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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
1章 情華咲き、月にしぶき映す

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1 キャラメイク:ハジケにも文脈があるらしい

 書けそうな目途が立ったので投稿。


 じゃ、どうぞ……

 もうちょっとハジケなさい、と両親から言われたのは、大学に入ってすぐのことだった。そう言われても、すぐに新しい趣味が見つかるでもなく、ちょっと迷っていた。友達に誘われるままにVRゲームを買って、すごいことができそうなタイトルを探してみて……ようやく見つけた。




『おや、迷い人か。最近多いね』

「こんにちは」


 これはご丁寧にどうも、とナビゲートAIは微笑む。白いプレハブ小屋みたいなところに一人、看板頭にスーツの男性がぽつんと座っている。看板に「navigation」と書いていなければ、もうちょっと驚いていたかもしれない。


『ストーミング・アイズの世界へようこそ。ここへ行きつくまで、どんなふうに歩いてきたのか……それと、君の名前を教えてもらっていいかな?』

「えっと、はい」


 何を言っているのかと思ったけど、これもキャラクリエイトの一部らしい。アカネ――「赫祢」という超絶いかつい漢字のせいでいろいろあだ名があったので、とりあえず「めちゃくちゃアツそう」とか言われた記憶から「フィエル」にした。燃料(フューエル)だとそのまま燃え尽きそうだから、ちょっとだけアレンジしてみた形になる。


 名前を入力し終わって出てきた選択肢を見ると、いろいろ面白いことが書いてあった。



[あなたの歩む、これまでとこれからの意志を教えてください。

→使徒

・賢者

・常人

・愚者

・狂妄

※選択の結果は、ゲーム内で変更できません。]



 神に従う理性的な生き方か、何もかもを投げ捨てて狂気に生きるか。“ハジケる”ためには何を選んだらいいんだろうと考えて、私は【愚者の意志】を選ぶことにした。


『なるほど、君は愚者を選ぶんだね。そうは思えないけど』

「今まで、まじめにしてきたので……ちょっとおかしなこともしてみなくちゃって思って」

『ふむ。生き方を変えるために訪れるものも、少なくないね』

「そうなんだ……」


 無難な道を選んできたし、できることだけやってきた。そのための努力だって惜しまなかったけど……母にああやって言われた瞬間、ベストなやり方だけで人生を過ごしていくのが少しだけ怖くなった。ベストでない、ベターですらないものしか選択肢になかったとき、一歩も動けなくなってしまうのではないか――だなんて、考えすぎだけど。


 君のように、とAIは言う。


『そのような道を歩いてきたようには見えないものが、新たな道を行くこともある。正気の人間が狂妄を行くことも、信仰を感じない使徒もいる。だがそれでいい』


 あくまでゲームだからと、性能やなんかで決めている人も多いようだ。べつにおかしなことでもない。


『性能は事前に確認できるよ。本当にそれでいいと思ったら、決定してくれ』

「わかりました」


 性能がどうなるのか、何が起こるのか。ゲームならこのあたりかな、と思って見てみると、いろいろと書いてある。



[意志アビリティ

【愚者の意志】

 金銭の出入りが激しくなり、NPCからの基礎信頼度が低くなる代わりに、魅惑値が大きく上がる。敏捷・器用に補正がかかる代わり、筋力・防御・賢識・幸運にマイナス補正が加わる。


【ひどい手癖】

 価値のあるアイテムを、同じレアリティの消費アイテムに変化させられる。とくに価値の高いアイテムが優先される。変化後のアイテムはすべて[贋作]に分類され、一度使用すると完全破損する。


【愚かな賭け】

 敵対者すべてが強くなる代わり、獲得できる金銭・アイテムが質・量ともに大幅に増加する。パーティー全体に作用する。]



 すごく偏る代わりに、得られるものは大きくなる……みたいな、自分が強くなくてもいい意志のようだった。【狂妄の意志】だとNPCから信頼されないどころか街に入れなかったり、【使徒の意志】では魅惑値がゼロで固定だったりするらしい。意志選びを間違えると、ほかにいろいろ支障が出そうだった。クセはあるけど「~できない・ゼロになる」とは書かれていない愚者は、まだマシみたいだ。


