121【最強襲来】ブレイブ・チャレンジャー!【最後に強いのは物理】(5)
どうぞ。
敵を倒すためにはどうすればいいか。答えは単純だ。
(敵より長く生き残ればいい。当然、この四人を相手取ってだが……)
鎖がぬるりと迫る。弾き、その感触を確かめた。実体のない刃と食い合うような、不快な手ごたえ……ディリードは、その正体を知っていた。
生存戦略として考えた場合、誰を最初に狙うべきか。最強の力を持つアンナか、卓越した剣技を振るい続けるレーネか。ここにはいないびっくり箱のフィエルか、呪いと鎖という読み切れなさを持つとっこか。否である。
(呪いを無視するわけにはいかないが、この感触。〈エンチャント・ブライトネス〉……まさか彼女が俺に特効を持っているとは)
装備で言えばそれなり、ステータスは絶妙、動きは悪い。しかし、ディリードとは致命的に相性が悪い。青いイヴニングにベールの少女「シェリー・ルゥ」は、彼が真っ先に倒さねばならぬ相手であった。
アンナが先に立ち、レーネが跳ね回って剣を振るう。当然のことだが、守りは固かった。あちらにも同じ知識がある以上、知れたことである。
『■■■■■■』
「聞こえんな。俺は【常人】だ」
ディリードが最強と呼ばれる理由はいくつか存在するが、もっとも大きな有利は剣に実体が存在しないこと……そのために発生する、異常なまでの挙動の速さである。通常ならば発生するはずの重量制御、手返しなどが非常に早くなるか関係なくなるため、いくらでもいる片手剣使いの中でも圧倒的な速さを手に入れられるのだ。
ところが、実体のない刃にも問題点は存在する。MPを消費して作り出した闇属性のエネルギー体は、属性付与の魔法、とくに光属性付与とは致命的なまでに相性が悪い。構成エネルギーがすさまじい勢いで減衰し、補充が間に合わなければ消滅してしまう。耐性を持つプレイヤーはほとんどおらず、防御貫通補正も強力だが、同格で打ち合える敵にはあまり強くない――ディリードは未だ、最強には遠かった。
「おっそろしいものですなー。これほどとは!」
「そちらこそ……こんな変態ビルドをよく使う」
もとより、〈騎士〉も〈学徒〉も鎖を使うには向いていない。〈治療師〉はフラッグとそれなりに相性がよく、〈剣士〉と刀はベストマッチと言えるが、とっことアンナの意図だけはどうしても読めない。
(可能性があるとすれば、遠視的な計画。「忌餓穴喰」を密かに育てている……? とは思えんが、単にリーチの問題とは思えない)
とっこの装備している鎖は、おそらく呪い装備の産物であろう、と察しはついている。アンナの鎖も、攻防自在のアイテムとして活用しているのに違いない。至極一般的な、幾度も繰り返された結論だけが脳に固定されている。
レーネの剣は冴えているが、アンナの動きはやや鈍い。
「心配なのか。ルールがある以上、読めていただろうに」
『■■■■……』
相手の位置を特定できるようなコメントや、敵の詳細を知らせるコメント……要するに、勝敗に直接干渉するようなコメントはできない。そのため、今ここにいないフィエルが何をしているか、誰とどのように戦っているか、分かったとしても気をもむ以上のことはできない。
(音からして、猛追をかけているといったところか。距離は半キロ……と、誤差五十メートル少々。大詰めに入っている)
すさまじい破壊音と、木々のなぎ倒される音。枝の上にでも立てば遠景も見渡せるのだろうが、そうもいかない。
「さて――」
「何か来ます」
基本的に、戦闘中に相手のステータスを見る方法はない。それが幸か不幸か、希望か絶望かは知れぬことだが……ディリードのHPゲージが目に入ったところで、敵対者はすぐにその推移を追うことを諦めたに違いない。あまりにも激しく増減するそれを真剣に見たところで、何の意味もないからである。
