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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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110 花の落つるは世の定め(5)

 どうぞ。

 機関銃の音を百倍に大きくしたような、耳がおかしくなりそうな音が、何重ものエコーを伴って響き渡った。


『なる、ほど。ただの道化と侮ったのは失策だったか……』


 四本あった腕が一本ちぎれ、はるか下の地面に落ちる前に、空中で砕け散って消滅した。迎え撃つように歯車がいくつも飛んでくるけど、ボールは壊れても攻撃力が上がるだけだから、何の意味もない。


「これ一発目だよー」


 初手の〈ヴォルカナイト〉に続いて、〈どど怒涛潰終エル〉をぶつけた。上半身がぐらぐらと揺れ、いくつもの付加ダメージが花火のように弾ける。


『何を苛立っている? 未来にあるオマエは、過去の人間を踏み台にして生まれたのだろうに。ワタシの作り出した命を使って、オマエの生きる未来ができているのやもしれんのだぞ』

「私は……天才が作り出す答えも好きだけど、凡人が集まって出す答えも好き」

『カオスの濃淡を論じるか。結晶を手にする機会があるというのに!』

「でも、それより。子供を大事にしない人、キライなんだー」


 飾剣にまとわせたエネルギーが、連撃になって殺到する。ざわめいたツタがバラバラと切断されて、空中で溶けていく。


『凡人の怒りなど、何の価値もない。永遠に残るのはワタシなのだから』

「未来に残ってたの、ジェロゥさんの方だったけど」

『貴様ッ、言うに事欠いて……あの狂人を!!』

「いまの録音しといた方がよかった? 何ディールだろ」


 ジェロゥさんも、おかしい側の人間だ。語られていることが本当なら、今目の前にいるロディリアと同じように、何百となく殺戮するし、人を踏みにじるのだろう。けれど、たったひとつだけ違うところがある。


「あなたは何も残せなかった。あなたの“命の向こう側”には、何もない」


 歴史上で何度も同じような考えが繰り返され、そのたびに潰されてきた……推理とかではなくて、残っていないという事実がそれを示している。後世では話のタネになればマシくらいのどうでもいい健康法や、時代とともに説得力を失って廃れたオカルトのように。


「それに。時の番人が本物だとしても、何が起きたかは分かるよ?」

『オマエごときが歴史を変えるとでも言うのか。このワタシを笑わせようとは、道化の鑑ではないか?』

「違う、違う。私じゃ歴史を(・・・・・・)変えられないの(・・・・・・・)


 遺跡もなく、形もない。世界のシステムに介入することだけはできたけど、それも縁ある場所に来るまで判明しなかった。ロディリアの死、村とフルムの全滅、研究の失伝は歴史通りだ。


 では、何が起きたのか。


「やってんなァ! そこの白いの、ちっと降りて来いよ!」

「いくら棺に食わせても、ろくに満足してくれないと思えば。被造物なら仕方ありませんね」


 できるだけ早く駆け下りて、歴史の当事者――聖遺物の戦士たちの前に降り立った。黄金の槍を持った長身の戦士。そして、真っ黒くてやたら大きな棺を鎖で引きずった、血の匂いのするシスター。


「来ていただいて、ありがとうございます」

「火山みてぇな音がするっつーからよォ、ちっとな。わざとか」

「助けなら素直に呼んでください」


 聖遺物の取り合いは、実際にやっていたのかもしれない。けれど、どこかのタイミングでことが露見して、邪魔者を排除しようとロディリアはこの姿に変身した。その人が勝ったか負けたかは別として、その騒ぎがこの二人にバレた。自前のMPだけで、大都会のスタジアムより大きな空間と、その空間にみっちり収まるクラゲを作り出せたグレリーさん……よりも強いであろう、聖遺物の戦士たち二人に。


 そうでなくても、「モンスターが出てくる村」は異常だ。どこか、いつかバレて、戦力が踏み入る。それが全滅か壊滅かするたびに、より強い人がやってくる。未来からやってきた私がいなくても、当然の流れで起こることだ。


『ちょうどよかった。一度負けたふりをして逃げるのも良かったが……やはり、強者を叩き潰してこそのチカラ。種となって惨めに永らえても、こうまで条件が整わなければ目覚めないのなら……』


 ツタのあちこちに紛れ込んだ歯車が、地面に垂直に立つように並んだ。


『時の番人よ、ワタシの一部となれ! 歴史ごときに屈するものか、時などこの手で操ってみせよう。さあ、開け!!』

「おいおい、大丈夫なのかァ!?」


 まるで、クローゼットに入っていた死体のように……縛り上げられた時の番人が、力を失った全身をだらんと投げだす。その姿は、哀れみよりも先に静かな恐怖を感じさせるものだった。


 柱時計を巨人に見立ててカーテンをかぶせ、歯車とジャイロスコープを胸に、振り子を腕に置いたような何か……いたずらっぽい子供がイマジネーションを膨らませた結果みたいな「時の番人」は、体中からツタを生やしている。砕けた石膏像のような顔は、目も口もあさっての方向にズレていて、すさまじく不気味だ。


 ばき、ばきと砕けていく時の番人は、ロディリアに吸収されていく。


「まさか、神の眷属を捕らえるとは……何という冒涜でしょうか。許しがたい神敵です」

「お二人とも、手を貸していただけますか?」

「もっちろんだぜェ。そのために呼んだんだろ? やってやるよ」

「ありがとうございます。では――」


 ただ武器の効果を高めるだけの解を使い、杯から美酒を振りまいて聖遺物の性能を高める。ぐぐっとMPが減るけど、変化していく敵にはこれでも足りる気がしなかった。


『もう隠れる必要もなくなったな。さっさと使えばよかった』


 星空のようなベール、黄金の円環を天使の輪や光背のように配置して、長針と短針をそれぞれ剣として両腕に持っている。のっぺりした顔面は、いっさいの陰影を失って、むしろ美しくなったように思えた。


『このまま聖遺物を奪い、次の神を喰らうか。さらに強いものどもを束ねて、よりよい体を作るか。時間があればあるほど、夢は膨らむものだな』

「させないよー」


 まだまだ“最強”には並べないし、本当の強者にも並べないのは分かっていた。


「全力出す、って言ったでしょ」


 ハットにたくさん武器を投げ入れて、杯から出した美酒も注ぎ込む。ぎょっとしたような顔をする二人には悪いけど、これも私の「全力」だ。何か異常があるのか、フィーネは呼び出せなかったけど、これでも過剰戦力なくらいだ。


「地獄で夢って見られるんだっけ? 好きなだけ、夢が見られる時間あげるから……いくらでも楽しんでね」

『ああ、楽しんでやるとも。オマエたちを踏みしめて、未来へ飛んでやろう』


 呆れ気味の戦士たちを背に、私は大きく跳んだ。

 時の番人の捕獲は自前だったり、死んだのは歴史通りなのに種は残ってたり……昔の人ヤバすぎん?

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