104 職人さんは無茶ぶりで輝くらしいけどとりあえずそれください
どうぞ。
あっちの店長さんに聞いたお店に行くと、こっちは【賢者】の人なのか、喉に両手を交差するような刺青があった。
「おっ? 男装とはまた珍しい、旅人かね。俺はフォーシュだ」
「フィエルです。ちょっと特殊な帽子を探してるんですけど……」
「特殊ね……仕掛け付き? 仕込み武器? 爆弾かい」
「いえ、そういうのじゃなくて!」
地味なスーツ姿は、男装と受け取られたようだった――けど、それは今回関係ない。
「えっと、形と材質を指定して作ってもらうとか……できますか?」
「やってるよ。コーディネートアイテムってことでいいかい」
「はい。お見せした方がいいですよね」
「そうだなぁ。見た目とねらいは聞きたいな」
和風バニーでおはぎ風の衣装を見せると「おぅっ」と驚かれてしまった。
「正気とは思えん服だなぁ。旅人ってのはこう……なんでもやるのは面白いが」
「おはぎ、ってご存知ですか? お菓子の名前なんですけど」
「ああ、黒いオニギリみたいなやつだろう。甘い」
「えっと……? まあ、七割くらい合ってますかねー……」
エーベルの食文化はよく分からないけど、〈料理人〉の初級レシピにはおにぎりがあるそうだから、お米があれば作れるようだ。
「ここに、これをかぶるのはちょっとって……思いまして」
「ああ、〈道化師〉だったのか。ハットね、たしかに合わんな」
おべんちゃらを言わない店員さんの存在は、すごくありがたい。これで売り上げが出るのかは知らないけど、相談するにはすごくいいタイプだった。
全体的には黒で和風のコーデに、白のシルクハットは合わない。生地の質感も違うから、ちょっと統一感が出なくなる……だから、この衣装で使うハットはどうしても別のものが欲しかった。
「麦わら帽子っぽい素材で、こう……えっと、こういう感じの」
「うん、うん……ちょっと俺も書いてみるから、イメージと合わせていこう」
先にホロウィンドウに用意していたイラストは、やっぱり具体的には分かりにくいようだった。フォーシュさんが修正してくれたイメージ図を見て、やっぱりプロはすごいなぁ、と感心する。
「すごい……! まさにこういう、前向きにとがった感じのやつです!」
「編んで作る帽子は、そうとう自由が利くからなぁ。時間はすこしかかるが、いいかい」
「はい。一週間くらいなら……」
「そいつを着ていくのに合わせてこれが欲しい、ってことだな。わかった」
察しがいいフォーシュさんは、「じゃ、今日はこれで閉めるか」とあくびをした。
「そういや、これも戦いに使うのかい?」
「はい。おいやなら、やめますけど」
「……いや、いい。手を抜いた職人だってどやされるんだ、手を抜いた戦士はそれじゃすまんだろう。それよりは、道化らしいことに使ってほしいがね」
「……善処します」
いま使っているハットを手に取ってもらって、大きさを合わせる。
「あんたが使うときは大きくなるんだな。まあいいや、頭に乗ってるときのサイズで作るってことで……」
撫で待ちのように頭を下げて、採寸を済ませた。
「よし。じゃあ四日後、完成次第ショーウィンドウに並べておく。ほかに買うやつがいるなら増産もしてみようかね……」
「できるだけ早く、買いに行きます」
「ああ。ところで、その衣装は舞台に上がるときに着るのかい」
「……そうですね、“舞台”に」
本戦に出るときのサプライズのために、この服を用意した。わざわざスーツを買ったのは、サプライズをより楽しんでもらうためだ。
「この帽子、ください。ちょっと欲しくなりました」
「ああ、いいぞ。【愚者】の人はいつでも金払いがいいから、助かるよ」
シルクハットではなくて、ちょっと上をつぶした栗色の山高帽を買う。
「これはどう使うんだ?」
「これもコーディネートに使います。ちょっと、修行したくて」
前からちょっとずつ、ドロップアイテムをセットするだけで作っていたコーディネートがある。試着室を借りて、武器の欄にいま買った山高帽をセットする――瞬間装備して、ひとまず完成した。
「やっとだー……」
最初に「時間鏡面」に行ったときに手に入った、海色のレオタード……けっこうイイけどどうしようかな、と塩漬けにしていた。フィーネを仲間にしたときの洞窟で、銀のウロコっぽい装飾が入った水色のサイハイブーツが手に入ったので、どうせなら全身それ系で固めちゃおう、と防具がドロップしやすい敵を倒していたのだ。
「ふっふっふ……二人にもTTにもミルコメレオにも聞いたもんねー」
モンスターを倒すとアイテムが落ちる……のは常識だけど、その法則性はけっこうランダムだ。装備なら、パーティー内の誰かが使えるものになることが多いらしい。武器の方が多く落ちるから、衣装をワンセット揃えるのは大変だった。アンナやとっこに「防具が落ちやすいモンスターを教えて」とお願いしたり、いつもの「タイトルタイルズ」の涼花さんや、「ミルコメレオ」の人たちにも聞いたりしていた。
そのおかげか、最近になってようやく防具が揃った。そもそも〈道化師〉向け……「魅惑」のステータスがついている防具はあんまりない。それ以外をぜんぶ売り払ってお金に変えていても、流動しすぎだなぁと思っていた。
肩にふわっとした布がついていたり、腰にもひらっとした申し訳程度のスカートが片方だけついている。全体的には、「銘菓ラヴィータ」のこつぶちゃんと似た感じで、夜会用の手袋とサイハイブーツは、かなりフェティシズムをくすぐりそうだった。髪もお団子にまとめて、顔の右側にだけちょっと垂らす。帽子を獣人の耳みたいに引っかけて、全体ができあがる……ちょっと完成度は低いけど、寄せ集めにしては上等だろうか。
「……よし!」
「どう――、あれか、お前さんの本職は舞台の踊り子だったか」
「確かに、なんかスケートっぽいかもですね」
「それで街中を……旅人なら歩くんだろうなぁ」
ちょっとやることがあって、と言い訳をしつつ、閉店するお店から出る。
「仕込みも訓練も、舞台に上がる前にきっちり仕上げないとねー……」
私には、まだまだ使いこなせていない力がたくさんある。まずは蹴りを、実地でしっかり練習することにした。
やっぱり真面目ちゃんじゃないか(困惑)




