117【最強襲来】ブレイブ・チャレンジャー!【最後に強いのは物理】(2)
どうぞ。
すべてのプレイヤーのスタート地点「エーベル」内、ギルド「タイトルタイルズ」拠点にて――涼花は、ホロウィンドウをいくつも広げて幹部たちと視聴していた。
「毎度えらく高額なもの買っていきますけど、あの人たちってお金どう工面してるんですかね?」
「坊は顧客リストちゃんと見とかなあかんでぇ。うちでお金作ってうちで吐き出さはる人らぁばっかしや、よそで稼いで来ゃはる人はあんましおらへん」
かなり年少の「ギュンザー」は、いま少し視点が甘い。しかしながら、半ばカルト化しつつあるTT内部でも、素直な後輩気質ではありつつ反駁もする、という個性は貴重だ。そのため、彼は幹部候補として置かれていた。
「金持ちはだいたい……正教会のお偉いさんかギルドの上層部、豪商と領地が豊かな貴族だな。フィエル氏はそうでない連中との付き合いが多いらしい」
「それで、会長ぉ。今日はどうして招集されたんですかぁ?」
「うちらが売ったもんが、どんくらいお客さんに“届いとる”かの確認をしとるんよ。今回の件でいろいろ買うてもろてるけど、効果は実感できてるんかな? お値段のぶんの満足度はあるんかな? っちゅうことをね、映像から見るんよ」
「なるほど、確かに」
モンスターとプレイヤーは、戦う相手としてはまったく違う。そのため、何か買い揃えることで確実に有利になるアイテムは存在しない。
(ドロップ買い漁ってでも、〈玉華苑〉の種を商品に加えたのは正解やったねぇ。あのダメージのからくりは何か、て……アホほど訊かれたもんなぁ)
現状、プレイヤーが対人戦でぶつかりがちな格差は何か――結論は〈玉華苑〉、ということになろう。
レベルではない。レベルだけ上げようとするなら、クエストをたくさん請ければよい。NPCとの交流が苦でなければ、レベルはそれなり以上に上がるだろう。戦闘とクエストのバランスをできる限りクエスト寄りに調整することで、レベルは飛躍的に上がる。秒間に同レベルのモンスター三十体ほどを殲滅できる実力があれば、そうとも言えないが。
装備でもない。武器・防具どちらをとっても、付帯効果いくつか程度にゲームチェンジャーとなり得るチカラはない。逆に言えば、見た目だけで装備を選んでも、画面の向こうのような活躍をできるという意味でもある。TTはここに着目し、このことをよく顧客に伝えて各種商品を売り込んだ。
特技でもない。きわめて特殊な条件でしか習得できないものもあるが、だから周囲を圧倒できるか、と問われれば話は別だろう。魔法のスクロールは買えば買うほど使える種類が増えるため、ある程度のコストは免れないが……初級魔法だけでも、オーソドックスなものは揃っている。
「さ、うちら全員のお仕事やでぇ! 自分が売ったもんの満足度、映像から見つけて測るんや。まずはお客さん見つけるとこから!」
元気のよい返事を聞いて、涼花は画面に目を落とした。
剣で斬り合うエフェクト、魔法が弾けるエフェクト。以前まではただそれだけとしか見えなかったところに、色とりどりの小さな火花や波紋が広がっている。仕入れを増やしたのは良かった、ガイド役を何人か置いたのも正解だ。
(でもやっぱり、ビルドの最適化できてへん人多いんやねぇ。最適化っちゅうか、前提の組み立てが悪いんかな……これを勘違いさしたまま売るか、解説ページをまとめとくか)
フィエルの戦闘をよくよく観察すると、やや色の悪い波しぶきのような「波濤」ダメージのエフェクトが出ている。これはHP特化ビルド向きで、体力の増減がそれなり以上に大きくなければ意味を為さない。しかしながら、これを励起する「樹木」カテゴリの植物が存在しなければ、「光芒」や「残響」「火花」ダメージを励起することは難しくなる。
前提としては必要だが、個人の戦闘スタイルには噛み合わないことがある――このズレは、明示的に理解されていない。逆に、「水銀同盟」のブレイン二人は、あれほど暴走し狂戦士っぷりを発揮する少女たちに、どのように〈玉華苑〉のことを教えたのか。
(なんやかんや、全員大学生くらいみたいやし。暴走はしてもあほやないんよね)
エンターテイナーとしてか、道化としてか。相手をからかいながら圧倒する姿は、化け物じみた強さと少女のそれとは思えぬセクシーさ、ひとさじの愛らしさを添えて「白バニーさん」として受け入れられている。
「ああ、ああ。うちの職人の剣が!」
「幻と打ち合ってるのが悪かったんですかねえ」
「また研究しとかなあかんね。メモ、メモ……」
「幻を壊しやすい素材はあります。すぐに取り掛からせましょう」
物理的強度でいえばアドバンテージのある剣が、飾剣の作り出した幻影軌道を壊そうとして打ち負けた。どのパラメータがどう関係しているか、一撃ごとに何が起きているのかは、映像からは分かりにくい。しかし、見るべき光景であることはたしかだろう。
「会長ぉ、やっぱりアクセが満足度高そうですぅ……」
「相対的に、やね。職人にはよう伝えとこ、やる気出させたら何でもやるさけ」
アクセサリーのもたらす効果は、武器や防具よりも直接的に戦闘体験を変える。何より、生存能力やダメージの出方が一度でも保証されるだけで、飛躍的な変化を起こす。
(商機は来とるね。……収支が赤字寄りやから、新しい研究より量産をしとってほしいんやけど)
結果として失敗作であっても、素材は消費されている。鋳溶かしても、宝石や糸などの繊細な素材は帰ってこない……商人ギルドが利鞘を稼ぐでなく内部需要で素材を必要とする、という時点でまともではないのだが、涼花はあえて目をつぶっていた。
「ま、メモはこんなとこでええか……。後は楽しも、うちらがお客さんでいられる数少ない機会なんやもん」
訪れたハイライトに、涼花は仕事を投げ出した。




