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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 99

「何も話すな、などとは言いません。優先順位を間違えるな、と言うとるんです。娘さんの目の前で倒れた母親を安静にさせる方が先でしょうが」


くどくどくどくどく・・・ん?どく?違う、くどくど。


副王大臣ネルガスさんのお説教はまだ続いてる。


その前には正座した従者トリオ。


このネルガスさん、エルフママさんが気を失うと外に居た護衛の人を呼んでテキパキと指示を出し、みるみるうちにその場を整理してしまった。


ここまでほんの五分程度。でもお説教は十分以上続いてる。


「ですから、あなた方はもっと神の使いに仕える身だという事を」


「ううん・・・」


「あ、ママ起きたぁ。ねぇ、ママ起きたよ」


お店の奥の長椅子に寝かせられたエルフママさんが小さく声を出すと、ルノちゃんがトコトコと教えに来てくれた。


「あらっ!ほらネルガスっ!ルノちゃんのママ起きたわよっ!」


「・・・まったく。アンタは後でキトル様のお迎えに言った件の説教がありますからね」


「うぅっ」


すごいな~あのイケイケ爆走系なエルヴァンさんも黙るんだねぇ。


「なんで俺らまで・・・」


よろよろとナイトが立ち上がる。ヘブンはまだ座ったまま・・・ん?これ寝てるな。とりあえず抱っこしとこ。


「先にエルフママさん寝かせてあげないからだよ~だ。えいっ!」


ナイトの足を指でツンツン。


「ぐあっ!キトル様やめてぇ・・・しびれてるんすよぉ~」


「わかっててやってるのさっ!」


ナイトを追いかけながらお店の奥の方に移動すると、エルフママさんがヨロヨロと起き上がろうとしている。


「も、申し訳ありません・・・この頃、身体に力が入らないことが多くて・・・」


「その事ですが、こちらのお嬢さんが果物のせいだとおっしゃっていましてね。詳しくお話を伺いたいのですが」


ネルガスさんが片膝をついて優しい声色で話しかける。お説教モードの時とえらい違いだね。


「果物?ああ、あの!ええと、そう言われると確かに時期はあってますが・・・。でもその前から魔力枯れで寝込むことはあったので、そのせいかと」


「違うよ~!前のママが寝る時はふにゃ~って感じだけど、今のママはふらぁ~だもんっ!あの果物のせいだよ」


ルノちゃんが両手をパタパタと動かしながら一生懸命伝えようとしている。


「またあなたはそんなこと言って・・・自分が食べられないからじゃないの?」


「違うもんっ!ルノあんな変な色のブドウ食べないよっ!」


ブドウ?お酒の材料・・・?あ、ワインの事か。


「キトル様、ブドウって何すか?」


「あれ?ナイト知らないの?」


作った事なかったっけ?


「こういうので~こういっぱい成ってて~」


空中に指で描いて見せる。


「あ、キョホウの事っすか?」


・・・YOUはWHY巨峰知ってる?


「アルカニアのダンデ公爵様の領地で作って回ったじゃないっすか」


・・・あ~そうだね、そうだった。なんかいっぱい果物作ったね。


「ブドウはセレナちゃんがお酒用にって作ってくれたからフロストリアの名産品なんだけど、キトルちゃんも作っちゃったのォ?」


エルヴァンさんがジロ~ッと見てくる。


「大丈夫ですよ、品種が違いますから。でもルノちゃん、変な色のブドウって何色だったの?」


ルノちゃんの小さなお手手がすっと窓を指差す。


「今日のお空の色」


・・・?お空?水色?!


「それは変な色だねぇ」


「・・・おかしいな」「おかしいっすね」「そうね、おかしいわ」


ネルガスさんとナイト、エルヴァンさんが同じようにアゴに手をやり考え込み始める。


ねえ、そのポーズこの国でも流行ってんの?


「このフロストリアで作られているブドウは全て把握しておりますし、深い赤色と透明感のある淡い黄緑のものだけで、そのような色はしていないはずですが」


ネルガスさんが首をかしげる。


「アルカニアでもキトル様が濃い紫色のキョホウを作られたぐらいで、他の国でもブドウと言う名の果物は聞いた事ないんすよね」


ナイトが反対側に首をかしげる。


「そうそう、そうなのよね。アタシもおかしいと思ったのよね」


エルヴァンさんが二人を交互に見ている。これ多分わかってないな。


「ね、ルノちゃんママさん、その水色のブドウって残ってませんか?」


「え?あ、どうかしら・・・。味見させてもらったあと、村長の家で試しに醸造してみると言ってましたけど」


ネルガスさんがすぐさま護衛の人に指示を出し、一人が外へと飛び出して行く。この人シゴデキだな。


「お嬢さんが、そのブドウを持ってきた、と言っていたのですが、誰かが持ち込んだのですか?」


「ええ、商人さんが珍しいものを手に入れたからワインを作ってくれないか、と持って来られまして。とても綺麗な色だったので、この色のワインが作れれば美しいね、と話していたんです。でも、本当にブドウのせいなんですか?ただの魔力枯れだと思うんですが・・・」


