10 パーティーズパーティー
どうぞ。
コメント欄の窓をそのままに、ボールをぽいっと投げ上げる。
「〈ギガントスケール〉」
空中で巨大化したボールは、ズドンッと落下した。もうワンセットのボールも呼び出してから〈は図み軽魔ジック〉を発動し、大きくした方のボールに飛び乗った。
「あっ、これ邪魔じゃない?」
『もうちょっと小っちゃい方がいいかも……』
解除してからもう一度、大きさを直径五十センチくらいに変える。
「それじゃーみんな、どばバフラッシュを!!」
とっこのコールに応えて、敵の攻撃に備えつつ、バフを山盛りにしていく。
「〈アクセルハート〉、と〈ホット・アラーム〉!」「〈マナフィールド〉」「〈追い風〉、〈流水剣〉」『〈ループ・チェイン〉……とフィエル、ちょっとコピーさせて!』「いいよー」
アンナの持つ〈学徒〉は、味方のスキルや特技をコピーして戦うジョブだ。ステータスはそんなに高くならないけど、バランスタイプになったりだいたい何でも装備できたりする、らしい。さっき渡したカードを試してみたいようで、カードの〈ランダマイズ・スロー〉をコピーしていた。
ほんの数秒でも待ちくたびれたと言わんばかりに、巨人が腕を振るう。ちょうど跳ねたタイミングで難を逃れて、アンナといっしょにカードを投げまくった。レーネは刀を振るって針金に傷をつけ、シェリーはちょっとずつビームを撃っている。
「とっこ、最前線でだいじょうぶ!?」
「ご心配なさらずー、これでも〈騎士〉ですので!」
言っているわりに徒手空拳なのは、とっこは全身呪い装備で固めていて、武器を装備しても無駄だからだ。いま装備している〈じゃんけんグローブ〉は、一定時間ごとに左右の手がじゃんけんの形をとる、とんでもない装備だ。剣も盾もほとんど持てないから、自分の体を操作しなければならないVRゲームでも、最悪に近いはずなのだが。
「はっはっはー、呪い装備はうまく使ってこそじゃい! 見よっ、この固さ!!」
『序盤で拾えていい装備じゃないよねぇ……』「だね」
ドゴンッ、と腹の底まで響くような轟音とともに、巨人が吹っ飛ぶ。〈じゃんけんグローブ〉の「両手がじゃんけんの形で固定される」という呪い効果は、ほぼ何も持てなくなる代わりに、効果中グローブの耐久力がいっさい変わらなくなる=手だけ無敵化、という効果も併せ持つ。さっきも、この効果で敵を瞬殺していた。
手足を振り回すだけの巨人に対して、私たちの攻撃は中距離から遠距離、ぜんぜんリーチが違う。攻撃が当たりそうになることはなかった……なんて思っていたのがバレたのか、後ろから針金人形が二体出てきた。
「こっちはあたしに任せてくださいなー。そちら頼みましたぞっ!」
『おっけー!』「わかった!」
空間がぐぐっと広くなったせいで、ボールをもうワンセット出しても余裕がある。これまでボール前提すぎたな、とちょっと反省して、ボールを引っ込めた。
「これまでちゃんと使ってなかったし、今度は剣で行くよ!」
『カードは!?』
「分身するのにカード必要で、分身は実体ないんだけど……ちょっと裏技あるんだよね」
『じゃあコピーしなおさないと……』
青いカードをぱっと投げて、四人に分身する。両手に持った飾剣をくるくる回しながら、バトンっぽい感じでちょっとずつ接近すると、針金人形は本体の私を狙って拳を突き出した。すっと避けると、分身は思いっきり四方向に散開する。
『ふぉー! これいいね、めっちゃ楽しいぜー!』
「でしょ? 今は四人だけど、増えるかもしれないし」
飾剣の攻撃力は、文字通りですごく低い。代わりの「属性効果・付加ダメージアップ」はこれから活きるんだろうけど、そうでなくてもすごいのは――
「行くよ? 『〈朧演刃賜〉!!』」
