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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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112 常人感情:理を解き射手にたどり着かん

 寝坊しちゃった……


 どうぞ。

 フィエルが突発的なクエストに巻き込まれ、攻略に奔走している頃――


(だめだぁ、見つかんないや。ほんとに誰なのこれ)


 ギルド「水銀同盟」ホームにて、サフォレは映像を分析していた。


 上下まで逆さまになって「銘菓ラヴィータ」を翻弄していたフィエルが、とつぜん狙撃されて地面に転がり、そのまま消滅する。例のガンマニアの意見によれば、太ももに残された傷のエフェクトから推察するに、攻撃の入射角は五十度以上。おおよそ三十度未満に収まる通常の射撃では、絶対にあり得ない……曲芸とすら呼べる、卓越した腕前である。


「んむぬぬーぅ。ハイライトのためにカメラ集中させてたから、遠くが映ってないんだよねぇ……」


 幹部ひとりにつき三つのカメラを配置し、それぞれの窓を開いて応援できるようにと映像を統合していた。当初空を移動していたフィエルは、遠景で月と写すアングル、背後から下の風景を合わせて写すアングル、音声が入るマイク兼カメラのアングルと、ほとんど完璧な追跡を受けていた。


 その三つの配置は、参加したギルドのホームを破壊するときや、ネレイデスに変身したときもそれほど変わらなかった――が、ほとんど戦いが終わったのち、「銘菓ラヴィータ」たち少人数ギルドを倒せば、敵の不在により強制決着するという驕りがあった。


(あのガンマニア、身内に置いといてよかったなぁ。まさか、発射地点までだいたい分かるなんて)


 銃が撃てる国でそれを専門に楽しんでいたせいか、「ダン三式」は銃砲の改造だけでなく、撃たれる側の知識にも詳しかった。入射角と飛んできた方角から、だいたいの発射地点を特定するという、サスペンスに出てくる警察のようなことまで情報提供を惜しまなかった。


 そして分かったことは、当然の結果ではあったが――


(森の中。どう考えても、相手を視認できない位置。スポッターを使ってるのは確定)


 約二百五十メートル離れた、森のただ中。射撃武器を放つ距離としては遠くもないが、当てるには天才的な技術が必要である。狙撃地点としては大きな木の上、そこ以外にあり得ない。地上からでは、どうやっても矢を空中へ向かわせることができないからである。


 音はとても大きいため、樹上からならボールが跳ねているのも見えるだろう。木々が倒れる様子は視認でき、フィエルたち(・・)の位置を特定するのは難しくない。しかし、撃ったからと当たるものではない。


 木々という遮蔽物はいくらでもあり、地上からの狙撃は事実上不可能である。だが樹上からであっても、射角三十度未満であれば木々に遮られる。自らの射撃に絶対の自信があり、フィエル本人がどこにいるかをはっきりと視認しながらでなければ、あのヒットは決してあり得ない。


「上手いだけじゃない? 偶然……?」


 口に出して、それはあり得ないと自らの中で思考を握りつぶす。


 あの中で狙う価値があるとすれば、フィエル一人だけだ。まとめて倒すなら、矢の雨を降らせるような特技を使えばいい。それを使わない時点で、一発で仕留める自信があったということになる。ただ一発賭けのように放ち、それを最高峰の有名人に当てたのなら、自らの功績を大げさに喧伝していなければおかしい。


(おそらく長弓使い、ストイック、周囲も静か。誰も騒ぎ出さないくらい、ログイン時間が短いか……フレンドが少ない? “誰も知らない人”がキーワード、かなぁ)


 なぜ話題にならないのかの答えは、話題にできないから――VR世界に情報統制などなく、人の口に戸は立てられぬ、ということわざもまた然り。であれば、本当に知らないという説がもっとも信憑性を帯びる。何より、掲示板やコメント欄でさえ「あの人だろう」というパッと挙がる名前がないという事実は、知名度のなさを強調している。


(お義兄ちゃんみたいな野良のヤバい人もいるもんねぇ。リアルスキル組は、ゲームの強さに本物の強さを足しこんでる……)


 フィエルの強さのほとんどは、現実には存在しない物体の挙動によって成り立っている。そこに新体操で培った体幹や三半規管の強さを足すことで、魔王がもっとも信頼を置く遊撃手となった。


 しかしながら――


(“本物”。フィエルよりずっと現実的な……リアル知識だけでぜんぶ判明しちゃうくらいの、……)


 おそらく、現実でも同じことができるであろう猛者。それほどの強者は、なかなかいない。あの“最強”は、剣の腕こそ確かだが、生命力と魔力を費やして刃に変える、などという魔法が存在しないがゆえに……現実での戦闘能力を測ることは無意味である。同じ位置に立って同じ場所から戦いを始めれば、勝敗は目に見えている。しかしながら、相手はそのような手段を取らない。


 最強ではない。それを自覚するがゆえの洗練された行動。


(最優か、至高か……まぁいいや、あだ名はネットのみんなにお任せしちゃって。また何か、面白いもの持って帰ってくるよねぇ)


 いちばんの親友の顔を浮かべて、サフォレは小さく微笑んだ。

 ネトゲのリアルスキル組はヤバいです(事実)。なんかもう、マジで技の組み立てとか操作技術が人間業じゃあないんだよね……

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