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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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122【最強襲来】ブレイブ・チャレンジャー!【最後に強いのは物理】(6)

 どうぞ。

 地面に降りた瞬間に、少女が跳んだ。いつの間にか手に持っていた剣が、ホウイの持つ剣鉈と切り結んで一瞬で砕け散る。これもまた、カードで作ったコピー品であるようだ。先ほどの異様な変化は、カードが見た目の変化を終えるまでに投げたために生じたものであるらしい。ぱっと手を広げると、また剣が現れる。


 麦わらで編んだような鋭い形の帽子が、動くたびにふわりと揺れる。ヘアピンで留めているようで、揺れるたびのぞく花の意匠もまた美しい。


(「飾剣」だったか、剣と打ち合えるわけはないが……オリジナルは腰に差したものだな。砕け散る前提で、その破片も目くらましに使っているのか)


 青黒いシミターは、もともと打ち合うためのものではない。しかしながら、玉華苑が励起する「砕焔」――「武器が破損消滅したときに生じる」という、きわめて難しい条件を課されているために、その他の追加ダメージもたいへんな高倍率を誇るそれ――のためには、非常に有効に作用していた。


(カードのコピー品は、どう高く見積もっても銀等級……ランク3扱い。それよりもやや下と想定すると、本体攻撃力の五から十パーセント程度のダメージ、ということになる)


 彼女の攻撃力は、どれほど高く見積もっても二百程度であろう。幾度「砕焔」ダメージが生じようと、一撃は二十から三十程度の数値にとどまる。ただし、それを警戒する必要がないのは――


「こんなに尖ったビルドを。これがあなたの秘密ですか!」

「道化の舞台裏なんて、自分から口にしたりしないよー」


 ――ダメージの発生が、一度のみだった場合だけである。


 励起のため植えることになる低木あるいはツル植物は、占有するマスの数がやや多い。倍率の高さゆえに用意された制約なのだろうが、ぱっと見では何本も植えることが難しく思える。


(低木二本と並列マスの併用、それに……【愚者】はキノコ(「光芒」)にも恵まれている。たった一度の攻撃で、「残響」「光芒」「砕焔」に「飴玉」……!! カードのダメージ倍率が低かろうが、たった一枚に本体攻撃力の七十から八十パーセントが付加されていれば関係ない!)


 もとより剣鉈の替えは用意してあるが、これほど驚異的なスピードで破損するとは思ってもみなかった。二刀流に切り替えると、少女はあっさりと剣を消費し尽くした。


「……何を狙っているんですか」

「何だと思う? なーんて、冗談!」


 コマ落としのように、少女が極近距離(クロスレンジ)に現れる。こぉんっ、と剣鉈が鳴った……思わず腕がしびれたと錯覚するほどの、おそるべき衝撃だった。


「蹴りッ……」

「だよ」


 備長炭のような、美しい黒の下駄。どうにか取り落とさずに済んだ武器は、しかし軌道を無視して続いた蹴りに弾き飛ばされた。後ろ手に持っている何かから出した壁に、少女は重力と関係なく着地する。


「なんですかこれは……!」

「見えない? 見ていいよ」


 心地よさそうに揺らす金属のコップの中には、何も入っていない。しかし、触手のようにずるりと伸びた液体は、酒精の匂いを放っていた。逆さに返すと、明らかに内容量よりも多い液体がたらたらと流れ続ける。触手はそのまま、ホウイに襲いかかった。


 切っても切れないアルコールは、唐突にばしゃりと弾けた。そして燃え上がり、数瞬で燃え尽きる。


「ふふふ。すごいでしょ」

「確かにすごいが……これが何だと」


 わずかに湿気を帯びた空気を、黒い下駄が切り裂く。そして、湿度を帯びた空気を駆け抜けた脚が、より麗しい艶を帯びて輝いた。月光に冴えるその白が、より鮮烈な光を宿して目に映る。


 両足で蹴ることはできまい、残った剣鉈で下駄に合わせ、どうにか攻撃を止める。ところが、パンッ、という音とともに少女がくるりと回る。体を丸ごと巻き込んだ回転に、片手だけで着地して両足をばたつかせるような蹴りが続いた。明らかに対処不能の事態に、ホウイは〈猟師〉のスキル〈細く永らえ〉と〈緊急補食〉を使用した。


「こんなのあるんだー。じゃあ」

「くッ!!」


 瞬時にHPが全回復する、効力の強いポーションを使った。そして、ダメージを低く抑える代わりに移動が鈍る特技も使った。


 だから、と言わんばかりに加速する蹴りが、異様な軌道でホウイを襲う。つま先で蹴ったかと思えばかかとで蹴る、軸足を変えぬまま足の甲や下駄の歯が襲い来る。そして、それらはどれも一級品の威力を持っている。パン、パパンッ、パンと一撃ごとに音が聞こえ、思考する暇もないまま武器を取り落とし、体を浮かされていく。


 ぽんぽんと手毬を突きながらの蹴りは、とても楽しそうだった。艶めかしく、むっちりとした脚が躍るたび、しっかりとした太ももの肉がわずかに揺れる。その美麗に雪白に、そして黒のハイレグにどうしようもなく目を奪われながらも、ホウイはどうにか思考を取り戻そうと必死だった。


「人が浮くほどの、蹴りなど……ッ!」

「じゃあ、もっともっと。高くするね?」


 視界に、ばらりとたくさんのボールが現れる。


「〈ギガントスケール〉」


 ホウイの体の下で、どむんっとボールが超巨大化する。弾かれた体は、そのまま空中に投げ出された。眼下の少女は、サディスティックな微笑みを浮かべる。そして続いた蹴りがボールを送り出し、青年の体を高々と弾き上げた。


「ぐ、う……ぉっ」


 そして、なぜか少女もそれに追随して上昇している。


「なぜ、……!?」

「まだいーくよー」


 ひゅうひゅうと風を切って上昇し、森を見渡せる高さに到達したが……少女は今一度ボールをホウイの腹に蹴り込んで、やや大きくなったダメージとともに、その体をさらにかち上げた。どういった仕組みなのか、少女はまだまだ上昇を続けている。


「ボール蹴る特技、ぜったい蹴れるようにボールが移動してくれるんだけど……例外があって。ボールが移動してるときは、プレイヤーの方が移動しちゃうんだー」

「だから、移動制御があるのか……!」


 ほかのプレイヤーやモンスターに大きく吹き飛ばされれば、プレイヤーはそちらに移動してしまうことになる。それゆえに、初期技から軌道コントロールが存在するのだろう。その推測が立ったところで、もはや意味はなかった。


「バニーさんは、月と映らないとね?」


 月を背にした黒い影は、振袖と脚の長さのせいか、チョウのように見えた。そして少女は、青白くさえ見えるすらりとした脚線美へ、動きの中でゆるりと月を流した。


「〈ヴォルカナイト〉っ!!」


 しなやかに弧を描いた脚が、巨大なボールを蹴った。ドゴンッッ!!! とあばらを砕いた感触とともに、月と少女が遠ざかっていく。落下の衝撃を規制するため、ホウイの意識はそこで灰色になり、死亡確定判定が為された。


(本当に――美しい)


 ゆっくりと落ちていく視界の中で、少女はまだ微笑んでいた。

 ホウイ戦の決着は「蹴り」ってコンセプトを考えたとき真っ先に思いついたやつでして、今やれてめっちゃ楽しい&嬉しい。最後まで映らなかったけど実質ダークネスムーンブレイクなはずだったんだ。


 じゃ、流星群するね……

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