118【最強襲来】ブレイブ・チャレンジャー!【最後に強いのは物理】(3)
(2025/11/18 脱字修正)
どうぞ。
今日はコメント厳しくてごめんね、と先に謝っておく。
「いつものことだけど、概要欄のルールは遵守! しんにょうの方の「じゅん」だから、絶対守れ! の方ねー。というわけでさっそく……ちょろくんたち!」
カードから解放した二匹のトカゲを、手のひらに乗せた。二匹いるのに手のひらに乗り切ってしまうから、かなり小さい。
『とかげ!』『たしかにちょろっとしてる』『メスなのでは……』『ほんまや』『※メスです』『ボクっ娘かもしれないだろ!』『尻尾の付け根にツノあるのはメス』『男の娘なのでは……』『して、狙いは?』
「この子たち、メスなんだね……。はともかく! なぜか私以外みんな知ってたんだけど、狙撃には「スポッター」って人が必要なんだって」
理屈は分かったけれど、もともとの「夜の中でも目立たない小型のモンスター」なんて、どうやっても見つけられない。というわけで。
「このちょろたちに、探してもらうことにしました!」
『はえーかしこい』『これは諦めるわな』『サーチ系スキルもそこそこ上げるの難しいし』『トカゲサイズを夜闇で見つけんのはまあ無理ね』『※超重要テクなので全員覚えて帰りましょう』『最善策ですね』
「カードで買ったからめっちゃ安かったよー。売ってくれた人、ありがとね」
近くの木に登らせて、武器を出した。
「ごめんね、コメント読み終わるまで待ってもらっちゃって」
「いや、構わないよ。配信してる人をつまんない方法で倒しちゃあ、こっちが叩かれるだろ?」
「サムネの人……」
「そうそう。君たちが話題取っていっちゃって、ちょっとキツかったんだよねえ」
青い髪をがしゃっと上げた、ギザ歯の剣士。似たような装備の黒髪。後ろに控えているのは、仮面で顔を隠した術師と、おそらく呪術師。
「ここではもう数字取れないから、最後にパーッとやっちゃおうってことで、ね。お手合わせ願えないかな、いちばん数字持ってる人?」
「その呼び方やだなー。いいですけど」
飛んでくる怨霊を避けて、切る。
「お? それって」
「剣です」
ドロリと汚染されていく剣を見て、相手のやり方はだいたい分かった。ハットに放り込んで、呪われた剣を消す。武器や防具を呪って使えなくする……私の解にもある効果だから、けっこう分かりやすかった。
いくつもの武器で、飛んでくる怨霊を片っ端から切りまくる。いったんストックが切れたタイミングで、〈ウィ・ザード〉を使った。いつもより禍々しい悪魔が、地面に広がった血の池から湧き出てくる。
「うーわ、ズっルいなあ。というか……」
「見せてませんでしたっけ? これ」
剣使えるんだ、と言われてちょっと首をかしげる。たしかに、武器適性でいうと〈道化師〉は片手剣適性Dだけど……物理的に振るうだけなら支障はない。それに、ハットで消費するコストとしてストックしているだけだから、さっと出してすぐ使えるなら何でもよかった。
「魔王の道化、の手下。倒せなかったら、先には進めませんよー」
「言ってくれるねえ!」
どんなゲームでも、雑魚を召喚する敵はうざったいと言われがちなのだそうだ。やる側だと分からないけど、ボスモンスターは基本的にそればっかりだから、重々承知している――だからこそ、やる。
六体の悪魔は、どろっとした炎をまとって四人と戦い始めた。木の枝に腰かけて、足をぶらぶらさせながら見物する。
「私必要なさそうなので、次に行ってもいいですか?」
「ふざけるなッ」
ダメージを無視して、剣士はこっちに跳んできた。たしか〈ブラッドリープ〉、突撃しながら斬るかなり強い技だった。体重のかけ方を後ろ側に崩して、下駄で止めて吹き飛ばす。盾の悪魔に殴り飛ばされて、相手はもっと後退した。
「おやー」
「こいつッ……!」
「耐久がないなんて、受けなきゃいいだけの話じゃないですか」
「キックで止められるとはねえ。さすがに、反応速度はあるか」
『受けて負けた人の言うことは違うな……』『草』『そうだね(適当)』『この締まらなさよ』『これよこれ』『イキリ同士だからどっちが勝っても美味しいな』
コメント欄はそれなりに盛り上がっていた。
飛んできた魔法を同じ魔法で相殺し、盾を投げ上げて蹴り込む。
「盾キック!」
「シュートだろ!?」
ドガゴッ、と黒髪の剣士が倒れて、敵がひとり減る。そして、悪魔に任せきりの戦闘とは違う方向に、人が見えた。
「次」
『なに今の声』『ドス利きすぎやろ』『こっわ』『強敵スイッチか?』『これ何のジョブ?』『↑なんやろねこれ』『たぶんオーガ系とゴーレム系』
バスッ、と音がして木の枝が消し飛ぶ。とげ付きの鉄球と鎖は、使える人にとってはめちゃくちゃ強い武器だ。コンセプトに合わせたのかもしれないけど、出くわした中では明らかに強い側だった。
すとん、と地面に降り立つと、後ろから鉄球が戻ってくる。動きを合わせてキックできるような速度ではなかった――さっと避けて、大きな動きにカードをいくつも投げ込んで、露出している素肌に突き刺した。
「強いね。ちょっとコメント読んでる暇ないかも」
「主役の人ですね。お会いできて光栄です」
元からそういう風に作っていたのか、羊みたいな黒鉄の角がこめかみにある。肌の色はちょっと色黒くらい、黄金色の目、そこにレーネみたいなミニ丈の浴衣を着ているから、異国情緒を感じるキャラメイクだ。
「さあ」
「うん」
空気が裂ける音が、いくつも聞こえた。
「ドブカス戦法」
〈呪術師〉における戦い方のセオリーのうち、最悪なもの。怨霊をストックして相手にぶつけ、かれらの呪怨を相手に背負わせる。この怨霊をどこから持ってくるかが問題で、モンスターからドロップした「魂の魔石」を汚染して破壊・解放することで怨霊にするやり方が存在する。この方法だと、能力が大幅に上がるものの呪怨の重さが激甚なものになり、一定確率で術師の命令も聞かなくなる。ちなみに、登場したキャラのうちでは涼花やとっこの戦い方もこれの発展形。強いことは強いが、NPCにおける〈呪術師〉の好感度が最低中の最低、平均的に【愚者】以下なのはこれが原因とされている。
穏やかなものでも、武具に仮想思念を宿して一部効力だけを高めたり、大量にスタックされたデバフを怨霊という形で結実させたりと、〈呪術師〉というジョブの戦い方自体があまりよろしくないものと思われがち。筆者としても否定しにくいのがちょっとうn……




