第15話
―――ベル―――
「ちょっとまてライブ君だっけ? ちょっと話をぉ!?」
問答無用というように振り下ろされた棍棒を、ラビ君は転がりながら避ける。それを追尾するようにどんどんとオーガは手に持った棍棒をラビ君に向けて振り下ろしていく。
「ちょ! ま! はなしを!」
ゴロゴロと転がりながらラビ君は必死に振り下ろされる棍棒を避ける。
「まてって……」
やがてパッと立ち上がり、お得意のスキルを使って高く飛ぶ。そうして、空中で跳ねて……
「いってんだろうがこのやろぉ!」
顔面に飛び蹴りをお見舞いした。スタッとラビ君は華麗に着地し、オーガの方はのけぞったまま動かない。……やがてギギギという音が聞こえそうな感じに首を動かして、ラビ君を見る。そして……。
「ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
大きく口を上げて、咆哮した。
「……効いてない?」
むしろ怒らせちゃったみたいだよラビ君。
「ま、まぁまてあれだ。落ち着いて話をしようライブ君。俺たちはわかり合える」
「ギャォオオオ!」
「……聞く耳ないですかそうですか!」
そうしてラビ君はかかとを返して走り出す。対してオーガは棍棒を振り上げながら追いかける。逃げては追っての鬼ごっこが繰り広げられている中……私はというと……。
「(え!? なんでラビ君がエントリーしてくれたの!? それって私を選んでくれたってこと? え!? どういうこと!? どういうことなの!?)」
混乱しておりました。本当にどういうことでしょうかラビ君! しかし当のラビ君は鬼ごっこの真っ最中。その真意を確かめることはできない。かくなる上は早くラビ君に試合を決めてもらってその真意を尋ねなければ……!
「うぉおおおおおおくんなぁああああ!」
……大丈夫かな、ラビ君。さっきから逃げ回ってばっかり、たまに飛び蹴りで反撃してるけど、あんまり効いてなさそう。
「兎さーん! がんばれー!」
「お兄さん頑張って!」
観客席からはヒナとサイカの応援する声が聞こえる。ヒナはわかるけど……人見知りのサイカがあんな大きな声を出すなんて……。よし、私も応援しよ。今はそれくらいしかできないし。
「ラビ君がんばって! オーガなんか倒しちゃって!」
―――ラビ―――
うぉおしぬしぬ。ちょっと待てよ運営さん。こんなデカブツ相手に素手で勝負しろとか冗談きっついですよ。ステータス減少はないけどムリゲーですやん。すでに何度蹴りを入れたことか……。
「うさぎさーん! がんばれー!」
「お兄さん頑張って!」
しかし負けられん。二人に健気に応援されて、無様な姿は晒せん。そしてなにより、この応援が俺の力に……っ!
「ラビ君頑張って! オーガなんか倒しちゃって!」
『《使役》スキルが使用されました。任務遂行のためにステータスがブーストされます』
ワッツ? ステータスブーストとな? 確認したいところだけどいま止まれないんだよねぇ。……あ、そうだ。
「《ハイジャンプ》! ……《エアジャンプ》っと」
オーガの手の届かないあたりまで飛び上がり、エアジャンプを使って滞空する。最初からこうすればよかった。さてさてステータス確認っと……。
「えーなになに? 使役スキルの効果によってステータス3割アップの補正……ファッ!?」
何それ怖い。何それ怖い。大事なことなので二回言いました。使役つっよ。……あ、もともと弱いペットモンスターを対象にするやつだからこれでちょうどいいのか? やっぱ獣人ペットは謎が多い。……でもまぁこれで。
「《エアジャンプ》! そして、鎌はないけど大鎌キック!」
降下しながらオーガの顔面にライダーキックモドキをぶつけてやった。今までは少しのけぞるくらいだったオーガは、それをもろに受け、ゆっくりと後ろへと倒れていく。大の字に倒れこんだオーガの目は、渦巻き状になっていた。初期のポOモンかと。
『……あ、終わっちゃいました? すいませんこちらももうちょっとで終わるのでしばらくおまちくださ……だめですか。しかたないですね』
司会役さん、あなたは何を終わらせるつもりだったんだ。
『それでは、オーガの戦闘不能により、勝者ベル・PlayRabbitとなります……あ、PlayRabbitさんの鎌はあなたの敗退までお借りしますね』
アッハイ。どうぞどうぞ。なんか血みたいな物がついてるけどあらって返してくれればいいですから。
『こちらとしてもなかなか異色のプレイヤーですから、このまま勝ち進んで場を盛り上げてくれると助かります』
負けるなってことですねわかります。
アオイです。
時が立つのは早いもので、もう明日から夏休みは終わり講義が再開されます。
……はい、夏休みが終わります。夏休みが終わります。絶望的な事なので二回言いました。
ただ家でゴロゴロしているだけの虚しい夏休みだったけど、終わるのは悲しいものです。
明日から大学か……やだなぁ……。本当にやだなぁ!




