エピソード 31
「ねぇナイト、アレは何?」
「アレはネフタロスの串揚げですね。ほら、黒い煙が出てますし」
「・・・あっちのは?」
「アルバンクっていうスナックです。一気に食べたら口から火を吹きますよ」
ヤバい、何が何だかわからない。
見た目と匂いは美味しそうなんだけど、素材が何かがわからない。
「野菜とか果物は不作だしあんまりないんだよね?って事は、材料はお肉なの・・・?」
「ん〜肉とか魔物肉のやつも中にはありますけど、ほとんどは違うんじゃないっすかね?」
「肉じゃないなら何?!何から出来てるの?!」
怖すぎるんだけど?!
「魔法とか錬金術とか、人工的なやつじゃないっすか?栄養あるのとか腹が膨れるのはちゃんとしたレストランとかじゃないと食えませんし」
あ〜・・・?なるほど、そういう感じなのね。
つまり、屋台の食べ物はただ味や食感を楽しむためだけの物って事か。
「そっか、キトル様も王都初めてですもんね」
「お店がある所を歩くのも初めてだよ」
「あれ?!そうでしたっけ?!じゃあわかんないっすよね」
そういえば、こんなに異世界らしい場所に来るのも初めてだな〜。
「ナイトさん!決めました!僕アレが食べたいです!」
ブランが指差したのは、見た目は普通の串団子。
「おっ!お目が高いっすね〜。メルグノの串団子は一個ずつ味も食感も違うんで、楽しいっすよ〜」
「ナイト!私も食べる!」
「ワタクシも!ワタクシも!」
ナイトが笑いながら「はいはい」って四本買って来てくれる。
「せ〜のっ!」
パクッ
「あ、甘〜い!」
「辛い!何よこれ〜!」
「ワタクシのは・・・酸っぱいです・・・」
「俺のこれ、何味だ?」
異世界の屋台、楽し〜い!!
その後も、
歯応えがシャキシャキで断面がたまに虹色になるバルゴットの串巻きを食べたり、
小瓶に入ったベラノージュの甘蜜を飲んでしばらく目が光ったり。
しばらく異世界の屋台を楽しんだ後、ちょっとした広場の噴水の縁に腰かけて一休み。
手にはミュゼラードが入ったコップ。パチパチ弾ける炭酸ジュースみたいな飲み物だけど、自分の気分で味が変わるからこれまた面白い。
「あぁ〜いっぱい食べた〜楽しい〜」
「王都ってすごいね・・・」
「ワタクシ小さくなれて良かったです!大きいとお店に尻尾が当たりますもんね!」
あ〜確かに・・・。
さて、とナイトが立ち上がる。
「じゃあそろそろパール様の言われたお店に」
「あっ!キトル!あのお店!」
ブランが指差したのは、何だか立派なお店。
「何のお店?レストラン?」
ブランが走り出す。
「あのお店にいるの、馬車に乗せて来てくれた人!」
あらまっ!ブランの恩人ね!
それは妹として挨拶しなければ。
ブランがお店の前にいる太っちょなおじさんを呼びながら駆け寄る。
「モルドさ〜ん!」
振り向いたのは、口髭生やしたそれはそれは人の良さそうなおじさん。
「ブランくん!この前はどうだったかな?やっぱり妹さんは使徒様じゃなかっただろう?」
「こんにちは!兄さんをここまで連れて来てくれて、ありがとうございます!」
おじさんはニコニコしたままこっちを見る。
「おぉ、妹さんかな?ブランくんと会えてええええええええええ?!し、し、使徒様ぁ?!」
おぉ、芸人ばりのリアクション!
おじさんが大声出したもんだから、近くに居た人たちが「使徒様?」「どこどこ?」ってざわめき出した。
「ちょっ、ちょ、ちょっとこっちに!!」
おじさんに促され、お店の中に入る。
「ブ、ブランくん、ホントに使徒様のお兄さんだったのかい?!あっ!肩に乗せてた従者の人!あっ!ワンコまでっ!」
このおじさん面白いなぁ〜。
「うわぁ・・・本物だ・・・あっ!使徒様!ありがとうございます!」
ん?お礼言われたんだけど、何が?
