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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
3章 噴血いと烈しきは生まれ出ずる折の

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101 赤に赫に朱に紅ニ緋ニ沈メ(後)

 どーぞー。

『なにこれこわい』『反応に困る感じの絶妙な歌ですね』『声はええんやけどな』『学祭のガールズバンド的な』『あの愉悦コップ強すぎんか?』『ほぼ移動してなくてアレはヤバいやろ』『逆に移動させたアザラシは何なんだよw』


 やはりか、とディリードは笑っていた。


「なんなん、あれ」

「人魚系は基本サモナーかコンダクターだ。それに、能力は条件が複雑な方が強い。もうひとつ、『ストーミング・アイズ』はコストゲーだ」

「リーダー、それじゃ分かりにくいって……」

「ま、要するに? 「歌を一定時間聞かせる」って条件を満たして、動けなくなった敵から生命力を吸い取るってこった。それを……というより、「その場で減ったHP数値」を支払って召喚して、HPを食って成長してく化け物ってことだな」


 泡になる人魚ではなく、泡にする人魚。後世に名を残し、化け物のモチーフにもなった名前を戴く怪物は、いま少女の力となって猛威を振るっていた。


「こっちに来るな。――すこし、デモンストレーションをしておく」


 血の竜巻は、ひとつひとつがあさっての方向を向いた眼をあちこちに向けて、次の獲物を探している。その眼に黒い鎧の男が映ったか、竜巻はこちらへやってきた。


「見さしてもらいましょ、ハイライト盗ってかはる人の一撃」




 ディリードのジョブは〈剣士〉である――が、それは初期ジョブではない。彼は最初、ジョブなしでこの世界に降り立った。ゲームが巧い彼らは、どうせ何をやっても強いのだからネタに走ろう、と約束していたのだ。


 しかし。


「〈悼む血は茨となり〉〈命数は安眠に依る〉」「〈闇にありて黒きもの〉」


 何もない腰に、鞘に収まった剣が現れた。柄を掴んで、抜き放つのではなく折る。そして前に向けると、ずう、と夜闇よりも濃い黒の刀身が現れた。


 モンスタージョブ〈ブラッディソード〉、HPを消費することで与えるダメージを大幅に増やし、HPそのものを武具へと変換する力を持つ。


 モンスタージョブ〈シャドウナイト〉、HP/MPを交換するスキルを持ち、MPを消費することで実体のない剣を作り出すこともできる。


 このふたつの共通点は「消費」だが、この消費には決定的な違いが存在する……〈シャドウナイト〉のジョブスキル〈闇にありて黒きもの〉は、消費MPを記録することでスキル使用のコストとしている。つまり、スキルを使うときにMPがなくても、何の問題もないのである。


 このふたつの組み合わせによって、上げに上げたHPを九割九分消費、その後すべてのMP変換で以てHPを補填、それをもう一度消費することができる。よってディリードは、実際のHP数値をはるかに超えた武具、そしてMP全消費による強力無比な武具を完全融合させることができた。


 もとより、モンスタージョブは肉体と深く融合するものである。ならば、ひとつの依り代に集ったふたつの要素もまた融合する。ちょうど、あの〈ラフィン・ジョーカー〉が、もともと共生するモンスターを基にしたジョブを完全併用することに成功したように。


「……」


 す、と居合いのように切り上げた刃が、森を拓いた。重い音がいくつも続いて、木々が倒れていく。“最強”とただひとこと言われる理由はなぜか……なぜ分野で分けず、群雄割拠とならないのか。それは、誰ひとりとしてこの威力に勝る一撃を繰り出せなかったからである。


「来い」


 天を衝くほどの――高さ数百メートルにまで成長した竜巻は、血の呪怨をビーム状に飛ばす。あやまたず心臓を射貫くが、ディリードは死なない。死亡回避のアクセサリーと自動回復により、最大HPの二割ほどまで回復していたものが消し飛んだだけで済んだ。そして、HPがより減少したことで、一撃の威力がさらに上がる。ゆっくりと塞がりつつある傷は、黒い鎧ごと再生していった。


「……一秒も要らないか」


 眼が星座のように集まり、呪いのエネルギーを集中させる。


 ぐっと力を込めた左から右への横薙ぎ、返しての上段斬り。特技や魔法ではないそれは、星座のように寄り集まった眼をすべて切り裂いた。あまりの威力に呪いがすべて分解され、純粋エネルギーとして大爆発を起こした。


 爆風を浴びながら、ディリードは少し目を細める。


 これならば勝てる、ではない。これならば、彼女はディリードを殺し得る。「水銀同盟」の精鋭があと一人は欲しいところだが、彼女はチーム戦ではそれほど強くない。改めて戦いを申し込むか、と剣を鞘に納めたところで。


