表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/166

119【最強襲来】ブレイブ・チャレンジャー!【最後に強いのは物理】(4)

 どうぞ。

 巧い人だな、と直感的に思った。鎖使いは身内に二人いるけど、あの二人はリーチの長さだけを重視している、ように思う。線を作る薙ぎ払いと、鎖をまっすぐ伸ばす点の攻撃……私はそればかり考えていたけど、鎖を引き戻すという「判断力への攻撃」もある。


「すっごく、上手いね」

「あなたこそ。引きすぎないの、怖いです」


 振り回す長さは、ほとんどそのまま破壊力につながる。近い方が厄介だけど、離れた方が威力は上がる……恐るべきジレンマは、私に武器たった三つしか使わせてくれない。戦いが終わった悪魔は消えてしまい、ハットを使っている隙間もできそうになかった。


 鎖に基点はない。強いて言えば、分銅というかとげ付き鉄球はあるけど、鎖鎌みたいな持ち手の棒は見えなかった。時間差をつけてカードを投げ、相手をちょっとずつ削りながら、できるだけ隙を探す。鮮やかな青の振袖がふわりと踊るたび、桜色の軌跡が空気を切り裂いて、樹が折れたり枝が弾けたりと破壊が起こる。


 片手だけでカードを飛ばし、杯と飾剣を手と足の両方でお手玉してときどき使う。ちょっとだけ回転を付けることで、ちょっとだけ風切り音がするから、今どこにあるかを耳で把握できる……鉄球で弾かれそうになったら手で取ればいいから、小さくまとめた方が楽になる。


「本っ、当に……! どうしたら、こんなに強くなるんですか」

「アスリートだもん。毎日毎日、目標に近付くか、一ミリでも先に進むかしなきゃ」


 投げ上げて受け止める演技は、新体操だといっぱいある。ボールにバトン、リボンもフープもそうだけど、戦いではあんなに目で見ていられない。固めの下駄を履いてわざと音を立てて、回転を付けることでもっと聞きやすくする――曲芸っぽく見せてはいるけど、武器をいくつも使う〈道化師〉にとっては損しないテクだ。


 私もこうして頑張ってみているけど、相手もめちゃくちゃに強い。


「鎖の使い方、私が見た中でいちばん巧いよー。最強」

「ふふふ。光栄です、そう言ってもらえて」


 兄が見せてくれた特撮でも、鎖を振り回してフェイントや牽制をするシーンはあった。けれど、特技や壊したものを巻き込んでの多段攻撃、鎖の一部を固定してからの自身を引き寄せる移動は、モンスターよりも最適化されていた。


 当たっても、この距離なら死にはしない。その代わりに、鎖が巻き付いて次の攻撃の起点にされてしまう。そうなったら終わりだ。


「っしゃ、ここなら漁夫れ」

「邪魔」


 ゾボッ、とボウガンを構えた誰かの頭が消し飛んだ。飛んできたナイフを弾き、全力の薙ぎ払いが木々をきれいに切断する。コメント欄はどうなっているんだろう、と思うくらい、ゾッとするような威力だった。


 カードが少しずつ削り、鉄球には一度も当たらず、杯から飛び出た液体金属がわずかずつ削っていく。どちらに軍配が上がっているかは明白だけど、あえて口にしていないようだった。


「自分で戦う〈道化師〉って、こんなに難しいんですね」

「頑張ったぶんの結果は出てる感じ、するよ」


 大きな火力が出る技は使えないけど、一撃が極端に弱いかといえばそうでもない。勝敗は、ゆっくりと決まろうとしている。少しずつ撒いた液体金属の種を、檻のように伸ばして相手を捕まえようとする……動きのクセ通りに、彼女はすべてを真っ二つに断ち切った。


「これも仕込みだよ」

「しまっ――」


 いくつもの金属片と伸びた金属の枝に雷が弾け、連鎖した威力が少女を焼き尽くす。がっくりと崩れ落ちた体に、ひとつ聞いた。


「ごめん、名前聞いてなかった」

「私は、アヤコです。いつか、肩を並べましょう」

「うん。それじゃ……」


 きゅっ、とちょろたちの声が聞こえた。


 ほんの一瞬の光に合わせて使った〈アクセルトリガー〉が、〈ヴェンジェンス・キッカー〉と併せて矢を弾き返す。


「自害して、配信見てますね。応援してます」

「えっ!? っと、ありがと……」


 胸に懐剣を突き刺して、アヤコは自害した。矢が飛んでいった先を見据えて、ちょろたちに案内をしてもらう。


「……あはっ」


 自分の中で、何かが疼くのを感じた。






 まだ幼くて記憶があやふやな頃のこと、私はきちんと閉まっていない両親の寝室から、何かが聞こえるのに気付いた。トイレに起きた時間がいつだったのかは分からないけれど、子供のことなんか気にしないような時間だったのだろう。


 カーテンからわずかに透ける月光が、女の影を作っていた。苦しそうに、もしくは嬉しそうに大きく息をするそれは、兄が見せてくれたテレビに出てくる「化け物」たちによく似ていた。よく見れば、化け物の足元では、こちらも苦しそうに息をする何かがいた。思わず息を呑んだ私に、化け物は聞いたことのある声で言った。



――女は、ジブンをオトシテくれた男をクウものよ。



 そのあとの記憶はあやふやで、言葉の意味もよく理解できていない。


 そしてまた、別の日なのか次の日なのか、脱衣所のゴミ箱に大きな傷テープが捨ててあったことがあった。弧を描いた大きな血の跡がはっきりと見えて、思わず取り出して母に見せてしまったけど……母は「お父さんも大変なの」とだけ言って、血の付いたものや捨ててあるゴミは触らないように、と言っていっしょに手を洗った。


 そういえば、昔から父とお風呂に入ったことはない。どうしてかは分からないし、考えてみれば不自然でもないから、忘れてしまっていた。一度だけそれを口にしたとき、母はなんだか不思議そうに、けれど何かに納得したような顔をしていたのを覚えている。はっきりと言語化はできていないけど、それが何なのか、大学生になった今は分かっていた。


 私の中にあるイメージ――「愛する人に喰らいつく女」が、どうして今まで出てこなかったかも分かった。


(誰も、私を倒せなかったから。「堕として」くれる人がいなかったから)


 いるわけがない。けれど。


「あは。あははっ、ふふ……」


 喰いに行く。


 言葉になった化け物が、私の中で息をしている。


「あははは……アハハハハハ……!!」


 一途で、今でもアツアツで、しっかり二人の時間も作れるあの人の。


「アハハハハ、ふふっ、アハぁハハハッ!!」


 受け継いだ化け物の血が、心臓から全身に送り出されて、全身を巡っていた。

 アカン方の遺伝というか継承というか。きょうだいが多いとこういうのも見えるんですよね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