125 愚者の夢酔:平行並行に行こう/フールウィズ移行る
どうぞ。
サブキャラの試行錯誤はともかくとして――あっちこっちで戦ったせいか、テイムモンスターにも経験値が入って、少しずつ成長していた。大きく移動して、デュデットワの街の外、海に連なる湿地帯のほとりで、テイムモンスターを順番に出していく。フルルと名前を付けた〈フロスト・エレメンタル〉はいつも通りきゃいきゃいと笑っているけど、種は沈黙したまま、スケルトンも同じだった。
「まともなのはフルルだけ、かなー……」
「なんだよ、あたしは骨だけでもやれるぜ」
「えっなに……」
「あたしだ、ほれ」
いつの間になのか、スケルトンがしゃべっていた。ちょっとだけ潮騒が聞こえる中で、ハスキーぎみの女性の声がへんに響く。
「あれ? 前までぼんやりしてたのに」
「前はね。ちょいと魂が強まって、目が醒めたのサ」
「よかったー、なんか強そうなのにって思った」
「あっさりしてるね、あんた。気が合いそうで良かったよ」
そして、腰の短剣を抜く。何をするのかと思ったけど、しげしげと見つめたあと、腰に戻した。
「あー、……悪かないけど。あたしは荒っぽい医術くらいが専門で、こんなもん握れやしないよ。魔術もあるだろ、あんた病毒やら寄生を味わったことあるのかい? ああいうやつじゃない限り、あたしは出番ないよ」
「そ、そうなんだ……」
あんまし荒事に慣れてなくってね、と……「シシィ」と名乗ったスケルトンは言った。
「シダホセンの素人船医をやっててね」
「なに、しだ、ほせん? って」
「お上のお許しを得た海賊みたいなもんだよ。じっさい、大して変わんなかったと思う。船長はどうなってたんだい」
「え? あの船の船長……あの船、そういうのはいなかったよ。凍り付いてて、クリオネみたいな悪霊がガイコツ連れてた」
わずかに息を呑んで、それから大きなため息をついた。
「……そうかい。海は化け物が多いからねえ、あたしも死んだときのことはよく覚えてなくってね。悪霊はぶちのめしてくれたかい」
「砕いたよ。ガイコツも、ほとんど全滅させたと思う」
「そりゃよかった。あたしが役に立たなきゃあ、別のやつに売ってくれてもいいぜ。経験済みだからね、傷ついたりゃしないよ」
「やめようよー、そういうの。これまではいなかったけど、ここから出てくるんじゃない? シシィが言った危ないやつ」
私はほとんど攻撃を受けないけど、それは避けられる攻撃に限った話だ。ダメージではないけど必中とかもありそうだし、病毒なら環境から受けるかもしれない。
「あとは……ああ、あの馬鹿どもでも飲むのを嫌がらないヤツ。仕入れ値が馬鹿みたいに高かったけど、効き目は抜群でね。〈フルーツポーション〉って言うんだけど」
「それめっちゃ聞きたい!」
「食いつくね。ここでかい?」
「あ、いや。ちょっと待って、えっと……あの、別キャラ……旅人のことってどのくらい知ってる?」
旅人って旅してるやつのことだろ、と常識の再確認みたいなことを言われてしまった。
「や、違うの。異世界からの旅人」
「んん……? あー、確か海の向こうにいるとかって聞いたね。それを聞いたのがヨルヴィニヤだったから、そうか、この大陸になるんだねえ」
「その旅人が、私。それでえっと、魂と体が別々になれて、別の体に今の魂入れたりとかも……? できるんだ」
「はあ、大層なもんだね。ああ! つまり、今のあんたは薬づくりに向いてないけど、薬師を仕事にしてるあんたの体も持ってるってことかい」
さすがに、元から頭がいい人は回転が速い。
「あの……今から作ってきていい?」
「……まあ、あたしは構わないけど。どうやって待ち合わせするんだい」
「だいじょうぶ、旅人なりの方法が色々あるから! まずケージに戻ってもらってから、私たちの拠点に行って。そこで待ってて」
「道化の拠点ね。楽しみだね」
「ふふ、〈道化師〉は私だけだよー。じゃ、ちょっと待っててね」
「ああ」
ふわふわ漂いながら寝ていたフルルと、待ちに入ったシシィをケージ型のアクセサリーに戻す。そして新ギルドホームに戻って、シシィを出した。
「ほー、旅人ってのはお金持ちなんだね。建てたら五千万はくだらないだろ、ここ」
「借りてるだけだよ。家賃いくらなんだろうね……」
リアルで住んでいるのはいちから建てたマイホームで、旧ギルドホームはほとんどシステムをいじって建てたお安いものだった。そういうわけで、私には不動産観はあんまりない。
「じゃあ、ちょっと待ってて。私の部屋に案内するから」
「わかったけどあんた、ガイコツを連れ歩いて変だと思われないのかい」
「ん? 大丈夫でしょ、そういうものだし」
「旅人はほんとに、変なんだねえ……」
ログアウト……ではなくて、キャラが一人しかいないからスキップしている「キャラ選択画面」に移動した。
『おや? 君は以前に案内した迷い人だね。もうひとつ考え事をしたくなったか』
「そういう風に言うんですね……?」
『意志を歩むとは、そういうことだからね。さて――』
「決めてます!」
[あなたの歩む、これまでとこれからの意志を教えてください。
・使徒
・賢者
・常人
→愚者
・狂妄
※選択の結果は、ゲーム内で変更できません。]
『おっと! これは失礼したね、心は決まっていたのか』
看板頭の案内人は、小さく笑った。
『それに、ふむ……前と同じ顔に造るのかい? 何をするのか、とても気になるな』
「面白いことをしたくて。あと、……ううん、それだけかも」
フィエルと同じ顔、同じ黒髪。けれど。
『意志の証……仮面はどうしようか?』
「えーっと……どうしよう」
じゃあ、と案を出して、いくつか出力してもらう。いちばんきれいにできたものを手に取って、顔にとんと当てた。フィット感もいいし、肩に置くときにもきちんと合っている。
「よし! それじゃ、これで」
『ジョブはいいのかい?』
「あっ」
『焦らなくても大丈夫。さあ、決めよう』
あの、と無茶ぶりをしてみる。
「最初からふたつ、いいですか?」
『ああ。六つの枠を最初から埋めても、あとで入れ直せるからね』
部屋に置いたアイテムと合わせて、すでにサブキャラのビルドは考案してあった。