「――死んだァ!?」


 半裸の巨漢ロッコンが、素っ頓狂な声をあげた。


「なんだ、いったい」

「フィエルさんが!」

「この余波で、か? 回避技くらいあるだろう」

「違うんだってリーダー、見てよ!」


『何が起きたんやこれ』『矢飛んできてなかった?』『初デスでは』『やれる人いたんか……』『防御薄いとは思ってたけど一撃死?』『マジで何これ』『どうやったんや?』『何も見えんかったくね』『なにだれなんこれ』『あの体勢に何したらああなったんだろ』


 コメント欄は、大混乱だった。


「何が起きた? 説明しろ」








 遡ること一分ほど、フィエルはすでに変身を解いていた。


「某らがお相手仕ろう。配下を名乗るのなら、主君に刃を向ける気概もなくてはならぬ」

「あははっ、そうだよね。ブルさんいいこと言うなー」


 アマルガム陣営、フィエル配下「銘菓ラヴィータ」の四人は、ギリギリまで生き残っていた。もとより生存性能は高い前衛がふたり、火力や攪乱に長ける後衛もいる。


「ハハハ、露払いのつもりがシード戦になってしまうとはね。いつも心にクリームを……! モットー通りに行動してよかった!!」

「なるほど。微妙に減ってると思ったら、よそを狩ってる人もいたんだねー」


 ラヴィータの面々は、この戦いをトーナメント戦のように捉えていた。しかしそうはならず、最初から「水銀同盟」にターゲットが集中し、それを妨害する方が空気を読まないヤツのように言われる始末であった。


「少しずつはいたようだがね、だんだん折れていっちまったねェ。こんな風に! 尊敬する相手に弾ァ撃ち込むことは、考えもせんのだろうかね?」

「そうでなくっちゃね? ほらほら、もっともっと!」

「やっぱり、遊んでくれるお姉ちゃんって感じで! 大好きです!」

「あはははぁ、大好きスラッシュいいよー!」


 同じ幻惑を使う相手には、分身は通じない。今回ばかりは分身を使わず、ボールを跳ねさせてトランポリンするだけに留めているフィエルは――しかしと言うべきかやはりと言うべきか、強かった。


 現実であれば、安全基準から誰もやらないであろう、手での跳躍。そして、空いた手でカードを投げての牽制。空中でくるりと回転しながら手をぱんと叩いてカードを補充し、もう一度手で跳ねた彼女は、きりもみ回転を加えて取り囲もうとした四人の動きを押さえた。


 言葉が止んだときのフィエルは、強い。敵を煽っているときは、勝ちを確信しているからこその強さ……いわば詰みを宣告しているに過ぎない。全力で思考を巡らせ、手順を組み立てて行動するときの彼女は、化け物じみた強さになる。まだ配下やテイムモンスターを使っていないだけ有情で、本当ならば遊びにさえならない。


 上下は目まぐるしく入れ替わり、カードがどう飛んでくるかも分からなくなった。いくら威力が低くても、これほどの頻度で飛んでくれば、ダメージはバカにならない。何より、特技も魔法も的確に封じてきている……先ほど入れ替えた仮面に触れ解を使われてしまうのも、時間の問題だ。


 だからこそ、と四人が解を発動しようとしたそのとき。


「わゃっ」


 片手だけで跳んだフィエルの太ももに、何かが突き刺さった。入射角から測るに、両足の動脈を貫通しているだろう――地面に倒れ込んだフィエルは、ダメージのせいか即死して消滅した。所持品だったボールも、回収されて消える。


「……どこからだ!?」

「一瞬だったから分からん。だが、あの角度……曲射。矢だ」

「防御は薄かったと思う、が」

「フィエルさん、見た目装備だから……たぶん、トータルの防御力二百ないよ。HPもたぶん、三百あるかないか」


 もともと、〈道化師〉の装備には大きな制約があるため、防御を固めることはできない。HPを伸ばすこともできないため、攻撃を受けきれないのは当然だった。


 だが、しかし。


「〈ラフィン・ジョーカー〉が、負けた……」




 この日から、『ストーミング・アイズ』に“最強”や〈ラフィン・ジョーカー〉〈彼岸花〉と並んでもうひとつ……“弓取”という称号がささやかれるようになった。

 ディリードさんの答え合わせ


「(攻撃を受けない手段について)考えなくていい」旨の発言

→受けた方が有利であり、一撃受けても死なないから


「ほとんどのジョブで、MPを消費する攻撃がある」

→HPを消費する攻撃もある


沈黙の刃(サイレンス)

→物理的実体がない剣だから音がしない(めったにしゃべらないのもある)




 万事、プロット作成時点からの予定通りに進んでいますので、ご心配なく。3章ラスボスはこの”弓取”になる予定です。

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