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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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113 生きてない生き証人は語らない

 どうぞ。

 湖畔に戻って、流木に腰かける。


 突発的なクエストで、しかもずいぶん難しかったから、何がもらえるかなと思っていたけど……これは確かに、すごいかもしれない。


「……」

「寝て、るのかな……」


 植物系モンスターでも、とくに弱くておとなしい「フューチャーシード」。ヤシの実みたいな一抱えくらいの固い種子が、目の前にかざしたケージの中に、ころんと転がっている。テイムできたというか、クエスト報酬で転がり込んできたというか……なんだかよく分からないけど、仲間になっていた。


 でも、それ自体が動けるはずの種は、ずっと動かない。モンスターを育てるコツはいろいろあるらしいし、種類ごとに工夫することもあるようだけど……意思疎通もできない、どうしていいか分からないのは初めてかもしれない。


「フィーネ。こういう子のことって分かる?」

「種はたくさんの魔力を吸って育ちます。もしくは、寝るのが好きなのかもしれません」

「寝るのが好き……」

「ひとまずは、宝石や魔石をあげてみましょう。赤ん坊は食べて寝るのが仕事ですから」


 この前使った「イデアイドラ」のカードは、このフューチャーシードから進化したモンスターのものだ、と知ってはいた。けれど、実際に見てみるとぜんぜん違う。手持ちにある宝石と、そんなに貴重じゃない魔石をケージに入れて、しばらく反応を見ることにした。衣装は白バニーから青の即席コーデに戻して、ギルドホームに戻った。


 玄関には、見たことのあるド派手な色彩があった。


「遅かったね。頼んだ仕事はどうなってるのか、教えてもらえるかな」

「いくつか仕上がってます」


 過去でも名前を聞いたジェロゥは、水球を破った彫刻たちの出来に、それなりに満足しているようだった。


「どうしてここに?」

「フィエルはどこだ、と聞いたら教えてくれたよ。ここにいるかもと」

「飛び回っててすみません……」

「なに、ボクも同じだからね。どうかな、クエストの方は」


 あまり進んでません、と正直に言うことにした。この人は、そういう進捗を責める方ではない……と、思う。


「何か訊きたいことがあるような顔をしているね。ボクは才能がありすぎて、ものを教えるには向いていないんだが」

「いえ、そういうことじゃなくて。えっと……イニーズ、レヴィロム、ロディリア。って、知ってますか?」


 ふむ、とジェロゥは時間をかけたまばたきをした。もしくは、目を細めてから閉じたようにも見える。


「レヴィロムは、人の体にモンスターの強靭さを足し込めないか、と考えだした狂人だ。あれが純粋な善意から行われていたのだから、恐ろしいものだよ。自分の体も実験に使って、化け物になる寸前に術式を完成させた」


 正教会と傭兵団の争いが激化した原因だったな、とため息をつく。


「ひとりの体に十を超えるジョブを宿して、そのうち四つがモンスタージョブだったか。このボクが一度死んだといえば、その脅威が分かるかな?」

「し、死ぬんですね……」

「あれは強かった。イニーズは、あの「イニーズ・ドリームパーク」を作った偉人だ。原初の〈座長〉、すべての人形の祖。パークの謎と秘宝を手に入れなければ、……」

「入れなければ、なんでしょう」


 混ぜっ返すんじゃない、と鼻を鳴らされて終わってしまった。


「あの、ロディリアは」

「知らないね。キミは、研究者の名前が世に知れ渡る仕組みを知っているか?」

「えっと……ろ、論文が評価されるとか」

「あれは内輪の話だ、よその人間は聞いても分からないよ。もうひとつ」


 すぐに答えを言え、とばかりに視線が突き刺さる。教授が無茶ぶりをするときはこんな感じなのかな、とちょっと焦りながら考えた。


 えっと、と言葉にするのに時間がかかる。新聞に載ったりインタビューが出回ったりするのは、すごいことをしたときだ。すごいことを言い換えると大発見で、大発見は……たぶん、すごく大きな変化をもたらしたとき、だろうか。


「や、役に立つ発見をしたとき……?」

「キミは動いた方が役に立つタイプか。うん……そうだね、すぐに人の役に立つ発見をしたものが、その成果から評価される。では、レヴィロムとイニーズを知っていた理由はなぜか、という話に移るのだが」


 レヴィロム博士は、人がただモンスターに怯えることなく暮らせるように、人の暮らせる土地を拡大したり、兵力の底上げに貢献したりした。正教会のうち一部の教えには抵触するところもあったけど、その技術は現在も使われている。


 始祖イニーズは、労働力や兵站の仕組みを劇的に変える人形を作り出した。そして、その人形を自動化するシステムまで構築し、没した。その後も人形は動き続け、彼の遺産は世界を支え続けている。


「察するに、成果を発表する前に死んだか、ほかと似たような応用研究をやって、誰かに先を越されたんじゃないかな。そもそも、魔術には術式を考え出した人がいくらでもいるはずだが、名を残したのは世紀の大天才だけだからね」

「たしかに……」


 数学者とか国語学者は山ほどいるはずで、その人たちが作ったものには絶対に触れているはずだけど、ちっとも知らない。きっと、それと同じような感覚なのだろう。


「さて。何年生きても時間は貴重だから、ボクはこれで失礼するよ。キミも人形を作ったら教えてくれ、素材が欲しいなら売ろう」

「あ、ありがとうございます……あれ、作れるんでしょうか」

「何のためにその水球があるんだい。手足をパーツごとに作って、組むんだろう」

「あっ、そういう!」


 また教えに来る、とやや呆れ気味のジェロゥを見送って、私もログアウトすることにした。

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