ネルガスさんがチラリとエルヴァンさんを見やるとエルフママさんに向き直る。


「村長には伝えておりますが、わたくしは副王大臣のネルガス・グランフェル、これは国王陛下のエルヴァン・フロスティアールで、すでにこの村は数日前に魔力補充が行われているのですよ」


「これって何よォ、これってぇ」


オネエ陛下が口を尖らせてる。


「えっ・・・へ、陛下・・・っ?!」


両手を口に当てて言葉が出ない様子のエルフママさん。そりゃこんなクネクネしたのが国王様だとは思わないよね。わかるよ~。


すると、エルヴァンさんが私をチラッと見る。


「ち~な~み~にぃ」


あ、ヤな予感。


エルヴァンさんにグイっと脇の下から持ち上げられ、空中で足をプランプランされる。


「この子が今代の緑の使徒様よっ!この子が来たからにはもう大丈夫!ねっ!キトルちゃん♡」


「ははは・・・そうですね。なんとかしますわ~」


とりあえず安請け合い。病人を不安にさせちゃ良くないからね。


「緑の使徒様・・・?あらまぁ、こんな小さな子が?ルノミアーリィとそれほど変わらないでしょうに」


おいおいママさん?私ゃ八歳だよ?ルノちゃんと一緒にされちゃ困るぜぇ?


「お姉ちゃんシトさまなの?」


ルノちゃんが私の服の裾をクイクイと引っ張ってくる。


「そうだよ~。ルノちゃん使徒って知ってるの?偉いね〜」


「ううん、知らない」


ガクッ。知らないんかい。


「シトさまは何する人なの?」


「えっとね〜、色んな植物を生やしたり、ママが治るお薬も作れるよ〜」


「あ、そっか、キトルちゃんも『治癒の花束』が作れるのね」


・・・ん?


「治癒の何とかって何ですか?」


「あれ?違った?セレナちゃんは病気の人とかを治す時に『治癒の花束』っていうのを作ってたのよ~」


治癒の花束・・・何それカッコ可愛い!


「どういうのなんですか?」


「ん~とねぇ、具合の悪い人が持つと、その症状に合わせたお薬の花粉を持った花を咲かせるのよ。このくらいの小さな白い花がいっぱい咲いてる花束で、その人によって色が変わるの」


そう言いながら親指と人差し指を近づけて見せる。めっちゃ小さいね。白だし、イメージはカスミソウかな?


両手を前に出して、カスミソウにプラスの効果を付けていく。その人それぞれに合った処方薬を、花粉として作ってくれるお薬・・・


「あらっ!出来るんじゃないの~!久しぶりに見たけどキトルちゃんもお見事ねぇ」


私とエルヴァンさんの間の空中にはカスミソウが束になって浮かんでいる。


「キトル様のやつより可憐ですね」


ナイトがニヤニヤしてやがる。


「いいの、私のは実用性重視だもん」


「あら、キトルちゃんのは違うタイプなのね。どういうのなの?」


「えっと・・・こういうのです」


先ほどと同じように手を出し、しずく型のお薬のエリ草バージョンを作るとエルヴァンさんに手渡す。


「これを、こう鼻にズブッと指して、握って薬を鼻から注入するんです」


「・・・そ、そう、なんだかすごいのね・・・」


え?!まさか引かれてる?!オネエルフ陛下に?!


「で、でもっこれ中身エリ草なんd」「エリクサーです」


ナイトが横から訂正する。


「それなんでっ!すぐ効くし、どんな病気や毒にも対応出来ますよっ!かのドラゴンがナントカの黒種って毒を受けた時も、コレで即回復した優れものっ!これさえあれば安心ですっ!」


・・・なんか通販番組みたいになっちゃった。勢いよくオススメしてみたものの、喋り終わるとちょっと恥ずかしくなってきた。


「黒種の毒?まさか、呪毒の黒種の事ですか?それをドラゴン様が受けたとは・・・キトル様、詳しくお話を聞かせて頂きましょうか?」


ひぇ~っ!ネルガスさんが説教モードの時の顔になってるっ!


こ、これ、私も正座しなきゃいけないやつなんじゃないの~っ?!

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