102 たまには真面目な対策会議
今回は真面目です(タイトル完全無視)
どうぞ。
翌日の夜、私たちは全員で集まっていた。最近よく見る円卓に座る五人は、たぶんみんな渋い顔をしている。
「うーん。すごいことになっちゃったねぇ……」
「サフォレで来るくらいだもんね」
会話に一瞬たりともラグを発生させたくない、という考えの表れだ。NOVA経由の音声チャットをつないでも、当然何の問題もない。けれど、同時接続数8000人の中で起きた……千人以上倒した「白バニーさん」が一撃で倒された、という大事件は、まとめサイトでも取り上げられるほど話題になっていた。
「本当に気付かなかったんですか?」
「ぜんぜん。音もしなかったし、かなり距離あったんじゃないかなー……」
「フィエルさんと同じく、リアルスキル組ですかなぁ。数分で異名が付くだけのことはある、といったところでしょうな」
「ま、負けちゃう……」
「いやシェリーは死なないでしょ」
メタバースやVRゲームでたまーに聞く「リアルスキル組」という言葉がある。楽器でいう運指の巧みさ、武器を振るうときの滑らかさ、ダンスのセンスなんかは、ゲームで設定された動きではカバーしきれないものがある。練習した人に「〈軽業〉と〈面歩〉があってもボールでトランポリンはできなかった」と言われたから、私もリアルスキル組らしい。木刀で薪割りができる、というレーネもだけど、自分では未熟者だと思っているようだった。完熟だったらどうなるの、と聞いてみたくもあるけど、ちょっと怖い。
「弓矢はアシスト強めでして、基本はまっすぐしか撃たないものなのです。アシストをカットして、しかも夜の闇の中で当てるのは……本物にしかできないことでしょうなー」
「わたくしのように薪割り程度でとどまるものではなく、しっかりした経験のある方でしょう。恐ろしいことです」
キャラづくりの語尾がちょっと崩れるくらい、とっこにとってもショックなことみたいだった。
「フィエルは、狙撃についてどのくらい知ってる?」
「なんかこう……こうやって、ズキューン! って感じ?」
「アサルトライフルかぁ。漫画だね」
「夜の森で、しかも弓で狙撃するのも、ライフルと同じ考えでいいの?」
シェリーの発言は、たしかにその通りだった。けれど、サフォレは「たぶん同じでいいよぉ」と頬杖から開いた親指で頬を叩く。
「遠いところの目標に当てる、って意味だと似てるからねぇ。体の使い方は違うけど、やり方は似てるはず」
「じゃあ、何に注意したらいいか教えて。本戦でもこれになったら、いよいよヤバいよー」
「もちろんですぞ! といっても、とても簡単でして」
スポッター、と……四人の言葉が思いっきりかぶった。
「あ、えと。じゃ、じゃあ私が……?」
「お願いしてしまいましょう」
ゲーム内ではあんまりないけど、湿度やなんかの関係で、遠くにある目標の位置がズレて見えることがあるらしい。そういうズレを、現地近くから情報を送って修正するのが「スポッター」らしかった。
「おそらく人間ではありませんな。そこまで完璧に隠密行動ができるのなら、そのまま攻撃した方が早いはずですので。それだけに特化した超小型モンスターがいるものかと思われます」
「それ、探すの……?」
「簡単ですよ。夜目の利く、飛べる生き物は数種類しかいませんから」
「えっ」
レーネがきゅきゅっとホワイトボードにイラストを描く。すごく早くかんたんに描かれたデフォルメイラストだけど、すごく上手い。
「まずはフクロウ、次にムササビかモモンガでしょうか。大きくても一抱え、手乗りサイズでしょう」
「妖精とかは?」
ないと思うよぅ、とサフォレが目を細めた。
「妖精はちょっと光ってて見つけやすかったり、目だけのモンスターもその形で目立ったりするからねぇ。地に足ついた生き物の方が、結局強いんだよ」
「夢ないねー……」
たぶんなんだけど、とシェリーが続ける。
「まず音から位置を特定して、森の中を飛んですぐ近くに止まらせるの。しばらく監視を続けながら……たしか、〈調教師〉って視界共有とかのスキルもあるんでしょ? 遠くからの視界と、近くで見たのを重ね合わせて撃てば」
「タイミングも狙いも確実になる、ってことかー」
「ファンタジーな要素もちゃんと活かしてて、凶悪だねぇ」
「本職かと思うほどの手腕ですな」
私は、遠くからでもめちゃくちゃ目立つ。〈ギガントスケール〉で巨大化したボールの跳ねている音はめちゃくちゃうるさいし、雷や氷の魔法はけっこう音が大きい。相手のやり方をこうして考察してみると、絶好のカモすぎる。
「でも、なんだけどさ」
「……そうなの。たしかに炎上はしてるけど、そうでなくても……」
人気配信グループのメンバーがバトルロワイアル中に謎のドロップアウト、という見出し。あぶり出せ引きずり出せ倒せ復讐しろ、とめちゃくちゃなコメントがいくつも並んでいる。当然、冷静な人は「そういうルールだし覚悟の上だろ」と諫めてくれているけど、過激なコメントで埋まりかけていた。
けれど、肝心の“弓取”はまったく表舞台に出てこない。偶然狙ったなんてわけもないし、誇っても許されるはずだし……私は「本戦では勝つからね!」と配信終わりに言ったのに、何も答えがない。
「BPBは私たちが抑えるから、フィエルには“弓取”を任せちゃうよぉ。本戦までちょっと調整あるから、いろいろ整えてきて」
「うん、わかった。次のジョブとか……別の装備も、ちょっと欲しいし」
予選の日に復興完了していたらしいエーベルへと、テレポートした。
次の章でやる内容がだいたい決まりました(フライング)




