」

「広告料と先行投資ってことで……」

「ありがとうございます、お安くしていただいて! では、残りはなるべく自力で……正当なお値段で、対等なお取引をいたしましょう。それまで見守っていてくださいませ!」

「ほほほ、ええお客さんやわぁ。おねだり上手さんも好きやけど、お金の価値が分かったはる人も好きやで」


 二人とも笑顔で取引を終えて、涼花さんに見送られながら倉庫を出た。


「お世話になりました! お時間いただいてしまいましたけれど、ご予定などありませんでしたかしら……?」

「いいですよー、そんなに時間かかることしませんから」


 ちょっとだけ申し訳なさそうにしているけど、今日はとくに予定もない。何か聞きたそうにしているので、「なんでしょう」と小首をかしげてみる。


「あ、あの! よろしければ、フレンド登録など!! していただけませんでしょうか……」

「はい」

「あっ、あっさり」

「ふふふ。ブレインには「友達いっぱい作って」って言われてますから!」


 飛んできた申請をそのまま受けて、フレンドが一人増えた。


「とってもお強いようですから、いつか挑みますわ! あなたに!」

「おやー。この“私”は、あんまり面白いことできませんよー?」


 プロミナの戦い方は、ぜんぜんエンタメ性がない。それに、立ち向かってくる人に与えられるのは絶望くらいで、どんどん戦う気がなくなってしまうような方法だ。もっと映してもいい方法にしないと、とちょっとだけ考えつつ、手を振って別れた。


 さて、と手をぱんと打ち合わせると、ばさりと呪符が現れた。


「どうやって楽しくしよっか。コストはいいとして」


 今いる「魚」が二種類、どっちもちょっと魅せづらいから……もっと見ていて楽しいものを、新しく作った方がよさそうだ。頭をひねりながら、私は〈薬師〉であれこれ作るための買い出しに向かった。

 そういえば、悪魔のタロットカードの意味を調べたら、正位置で「誘惑」、逆位置で「新たな出会い」が出てきました。当たってて草……いや怖いよ! こういうの普通考えて仕込むもんやろ。


 何の魚が美味いかなぁ……

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