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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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106 あなたが花開く前に(1)

 どうぞ。

 マップを見て、現在地と戻る地点を確かめようとしたら……ぼんやりとマップが薄れて、「現在地不明」の表示に変わってしまった。


「あれ……こんなイベント起こるんだ」


 ほんのり見える風景に向かって歩いてみると、インベントリからボールが飛び出て、ぽんぽんと跳ねる。前の幽霊船みたいに、武器が反応するダンジョンだろうか。そんなことを考えつつ進んでみると、いつの間にか写真で見たカンデアリートにいた。


「や、違うか。強制テレポートって、けっこうちゃんとそうっぽくなるし」


 目的地はかなり分かりやすくて、向かう先もだいたい目に見える。そういうところはけっこう親切なゲームだから、急に知らないところに行くなんて、と辺りを見回してみる。のどかな村……のように見えるけど、よく見ると建物はほとんど倒壊寸前くらいのボロボロ具合で、なのにどこもかしこもガーデニングが異様にきれいだった。


 誰もいないように見えたのに、いつの間にか目の前に子供が立っている。ひどく白い肌に小麦色の髪、不思議な桃色の瞳。なんだかアンバランスな見た目の女の子だった。


「お姉ちゃん、どこから来たの?」

「えっと、エーベルから……」

「えー? あんなとこに住んでるの?」

「あんなとこって……」


 ものすごく簡素というか、原始時代みたいな丈の短い貫頭衣。それに、ひときわ目立つ花のつぼみのようなデザインのヘアピン。周りを見ても、弥生時代かと思うような服装ばかりで、意志の証もひどく古めかしいものばかりだった。どうやら、この場所は過去のどこからしい。そのわりにはヘアピンだけ妙に現代的だから、すでにこのマップでクエストを受けたりアイテムを売ったりした誰かがいるのかもしれない。


「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど。ここはどこ?」

「シイズ村だよ。よく来られたね、お姉ちゃん」


 情報のギャップがすごくて、相手が何を言っているのかちっとも伝わってこない。ゆっくり歩きながら、ちょっとずつ話を聞く。


「エーベルって遠いの?」

「近いけど、偽神がいるとこだよ? お姉ちゃんみたいな人がブユーデンでウソつくなんて、珍しいね」

「あ、あはは……」


 たしか、いまのエーベルにも偽神のかけらがあるとか、地下に埋まっているとかは聞いたことがある。大昔の戦いなのか、それとも実は現在進行形で危ないのか、それは知らないけど……「いる」と明言しているからには、情報のギャップがとても大きいのは確かみたいだ。


「それで、ここって普通は来られないところなの?」

「フルムが守ってるから、歩いても飛んでも来られないよ。どうやって来たの?」

「私はフィエル。〈道化師〉はいろいろできるから、来ちゃったんだー」

「いろいろ……。じゃあ、パパとママが教えてくれないこと、知ってる?」


 言ってみて、と促すと、彼女はひどく哲学的なことを言い出した。


「……“命の向こう側”って、なに? 何があるの?」

「誰が言ってたの、そんなこと。命にこっちもあっちもないよ」

「隣のお姉ちゃんが、フルムになる前に言ってたの」

「フルムってなに……」


 さっきのニュアンスだと「衛兵」みたいに思えたのに、何かまったく別のものに聞こえる。まるで、おかしな通過儀礼のような。


「フルムはフルムだよ。みんなフルムになるんだから、私も。ちょっといやだけど」


 たくさんの花畑の中で、視界に映る人々がとても異様なものに見えた。


「……フルムって、どうなるの?」

「この“花”が咲いて、目に花が宿るの。花の鎧が出てきて、手にも花を持って……」

「なんか、すごいね」

「すごいよ! だって、何が来ても倒すし、ぜったい死なないもん」


 いくつもの種類がある言葉をひとまとめにしているのか、それともすべてひとつの「フルム」ができることなのか。言葉通りに受け取るなら、子供たちは大人になると無敵の兵器になる――と言っているみたいだけど、それで正しいのかは分からなかった。


「じゃあ、あっちの人たちってみんなフルム?」

「うん。そうなの」

「そっかー……」

「どうしたの、そんな顔して。お姉ちゃんはフルムじゃないの?」


 いつも付けている、「玉華苑」で励起できる付加ダメージが起こるたび、MPを回復できるイヤリング「月滴の小瓶」。三つの五枚花弁が連なったようなそれは、確かに開いた花みたいなデザインをしている。もしかしたら、これを付けていなかったら村に入れなかったのかもしれない。さっとメモを開いて、文章にして残しておく。


「私は、ぜったい死なないってほど強くないよ?」

「そうなんだー。じゃあ、しばらくこの村から出ない方がいいよ」

「どうして? 来るときはあっさり来られたけど……」

「隣の村で、セーイブツの奪い合いをしてるの。槍の勇士とヒツギの魔女……? が、毎日山がひっくり返るくらい、すごく戦ってるんだよ」


 聖杯、聖なる槍、それに聖なる棺。ぜんぶで七つある、と聞いたような気がするけど、実際に何があるのかは知らなかった。たぶん聖剣はあるだろうけど、この子もそこまで詳しくはないらしい。


「どうして戦うんだろ……」

「だって、正教会はぜんぶ欲しがってるもん」


 小さなつぶやきのつもりだったけど、聞こえていたようだった。


「行こ? 小っちゃいけど、旅の宿屋はちゃんとあるんだよ!」

「ありがと、泊めてもらうねー」


 特殊なクエストが始まってしまったようだった。

 注目度ランキング(連載中)70位ありがとうございます。49位にまで上り詰めてたんか……え、なろう内で連載中すべてから集計して注目度70位っスか……?(戦慄) ご期待に添えるよう、がんばります。

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