「これにします!」

『わかった。君の意志で歩く道に、幸多からんことを祈ろう』


 これで終わりみたいなことを言いだしつつ、AIはマネキンみたいなものを出した。


『さて、あちらに行くための自分の姿を作ってもらいたい。鏡を見ながらでは少し難しいからね、こうして形を外側から変えられるようにしているんだ。もちろん、作った形におかしなところがないか、途中で動かしてみることもできる』

「なる、ほど……?」


 女子は自分視点でメイクすることが多いはずだけど、そういうことに慣れていない男性向けに作ったらこうなる、ということかもしれない。でも、髪の毛の広がりや身長体重あたりを途中で確かめられるのはアリだ。


『ちなみに、なのだが。意志の種類によって、絶対に身につける必要があるアイテムが追加されることがある。君が選んだ【愚者の意志】の場合は、仮面だ』

「え、先に言ってくれればいいのに」

『すまない』


 いちおう、まだ意志の選択はやり直せるようだった。


 人から始まり、鳥、獣、魚、虫に花に物品に千景にと、見ているだけでも面白い。あれこれと贅沢に盛りまくって、夕焼けの海に古代魚と流れ星、というすごいものが出来上がった。さらに、仮面はもうひとつ追加できるらしい。


「追加しても何もないですか?」

『いろいろと面白いオプションが付く。レベルアップが遅くなるが、やって損することはないだろうね』

「やってみようかな……」

『チュートリアルは、文字でも確認できるぞ。説明が足りていないときは、そちらも見てくれると助かる』


 今度はブーツと聖堂と鳥を合わせる……鳥はペンギンを選んだけど、「さすがにこれはできなさそう」と思った組み合わせがきちんと形になっていて、ちょっと空恐ろしいものがあった。


「あ、体作ってないや」

『時間をかけてもいい』


 ごくふつうの体形はそのままにして、身長をちょっとだけ伸ばし、少し派手めの顔にした。これだけで印象はガラッと変わる。もとから黒い髪の毛には紫のメッシュを入れて、ミディアムボブくらいの長さに整える。どうせならと思って、右をレモン色、左はイナズマ入りの紫の瞳で、オッドアイにしてみた。


「あの! 仮面ふたつ、それぞれ右目と左目隠すのってできますか?」

『いい考えだね! オーダーしてごらん』


 再生成の条件に「片目を隠す」を入力して、仮面を作る。作った体の中に入ってそれぞれの仮面を付けてみると、視界は確保しつつ、鏡に映る顔も面白いことになっていた。これこそ、私が求めていたハジケた私だ。


『さて。最後に職業を決めよう』

「え、働くんですか」

『いや、そうではない。〈職業〉を決めると、ステータスの傾向や習得できる特技、扱える武器を決められる。ジョブクエストを受けると、その職業でしかできない「仕事」もできるがね』

「そういうものなんですね」


 ファンタジーにありがちな〈騎士〉とか〈戦士〉〈魔法使い〉が並んでいるけど、適性を見ると「低」と出ている。意志との相性をチェックしてソートを並べ直すと、〈斥候〉〈忍者〉なんかの速そうな職業がずらっと出てきた。


 いちばん面白そうな、そして好適性の〈道化師〉を選ぶ。手近にあった姿見に映る自分の姿が、ド派手に変わる――白いエナメルのレオタードに薄めのタイツ、細めのカチューシャにちょこんと乗った、純白の小さなシルクハット。バニーガールと道化師の中間のような、今まで一度も着たこともないような服に、テンションが一気にブチ上がった。


「おぉー。私じゃないみたい……!」

『変身願望はある程度果たされた、ということかな』


 ノンデリな言葉を聞き流して、『未設定の項目があります』というエラーメッセージのことを聞く。


「これ、なんですか?」

『どうやら、仮面を付ける場所を設定していないから、のようだね。どこにしようか』

「いつも付けてなきゃいけないんですね」

『そういうルールなんだ』


 古代魚の仮面は左のこめかみより少し後ろにつける。ブーツの仮面は、少し迷ってから、バニースーツの腰のところにあるひもにくっつけた。


「ぃよし!」

『これでいいかな?』


 勢いよく「はい!」と答えると、AIは微笑んだ。


『いざ、旅立ちと行こうか』

「いってきます!」


 すうっと風景が溶けて、私はいつの間にか街角に立っていた。

 設定を作りすぎたので設定集も投稿します。簡易的なものはあとがきに置くこともあるかも。作者ページからでもアクセスしてくださいな。

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