見た目だけだった剣の分身に、はっきりした強いエネルギーが宿る。すでにコピーしていた〈スクリーンフェイス〉も合わせて、私とアンナが四人ずつ、合計八人まで分身した。そして全員が、エネルギー体の剣を二本持っている。もとは「剣の分身を作る」技だけど、もとから形がある場合は攻撃が当たるようになるだけで済む。にぶい相手なら、当たる剣と当たらない剣で幻惑できそうだ。
「自律行動する分身……さすが〈道化師〉ですね」
「回復の必要ないね、ぜんぜん」
二人が言う通り、〈道化師〉は強い。ダメージも出せるし、避けまくるから回復もぜんぜん必要なかった。パーティーで戦うなら、これがいちばん面白くなりそうだ。
一撃は弱いけど、シェリーが強化してくれているし、アンナも同じくらい攻撃している。針金人形の攻撃は大きい方と同じだから、回避するのは簡単だった。剣そのものよりまとっているオーラの方が強いから、当てなくてもきれいに振り回せて、ちゃんと威力も出る。思っていたよりずっと強い武器だ。
ぜんぜん苦労せずに、針金人形を倒すことができた。ほぼ同時に、大きい方も地響きを立てて倒れる。
「よっしゃー!! 検証完了、敵は強くならないようですぞ」
『おつつ』『連携ガタガタなのに倒せてんのはさすがw』『PTの意味なくて草』『←背中預けられる時点で相当やぞ』『全員強すぎるだろ……』『豪華コラボかと思ったら全員最強だったでござる』『なんやこいつらw』
五人全員、戦い方が個性的すぎてちゃんとパーティープレイにならなかった。ちょっと反省しつつ、コメントを読んでいるとっこを見守る。
「いやー、もう少しばかり改善の余地があるようですなー。しかーし、これでホームゲットですぞ!! スタジオにもできますし、夢が広がりますな」
『だねぇ。じゃあ、摘み取っちゃおう』
バリアはすでに剥がれていた。二人分が終わっていたので、とっこと私、そしてアンナがハサミを使って、ぱちん、ぱちんと「虚空の芽」を切る。しおれた木はぐしゃりと枯れ崩れて消滅し、風景も同じようにぐんにゃりと崩れて、いつの間にか元の場所に戻っていた。
「よかろう。おぬしらに〈虚空の種〉を預けても、心配はなさそうじゃな」
気難しそうな老人の顔が、少しだけほころんだ。手元にあったハサミが念動力か何かのように浮き上がって回収され、老人の手元に収まったかと思うとぱっと消える。
「各地に、これと同じような亀裂と、儂のような守り人がおる。亀裂を閉じれば、そこで手に入った種を持ち帰ってよいのでな……おっと、種をどうするか、言っておらんかったか」
『これも説明おねがい!』
「うむ。〈虚空の種〉は、人の魔力と結びついて、実在せず、干渉もしない空間を芽吹かせるのじゃ。木が一本あるところに木を植えることはできんが、この種を使えば、木の中にいくらでも大きな隠れ家を作れる」
「ホーム作りって言ってたのは、そういうことだったのね」
深くうなずいた老人は、続けて言う。
「むろん、盗賊やならず者のたぐいには渡せん。おぬしら旅人だけじゃ」
「よかった……悪い人が突然出てくることはないんですね」
「旅人が悪に走らなければな。む、言い忘れておったが……人に植える〈虚空の種〉もあってな。〈玉華苑〉というのじゃが、これも渡しておこう」
「アンナ、これが?」
『うん、そーだよぅ』
パワーストーンの本で見た「ガーデンクリスタル」みたいな、中にいろいろ入っている不思議な石が、すうっと全員の手に収まる。
「秘術ゆえ、あまり詳しいことは伝えられん。だが、石ばかり売っている商人がいれば、この中へ植える種を売ってくれるじゃろう。金銭で買えんものもあるのでな、交換用の種が欲しければまた来るのじゃ」
『ありがとね、おじいちゃん!』
サムズアップに応えるようにうなずき、老人はまた焚き火に向けて座り込み、押し黙ってしまった。
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