すうっと空中をなぞった指が、三日月型の斬撃波を作り出した。
「えっ、なにあれ!?」
「あんなのは存じ上げておりませんな。おそらく……」
「新しいジョブだ。〈ブラッディルーン・ムーン〉」
『■■■』
口をあんぐり開けている。予想通りの反応だった……涼花が見ていれば、「あンの食わせもんが!」と声を荒げていたことだろう。超高額アイテム――今すぐにジョブを変えられる「魂の魔石」を生で売るというのだから、さぞ大きな代償として払ったのだと考えたのに違いない。彼女の態度はそのように見え、じっさい秘匿すべき情報を売った。しかし。
(「売るほどある」というのは、金満家のイヤミか。商売人に余裕がないのは、よくあることだ)
マナポイントあるいはマジックパワー=MPという概念は、昨今のMMOでは廃れかけた概念である。しかし、ジョブ制を取り入れたゲームでは、ある種の制約として入れざるを得ない状態にある。
特技やスキルのすべてがクールタイム制になってしまえば、プレイ時間は大幅に減少する。より難しいリソース管理を押し付けなければ、ユーザーは想定されるプレイ時間を大幅に短縮して、運営サイドをかんたんに超えてしまうのだ。
「俺はそれほど強くない。技術も、センスも。君たちには何一つ勝っていない。これを謙遜と受け取ってくれてもいい……この鎧に付けた傷が、すべて偽物だと思うなら」
紅い三日月が、雨あられと少女たちに迫る。MPがゼロになった瞬間、そのコストはHPへと切り替わった。HPが減るほど、ディリードの与えるダメージは増えていく。「自傷ダメージ」という言い方は、何も間違えてはいない。それが必要経費である、という点から目を逸らせば、たしかにHPは減っている。
「誰よりも先を行くものは、誰よりも早く進み続けるものなんだろうな。憧れに追い付いた瞬間に、追い落とされるのが怖くてたまらなくなった。が」
三つの三日月に斬られた〈彼岸花〉が、真っ先に消滅する。
「勝者は次もまた勝つ。ウサギの相手はウサギだ、カメと競う馬鹿がいるものか」
属性付与が途切れた一瞬に、男は聖女を両断した。ディリードが失ったHPは、すでに体力ゲージの全量を超えている。ゆえに、彼が与えるダメージはふだんの二十倍以上に膨れ上がっていた。
「来い。俺も解を使おう」
警戒して立ち止まる二人に、男は耳のピアスを示した。名も知れぬ透明な石ころのはまったそれには、大した興味もない。しかし、その効果はあまりにも凄まじいものだった。
「これは、俺のHPを二倍にして、最大量の五十パーセントを回復する」
「……これはまずいですなー。とても」
似たような解を持つ、魔法職のアタッカーはごまんといるだろう。ただし、それは継戦能力が少々伸びるだけで、対症療法にすぎない。
しかしながら、ディリードの場合は――HP量がそのまま使用可能コストになるのは同じであっても、HPの減少値が与ダメージに変換されてしまう。見せつけるように、男は握っていた剣を消滅させた。そして、きらめいた宝石に呼応するように、もう一度生成する。
「切り札を待って、敵が育つ時間を稼ぐか? それもいいが」
『■■■■、■■■』
きらめきが目を打つ。決着は一瞬だった。
そして、流れ星が男の目に入った。
「――そう来たか!!」
■”最強”のここがひどい!
・攻撃に当たったら終わり(ダメージがデカすぎる)
・剣の対処法がない(闇属性・斬撃・吸収耐性すべてS以上で無効化)
・シンプルにHPがクッソ多い&クッソ固い(鎧に傷がつくことすら珍しい)
・遠距離攻撃はじめました
今日はちょっと予定があるので投稿できるか分かりませんが、設定集の方にディリードのデータを並べておきます。あとちょっと、次に使う設定を作っててちと忙しい。