「あの、こちらこそなんですが・・・」
「あっ、いえね、この前の偽物騒ぎの時、私も見に行ったんですけど、あの青い木の実投げたでしょ?アレがちょうど目の前に落ちたもんだから拾って食べたら、ずっとメガネが手放せなかったのに、ほら!今はもう本読む時くらいしか使わないんですよ!」
あ〜ブルーベリーね。おばあちゃんの目が見えるようになったくらいだしねぇ。
「キトル、木の実投げたの?」
あ、そうだ、ブランは知らないんだった。
「あ〜いや、私が投げたんじゃないんだけど、私が作ったし、端的に言うと私が投げたような」
「投げちゃダメだよ?食べ物は大事にしなきゃ」
「・・・はい」
ナイトがニヤニヤしてる。君も同罪だからな?
「はぁ〜、本当にお兄さんなんだねぇ。いや、無事に会えて良かったよ!気になってたから、今日会えてホッとした!」
「モルドさん、本当にありがとうございました!おかげさまで妹にも会えたし、このまま王都に住まわせてもらえるようになったし・・・モルドさんに会えてから、良い事ばっかりです!」
「いやいや私なんて大した事してないよ。そうか、ブランくんは使徒様と行かず、王都に住むんだね」
「はい!」
「そうか、そうなのかぁ・・・そうか。うん、私は商人だからね。せっかくまた会えたんだし、ブランくんを乗せたお礼でもしてもらおうかな?ちょっと待っててくれるかい?」
ニヤリと笑ってそう言い残すと、お店の奥に入って行く。
「キトル様、あの人大丈夫っすかね?」
ナイトが小声で聞いてきた。
「ん?何が?」
「王様が言ってたじゃないっすか。使徒様を利用しようとする輩はそこら中にいるって」
あ〜悪い人かもしれないって事か?
「一応警戒しといた方がいいんじゃないっすか?」
「ん〜・・・多分、大丈夫。何となくだけどね」
「・・・キトル様が言うなら、まぁそうなんすかね」
「いいよ、ナイトはずっと警戒しててよ。私が騙されそうになったら止めてもらわないとね〜」
嬉しいような困ったような顔でナイトが笑ったタイミングでおじさんが戻ってきた。
その手には、ネックレスが二つ?
「コレをね、貰って欲しいんだ」
ブランと私に一個ずつ渡す。
「ブランくんは王都に住むんだろう?という事は、世界を巡る使徒様とは離れるわけだ。だから、コレがあると良いかと思ってね」
ネックレスのペンダントには、透明なダイヤモンドのような大きな石が付いている。
覗き込んだナイトが驚いて口を開いた。
「え!これ魔石結晶じゃないっすか?!」
「「魔石結晶?」」
ブランとハモる。
ブランの持ってるネックレスのペンダントを見せながら、おじさんが説明し始める。
「コレはね、記憶した場所にしか手紙を届けられない魔法鳥とは違い、どんな場所に居てもこの石を持ってる相手となら会話が出来るんだ。ほら、お互いでペンダントを握って、何か話してごらん?」
ペンダントの石を握る。
「兄さん?」
『キトル?』
頭の中にブランの声が響く。
わ!びっくりした!
頭の中に直接聞こえるんだ!
「お互いが握ってないと会話は出来ないから、時間を決めて話すか、タイミングが合わなければ声だけを届ける事も出来るからね」
なるほど、留守録機能付きなのね。便利だなぁ。
「コレ・・・めっちゃ希少な石っすよね?」
ナイトが恐る恐る聞く。
「そうだね、この辺の店でツテがあるのはウチくらいだろうし、ウチも今はこの一組しか取り扱ってないしね」
「「えぇ?!こんなの貰えません!」」
またハモった。
「大丈夫さ。ブランくんも使徒様も、その歳で離れ離れになるんだ。コレがあれば、ちょっとは淋しくないだろう?」
なんでなんでなんでっ?!良い人過ぎるんだけど!
「ただ、言っただろう?ちゃんとお礼はしてもらうって。見返りを期待してるから渡すのさ」
「み、見返り・・・?」
「そう。その見返りに・・・」
ゴクリ。
「お店の看板に、『使徒様御用達』って書いてもいいかい?!」
え、そ、そんな事?
「何も渡さずに書いたんじゃ詐欺になるだろう?!ちゃんと使ってもらえる物だし、お客さんにも堂々と言いふらせるじゃないか!使徒様が使ってる物を売ってるお店だなんて、それだけで商売繁盛間違い無しだからね!」
パチンってウインクしてみせる。
も〜!お茶目なおじさん、良い人過ぎるんじゃないの〜?!




